第15話 星環ノ初撃
壇上に立つセドリック・ヴェイルハルトは、一拍置いて視線を巡らせた。
その双眸に宿るのは、冷たさでも優しさでもない――ただ、圧倒的な存在感だった。言葉を発する前から、空気が変わる。まるでこの空間そのものが、彼を中心に静かに回り始めたような錯覚すら覚える。
「このクラス対抗戦は、単なる娯楽や競技ではない」
重みのある声が、場内に響き渡る。ざわめいていた生徒達が自然と静まり返る。
「これは、君たちが召還士としての一歩を踏み出す儀式だ。力を示し、誇りを示し、そして、君たち自身を問い直す場でもある」
セドリックの言葉に、誰もが思わず息を飲んでいた。その口調は決して荒々しくはない。だが、言葉ひとつひとつに削ぎ落とされた鋼のような迫力が宿っていた。
「敗北を恐れるな。しかし、勝利に驕ることもない。求められるのは、結果と覚悟。ただそれだけです」
その言葉を最後に、セドリックはゆっくりと壇上を降りた。何も言わず、何も背負わせず、それでいて、確かに全員の心に何かを残して。
「では、早速だが第一試合、Eクラス対Dクラス、Cクラス対Bクラス。準備が整い次第、それぞれ演習場α、βへ移動せよ」
教師のアナウンスが入り、選手たちの周囲に結界が展開される。
淡い光が足元を包み、転送陣の起動を告げる魔力音が響いた。
「……行こう、ルク」
「ええ、レイン。いよいよですね」
レイン・クロフォードとセフィルス・ルクレティアは静かに頷き、歩み出す。
その先に待つのは、初めてのクラス対抗戦。そして、初めての証明の場だった。
――星環クラス対抗戦、第一試合。今、始まる。
◆
実技演習棟にある、演習場αと呼ばれる空間。
二人が転送された場所には、既に生徒達が観客席で待ち侘びていた。
演習場αは、余計な装飾ひとつない、ただの平坦な空間だった。土と石でならされた大地に、壁も遮蔽物もない。
視界を遮るもののないその環境が、かえって誤魔化しのきかない真剣勝負を際立たせていた。
Aクラス対Sクラスの試合がまだだからなのか、皆が噂の剣士の実力を測ろうと想定よりも多い数で観客が溢れている。
「あれがEクラスの……」
「噂の剣士!」
観客席のあちこちで、ひそやかな声が交錯していた。
レイン達の先にいるのは、今回の対戦相手。
ノエル・アシュレイとカイ・ラグナードの二人だ。彼等は互いにストレッチをしながら、カイに関しては余裕そうな表情を浮かべて、レインを見つめている。
「さすが剣士サマ。噂だけは立派だな?」
レインと目があったのを確認すると、カイは前と同じように挑発的な態度でレインに話しかけた。
「……まあ、期待を裏切らないように頑張るよ」
レインは一歩も引かず、静かにそう返した。声色に感情はなく、それがかえって挑発に対する明確な拒絶のようにも感じられる。
カイはその態度にわずかに眉をひそめる。自分の煽りがまったく効いていない。それが、苛立ちを呼んでいた。
「油断するなよ、カイ。レインは本物だ」
ノエルの静かな言葉が、隣から飛ぶ。それは忠告のようでもあり、ある種の評価でもあった。
「あん? ……ちっ」
カイは舌打ちとともに、視線を逸らす。仲間からのそんな言葉に、心中穏やかではない。その手のひらには、知らず握られた緊張が滲んでいた。
張り詰める空気の中、試合開始の合図が上空から響き渡る。
「では、
その宣言が降りた瞬間、真っ先に動いたのはカイだった。
「行くぞ……《フェイント・ウィスパー》!」
カイはレイン達の方へ走りながら、虚空で魔術陣を描く。
次の瞬間、黒煙のような魔力が彼の背にマントの形で具現化した。
「カイっ! ……くっ」
先走るカイに対して、ノエルは冷静に動こうとするが、二人はうまく連携が取れていないようだ。
「こんなもんすぐ終わらせてやるさ!」
カイは走りながら再び空中に指を走らせ、魔術陣を描き出す。
それに対してレインはただカイの姿を目で捉えながら、片手で術式を描いて剣を取り出す。そして刀身を低く構えて、その時を待った。
「悠長だな剣士サマ! 『
カイが術を発動したタイミングで、レインも動く。
「――『
瞬時にカイの術を潜り抜けて、技を放った。
しかし間一髪のところでカイはその斬撃を交わす。
「……この前のようには行かないってわけか」
お互いに立っている場所が反転し、カイは背後に立つレインの方を向いて静かに言い放った。一方でレインは真剣な眼差しで、カイを見上げる。
互いの初撃は、紙一重で交わされた。
観客席がざわつく中、レインは静かに呼吸を整えていた。カイの魔術は確かに厄介だった。虚と実を混ぜ、相手の思考を乱す。だが、見破れないほどではない。
それに、その魔術を見るのは二度目だ。一度目ならまだしも、二度目ともあれば打ち破ることはできる。レインはそう考えていた。
「……幻を操っても、俺の目は誤魔化せないよ」
レインが低く呟き、再び剣を構え直す。
一方、カイは口の端を吊り上げながら、次の術式を構築し始めていた。
言葉よりも先に、力で示す。そんな静かな火花が、再び空間に散り始める。
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