進むべき道
朝起きたあと、2人は身支度をし、宿の朝食を食べた後に料金を支払って街に出た。
近頃は戦闘で忙しく、自由な時間をあまり取れていなかったため、この日は休みにすることにしたのだ。
しかし、これといった予定はない。そこで、ファレナが「行ってみたい場所がある」と言ったので、今はそこに向かうことにした。
「ところで、行ってみたい場所って具体的にどんなところなんですか?」
「なんか最近、「占いの館」っていうのが噂になっているのよ」
「占いの館?」
「そうよ。なんでも、自分が進むべき道を的確に示してくれるんだとか」
「ほう…」
ルロナは自身のしでかしてきたことや、女神から与えられた使命がバレてしまうかもしれないと、少し不安に思ったが、そのときはその時で、少し静かにしてもらえばいいだろう。と考え、占いの館にいくことにした。
占いの館に着き、少し並んだ後、中に入った。
そこは、壁に紫のカーテンがかけられた狭い空間で、中央に机と水晶、そして椅子に老婆が腰かけている、物々しい空間だった。
どうすればいいか分からない2人を、占い師の老婆が手招きした。
「ようこそようこそ、さあさ、とりあえず座って」
と言って、椅子を2つ差し出してきた。
老婆が聞いてきた。
「今日は何を聞きに来たんだい?」
それにファレナが答える。
「えっと、これからのわたしたちの進むべき道について、教えてほしいわ」
「はいよ」
老婆が目をつむり、水晶に向かって念を送っている。するとファレナがルロナに耳打ちした。
「これで魔王を倒すためのヒントが得られるかも」
ファレナはルロナが魔王を倒すことを自ら望んでいると思っているため、このような機会を作ってくれたようだ。
「確かにそうかも知れませんね」
しばらくして、老婆が目を開いた。そして口を開く。
「じゃあ、まずは青髪の魔法使いさんから」
「よろしく頼むわ」
「あんたは今、自分の力がうまく使いこなせなくて悩んでるみたいね」
ファレナが驚いた。
「よくわかったわね…」
「これからも度々悩まされることになると思うわ。でも受け入れてあげて」
「受け入れる?」
「そう、そうすればあんたのその力も、それに応えてくれるはず。そして、それを達成することであんたは、とても強く、優しい冒険者になれるわ」
「本当…?」
「ええ…きっと」
ファレナはそれを聞いて、少しスッキリしたような表情をした。
そして老婆はルロナの方に向き直る。
「次は、そっちの強そうな人」
「おや、そんなことがわかるのですか?」
「わかるわよ。あんたのつけてるエンブレムを見れば」
実はルロナは先日の依頼を達成したことにより、1級冒険者になったのだ。それを誇るように、エンブレムが水晶の光を受けて輝く。
「じゃあ、いうよ…。あんたは…」
少し老婆が言葉を詰まらせた。そして水晶を見やり、一つため息をついた。やはり、ルロナのこれまでの行いを見たのだろう。おそらく、スキルやルロナがこの世界に来るより前のことも。もちろん女神との会話も。
「そうだね…過去を振り返り、乗り越えることかな…」
「ほう…」
ルロナは昔、特に子供時代の殺人を始める前までに、いい記憶はない。この占い師はそれを乗り越えろと言っている。
「なるほど、ありがとうございました」
そう言って、2人は宿屋を後にした。
その日の夜。溶岩に囲まれ、空からは隕石が降ってくる場所。その名も「魔王城」
そして魔王の座る玉座の前に、占い師の老婆の姿があった。
「なに?この俺様を殺そうという輩がいる?それは本当か、レルダ」
魔王の問いに、レルダと呼ばれた老婆は焦った様子で答えた。
「はい。それもどうやら、女神が使わせた者だそうです」
「女神か…なら、そのルロナという奴をここに連れてこい」
「いえ、そう簡単には行きそうもありません。奴はかなり狡猾でその上戦闘力も高い、こちらの狙いをすぐに理解し、部下のエリート魔族たちが皆殺しにされていますかも知れません」
「ならば、こちらも兵力を増強しよう。そしてこちらから出向いてやろう」
「そう悠長にもしてられません。奴は原初のスキル、「力の渇望」の所持者のようなのです。しかも、その能力は、殺したスキル持ちからスキルを奪うというもの…」
「なるほど…」
「1年も放っておけば、手がつけられなくなるでしょう」
魔王は少し考えた後、こう言った。
「ならば半年だ。半年以内に、奴がここにくるように誘導しよう…。それができないようなら…わかっているな?レルダ」
「はっ…!」
その頃、ルロナとファレナは宿で寝る前の準備をしていた。
「あ!わたしはお風呂入ってくるから」
「わかりました」
ファレナが風呂に入るとルロナはベッドに腰掛けた。
「私の過去…ですか…」
外では静かに風が鳴っている。暖かで優しい灯りの横。
建物の腐った木の匂い。
傷だらけの小さな手。
子供の泣き声。
ルロナはゆっくりと、一番古い記憶を掘り起こした。
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