鉄の魔境に羽ばたく
@Ascend55
第1話 鉄の魔境に降り立つ
早朝、僕達は社用車に集合し、緑の田園風景を抜けると、そこには鉄の魔境があった。幾十のそびえ立つ鉄塔たち、一際高く目立つひとつの頂上からは火が吹いている。その重量感を見るだけで緊張が走る。こんなにも大きく、こんなにも冷たく、こんなにも歪な、鉄の要塞に、初めて来た者は皆圧倒される。臨海部に位置するそのガス・オイル工場は見るものを全て飲み込むような迫力で出迎える。更に近づくと、硫黄の匂いをはなち、平和な地方都市から雰囲気は一変して、鉄の魔境へと姿を変える。
またここにやってきたのか。役一年前、所持金が底をついたとき、短期間で稼げると紹介を貰いたどり着いた場所。そして、心を削り正義を貫いた場所。何も勝手がわからずに、ガスの濃度点検行員として派遣されたとき、あらゆる人間的な冷たさに、決して屈することなく、優しさを貫いた自分。今年は、慣れた者として余裕をもって来るはずであった。しかし、運命は僕にいたずらをした。足を怪我させたのだ。作業のシフトが組まれ全てが整った一週間前に、柔道の練習時まさかのアクシデントで膝の靭帯を伸ばしてしまう。しかし、絶望感や不安になりそうになるやいなや、僕は逆に覚醒を選んだ。自分はこの現実を作るクリエイターであるという、さらにメタな事実を選び続けたのだ。
そう、足はギリギリで回復し、全ては収まるべきところに収まるように進んだ。現れた登場人物たちは皆、愛に目覚めていく。同僚の先輩、後輩、受注先の上司、皆に愛を送り、静かにヒーリングを送る。心の中ではマントラが繰り返される。視界に入る人々全てにヒーリングの形状、そして翼のイメージを重ねる。そう、僕は周りにいる生命を癒やす道を選んだ。選び続けている。僕の宇宙は愛の世界だ。非常に面白い。だって、以前は悪魔の巣食う暗黒の世界だったから。それが、愛と光に転換してゆく。その中心地点からみる神の仕掛けるドラマは、極上の果実だ。スリリングでありながら、心温まる感動を幾重にも重ねて世界が変容してゆく。
不審な同僚は、正義の味方に。恐ろしい上司は、頼もしいリーダーに、不気味な後輩は、屈託のないサポーターに変容してゆく。そこにはエクスタシーが広がるのであった。
誰が、僕の話を信じようか。否、誰に信じてもらう必要があるだろうか。僕はただ、この現実創造を続けるだけだ。
想像もできない至福の旅。いや僕なりに想像はしている。しかし、その想像以上の歓喜をもって現実創造が僕をいざなう。この鉄の魔境で、僕は何かを掴む。大きな変容であることは間違いない。
経済的な成長も含まれていることも確かだ。お金を稼ぎにきたのだ。その豊かさ、そこから拡大する喜びは、僕の想像を超えているだろう。エクスタシーの中に。さらなる深みへお、高みへと。中へ、中へ、深く、深く、高く、高く。
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