あの頃、僕はランドセルの檻の中にいた
誰かの何かだったもの
小学校1年生編 — はじまりの光と影
新しいランドセルの重みを感じながら、光太郎は小学校の門をくぐった。
春の穏やかな陽光が校庭を照らし、周囲には元気な子どもたちの声が弾けていた。
「はじめまして、光太郎くん。これからよろしくね」
担任の先生がにこやかに声をかける。新しい環境の緊張感が少し和らいだ気がした。
教室の中は知らない顔ばかり。誰も知っている人はいない。
けれど光太郎は自分に言い聞かせた。
「ここで友達を作るんだ。勇気を出そう」
席につくと、周囲の子どもたちがちらちらとこちらを見ているのを感じた。
緊張からか、声が小さくなり、「よろしくお願いします」とだけ言った。
⸻
休み時間になり、みんなが外に飛び出す中、光太郎は教室の隅でじっとしていた。
遊び方がわからず、どう声をかけたらいいのかもわからなかった。
「ねえ、光太郎くん、一緒に遊ぼうよ!」
明るい声が背中からかけられた。振り返ると、にこやかな女の子がいた。
「あ、ありがとう……」
戸惑いながらも嬉しさが込み上げた。少しずつ輪の中に入っていった。
⸻
しかし、友達の話についていくのは思ったより難しかった。
冗談の意味も、流行の遊びもよく理解できなかった。
遊びの輪の中でたまに笑い声があがるが、光太郎は笑えなかった。
言葉がうまく出てこず、気まずい沈黙が何度も訪れた。
ある日、誰かが小声で言った。
「なんであいつ、変なことばかり言うんだ?」
その声が胸に刺さった。けれど、それを誰にも伝えられなかった。
光太郎はますます自分の殻に閉じこもるようになった。
⸻
給食の時間も、一人で静かに食べていた。
隣の席の子が話しかけてくれても、うまく返せず、ただ頷くだけだった。
先生が気にかけて声をかけてくれた。
「大丈夫?何か困っていることはない?」
その優しい言葉に、少し涙がこぼれそうになったけれど、
光太郎は「大丈夫です」とだけ答えた。
⸻
家に帰ると、母親が笑顔で出迎えた。
「学校はどうだった?」
光太郎は笑顔で返す。
「楽しかったよ」
でも心は違った。
孤独がじわじわと広がり、日々の不安が消えなかった。
⸻
ある日、光太郎は遊びの輪から聞こえる声を耳にしてしまった。
「なんか、あいつキモいよな」
その一言が、光太郎の胸を締めつけた。
言い返す力も、誰かに相談する勇気も持てず、光太郎はただ耐えた。
⸻
学校に行く日が近づくたび、胸の奥が重く沈んだ。
しかし光太郎は学校を休むことはできなかった。
逃げ場のない毎日が続く中、彼は少しずつ自分自身を見つめ直そうとしていた。
「僕は……僕はどうしたらいいんだろう」
心の中の小さな声が、未来への希望と絶望の狭間で揺れていた。
ある日、教室で急に泣き出す子がいた。みんなが驚いて騒ぎ始める。
その子は転校してきたばかりで、まだ誰とも話せていなかった。
光太郎は迷った。声をかけたい気持ちと、また自分も傷つきたくない気持ちがせめぎ合った。
結局、光太郎はその子の隣にそっと座った。
「大丈夫?」
その小さな声に、子は少し安心したようにうなずいた。
⸻
次第に光太郎は自分が誰かの支えになれることに気づき始めた。
自分の弱さを認めることが怖かったけれど、少しずつ受け入れていった。
学校は依然として難しい場所だったが、少なくとも一人は「わかってくれる存在」ができた。
⸻
放課後、光太郎は図書室でひとり本を読んでいた。
そこに、先生がやってきて言った。
「光太郎くん、君はすごく頑張っているよ。無理しなくていいんだよ」
その言葉に胸が熱くなり、光太郎は小さく笑った。
⸻
季節は移り変わり、光太郎は少しずつ笑顔を増やしていった。
まだまだ傷つくことは多いけれど、前を向く力が芽生えたのだ。
未来はまだ見えないけれど、少しずつ光が差し込んでいることを彼は感じていた。
⸻
夜、布団に入った光太郎は心の中でつぶやいた。
「僕はここで生きていく。たとえ怖くても、弱くても」
小さな風がカーテンを揺らし、静かな夜が訪れる。
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