第8話
「はぁ…………。疲れた」
おいシャルロット。
それは俺が先に言いたかったんだけど。
なんで俺は自分の分身にベッド占領されてんだろう。
俺もシャルロットも大して体デカくないから二人並んでも寝られるけど。よく考えなくても同衾した記憶はない。
てか、人に指示仰いで自分は動いてただけのくせになんで俺より疲れてんだこいつ。
「……魔獣、ってみんなあんなのばっかりなのかな」
何を思ったのかシャルロットは突然そんなことを呟いた。
「人に害を加える存在ってのは確かなんじゃなかったかな。他具体的にどういう存在なのかあんま知らない……というか、資料がなさすぎる。真面目に調べるなら公爵家に乗り込むくらいの気概は欲しいだろうし……」
「……やる?」
「やんねえよ」
いやまあ出来ないことはないだろうけど?
わざわざそんなリスク犯してまで魔獣について調べようとは思わない。
そもそも魔獣については、一般的には公表されてない情報が多すぎる。
「どこから来て、どういう過程であんな姿になったんだろう……」
「さあな」
それを考えるのは俺たちのすることでは無いのだろう。
どこかの誰かが情報を隠そうとしてる可能性も大いにあるけど……まあ、魔獣なんて滅多なことじゃ出現しないし、情報そのものが少ない可能性もある。
町中の様子を見た感じだと、突然ソコに現れて暴れだした、って印象だった。
あの暴力装置みたいな化け物が移動した後に残るのはせいぜい建物の残骸だけだろうけど、奴が移動して街を破壊して回ったような形跡は無かったから。
「案外、普通の動物が何かの拍子に暴走しただけだったりしてな」
なんて冗談を言ったら、シャルは素早く視線を向けてきた。
「……鵜呑みにすんなよ」
「それあるかも。私たちが知らないだけで、魔獣は元々普通の動物、とかありそう」
あるかなぁ、そんな事。俺が言い出したことだけども。
「ほら魔術の……聖と魔の話あるでしょ。この世界は肉体と魂で別々に生命力が存在してる」
「あぁ……それが?」
「“魔”の作用次第では、肉体だけが変質することもあるかも知れない」
なるほど、そう言う話か。
「そっか。練気だって、言っちゃえば魔を作用させて肉体を強固にしてるわけだもんな。考え方、やり方次第で肉体の変質は確かにできるかも知れないか。俺の“魔力”のことも考えると」
「……私?」
「精霊がどんな物なのかあんま分かってないけど、少なくとも魔力は“聖と魔”の両方の性質を利用してるものだろ? んで、シャルロットは俺の魔力だけど実際に“練気”が使える。つまり“魔”は宿ってるし、概念的には生き物である以上は“聖”も持ち合わせてるはずだからな」
俺の“魔力”によって物理的に人間という存在を生成させられるのだから、何かの拍子に生き物の身体が異形になっても別に納得できる気がする。
……つまりやろうと思えば“練気”の応用で肉体を変質させることも可能なのでは……?
「何考えてんのジル」
「あ、いや。なんでもない」
もし出来るとしても戻れるか分からないし、まあ、とりあえず今はやらないよそんなこと。
ただ、俺はなにか目的を持ってこの世界で生活してるわけでもないから、そういう研究みたいな事に没頭してみるのも面白いかも知れないな、とは思ってる。
「つーか、案外謎多いんだよな……この世界」
「謎というより、文明の割に科学が発展してないって感じ」
そこそこ近代的な人々の生活環境はあるが、貴族が情報や技術を独占したり、国ではなく街単位で情報が閉鎖されてたりすることが多いせいで、文明の発展もかなりまばらだ。
帝国の都市は全体的に文明レベルが高めなので、前世と比べてもそこまで生活に苦労はしてない。
その一方で、まあ退屈といえば退屈だ。
娯楽が少ないから訓練に身を投じる、みたいな感じの日々を送ることになってる。
どこぞの物語で異世界転生するやつらはなんでいっつも強キャラみたいになるのかと疑問には思ってたけど、退屈しのぎで他にやることが思い付かないんだろうなって実感してる。
「なあシャル」
「……何?」
「試しに今度から、本気で訓練してみるか」
「本気で……って言うと?」
「だから、真面目に訓練してみようかって」
「……真面目にやってなかったの?」
「いや……そもそも俺ら、真面目にやるようなことやってなくない?」
「…………確かに」
俺たち実はジアイザに自由にやっていいと言われている。
エステリーゼとの模擬戦もしてないし、日課みたいな形で日常的に練気の訓練みたいなことはしてるけど、他に何か特別なことをしてる訳でもない。
シャルロットも大したことはやってないし。
「……で、具体的になにするの?」
「んー……俺とシャルロットで毎日模擬戦するとか」
「それ変な癖ついたりしない?」
「とりあえず色々やってみようよ」
多分、この世界は世間一般に広まってないだけで割と危険な世界だ。
これは魔獣という脅威を間近にみた上での、ちょっと感じた印象。
つーか、普通に暮らしてるところに突然あんなのが出現するなんて俺は知らなかったからな?
とはいえ七年だ。
七年はなにもなく平和に暮らせてた。
平和な世界、ってのは確かに間違いないと思う……けどね。
「ま、明日から考えてみないか?」
「……別に良いけど」
「なら決まりで」
とすると、まずなにから始めようか。
模擬戦はやってみるとして、やるならエステリーゼ辺りに見つからない裏山がいいかな。
二人で剣術の訓練ってのもなんか非効率な気がしなくもないし、俺他にも使う武器考えてみようか。
偶にでいいから、さっき考えてた練気の派生技とかも色々試してみるのはアリだ。
シャルロットがやれば本体の俺は無事だろうし、って考えるのはなんかゲスいけど……そこは仕方ないよな。あんまりリスク取れないし。
「あ、でも」
「ん?」
「……エステリーゼのこと、結局どうするの?」
「あー……」
確かにどうしよう。
文字通りの「特訓」は多分その内バレるからまあどうでもいいとして、一つ気になることがある。
「多分だけどさ、公爵様ってそろそろ俺とエステルのこと遠ざけると思うんだよ」
「淑女としての教育ちゃんとしないと、帝都行くとき話にならないしね」
「そうそう。だからさ……いっそ放置でも良くないか?」
「私たちと公爵はそれでいいだろうけど、エステリーゼはそれで良いとは考えないよ」
エステルの都合考えてたら話になんないだろ。
ため息交じりに窓の外を見ると、空がかなり暗くなっていた。
「……この話、また後でいい?」
シャルロットの言葉に、俺は頷いた。
「それもそうだな」
ジアイザとアルファールは帰って来るの遅くなりそうだし、アインはあんな調子だし、先に夜ご飯準備しとこう。
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