第6話:狂気との出会い
「はーーーーーい!オープニングゲームクリアおめでとー!ひとまずお疲れさーん!お前らゴミは、リサイクルの権利を得ました〜!」
パチパチと乾いた拍手を送るのは、ゲームマスターを自称する鬼の仮面を被った男……名を阿修羅。
「思ったより減ったな〜。あれ、元からこんなもんやっけ?ゴミの数なんて覚えてないわ」
そう嫌味を満身創痍込めて、首を左右に振りながら私達を一瞥する。私は何でもいいから、とにかくこの場を早く去りたかった。理由はただ一つ……気まずい!!!!
「(だってクリアした人に知ってる人、何人もいるもーん!ルール説明前、阿修羅さんに突っかかって、私に殺害予告?をした鏡花さんと形さん。ゲームが始まってゲーム攻略を提唱し、その攻略を共にした初音さんと白鳥さん。そして、売れ残った私とペアを成立させ共にクリアしたキリンさん。誰がいても気まずいのに……全員いる……!!はぁ、不幸だ。もうなんでもいい、ここから出して……)」
「んじゃまぁ、本題の『これから』について話そか。」
まずは……と前置きを挟み、両手を大きく広げる。それが合図だったのか、オープニングゲームで使用した私達のスマートフォンが聞き慣れた通知音と共に鳴り出した。
「とりあえず、お前らに軍資金として1000万送った。好きに使え。……まぁ、これだけは言っといたるわ。この1000万はお前のライフやと思っとけ。今からお前らの価値は『値段』になる。当然、増えれば価値は上がるけど……減ったら価値は下がる。もう何が言いたいか、ゴミでも分かるやろ?この1000万が0になったら、お前の価値は0。さっさと死んどけ☆」
流石にオープニングゲームをクリアしただけあって、騒々しさはない。とても落ち着いている。……なんか、1人殺意が漏れているけど……。
「私の価値が1000万……?いくら下の者に合わせると言っても、これは不愉快だわ。今から私がゲームマスター代わってあげるわよ?」
……まーた鏡花さんだ……。
「まーたお前かよ。同じことばっかり、芸のないやつやな〜」
呆れた……っと広げた手の角度を少し上げて、お手上げポーズを取る。
「きょ、鏡花ちゃん!お、落ち着いて!まだゲームは始まったばかりだよ!これから自分の価値が上がっていく一方じゃん!言ってしまえば、今は生まれたての状態……全員平等に始まって、能ある者から価値は上がっていく……この世界と一緒だよ!ね!」
すかさず、形さんがフォローに入る。この人達、結構バランス取れているのかな……?
「形……貴女は純粋すぎるのよ。まぁいいわ、今後とも私に付いてきなさい。あの鬼の仮面、叩き割ってあげるわ」
「ほなこれが、お前ら不適合者が行うゲームの全容や」
阿修羅が被っている仮面のマークが画面に映し出され、薄らと文字が浮かび上がる。
『不適合者リサイクル・鬼ヶ島
・不適合者同士で争い、価値を見定める。
・不適合者の価値は値段として表され、上陸以降、不適合者は賞金首として扱う。
・鬼ヶ島では様々なゲームが開催されている。参加には賞金が必要で、ゲームに勝利すれば賞金をGETできる。
・上陸した不適合者は1000万からスタートする。
・生活必需品や寝泊まりする宿なども自身の賞金から負担する。
・価値を見出し、適合者から落札されればクリア。
・価値が0になったとき、不適合者は処分される。』
「以上〜!ほな、頑張って〜」
解散解散、と手を叩きながら退出を促す。私は一目散に退出するため駆け出す。はぁ……やっと終わった……気まずかった〜。と、迷いなく出口へと歩みを進めたのは私と、もう1人……。あ、最悪だ……。
「オヤ?奇遇ですネ〜!同じペアで勝ち上がった同士、ナニか惹かれ合うモノでもありますカネ?」
そう、いつの間にか隣に立ち、不敵に笑みを浮かべている人物……キリンさん。
「いや、私はただ早くこの場から逃げたくて……。」
「ああ、なるホド。フフ、やはりアナタはいいですネ〜!これから始まるゲームに、何の恐怖もナイ。」
そう言葉を残して、一番に出口の扉へと手を伸ばした。
「ワタシ達は『賞金首』……ですカ。鬼のお兄さんと会う日も、そう遠くはないですネ」
捨て台詞のように呟きながら、キリンさんはこの場を去った。私も、早く移動しよう。
「なんや〜お前も、もう行くんか?お前はゴミの中でも気に入ってるのに……そや、大サービスで俺に質問してええで!こんなことありえんで〜嬉しいやろ?」
阿修羅さんは私を買ってくれているみたいだけど、そんな評価する点はないと思うけど……。
「嬉しいお言葉ですが、質問は楽しみが減るので大丈夫です。ただ、1つだけ言いたいことはあります。」
「お、なんやなんや?」
「このオープニングゲーム、あべこべのルールを作ったのは阿修羅さんなんですか?」
「そやで〜あれ面白いゲームやろ!ゴミがゴミなりに考えて足掻く様子とか、最高に哀れよな〜俺はやっぱ天才やわ。」
「分かっているとは思いますけど、あれは欠陥ルールです。絶対に勝てる要素がある、ゲームとしては破綻しています。次はもう少し工夫したゲームを考えてください。それでは、失礼します」
「は……?」
言いたいことを言えて、満足したかも。もう思い残すことはない。アア、早く陸に行きたい。扉に手を伸ばし、私はこの場を後にした。
「……したくもないのに、断腸の思いでゴミに配慮した……俺の救済ルールが、欠陥ルールやと……?」
グッと握り拳を咄嗟に作り、強く拳を握りしめる。
全身に憤怒を覆い、阿修羅が常に被っていた……鬼の仮面が割れる。それは無造作に、仮面は地面まで落下し……真っ2つに。残された参加者達は、偶然にも阿修羅の素顔を見ることになる。
「ほな、解散☆俺の怒りが鳴りを潜めている間に、とっとと出ていけ」
ただ笑顔を浮かべているだけの男……されど、その迫力に気圧される。オープニングゲームを勝ち上がった者達だからこそ、直感で気付いただろう。この阿修羅という男は……『格が違う』。皆、黙ってその場を後にする。三者三葉の考えを持って。
「(……ぷはっ!みうちゃん、やっぱり面白いな。文字通り主催者の仮面を剥いだ。阿修羅の『核』を少しでも見られたのは大きい。みうちゃんに感謝だな)」
「(あいつの素顔、どこかで見たことがある……。だとすると、近畿地方を担当しているのは……きな臭くなってきたわね。」
「(……鏡花ちゃんが、文句も言わず退出するなんて珍しい。それだけ、あいつに圧があるってこと……?鏡花ちゃんらしくないな〜)」
「おい。先行で空気読まずに出ていったあの2人……金髪パーマの外国人と、黒髪地味女の情報よこせ。」
割れた仮面を拾い、欠けて尖っている仮面の一部を2人の写真に突き刺す。
「あいつらは俺が絶対殺す……!」
……一方、何も知らない三浦みうは……。
「はぁ〜。上陸後が楽しみだな〜阿修羅さんも、あの欠陥ルールを突っ込んでもらえて喜んでいるだろうな。」
――――人間は、闘争により進化する。それの究極系は、命のやり取り。私は、コレを求めていたのかもしれない。成長によって腐ってしまった感性を……錆び付いてしまった生物の本能に……抗うチャンスだ。あぁ、見られる。見たい。ミレル。ミタイ。
『ウツクシイモノ』を。船が、完全に停止する。不規則にゆったり動くのは、船が停止した合図だ。私は、また知ってる人と出会いたくなかったから、少し時間を置いてから下船することにした。人気がなくなったことを確認して、下船する。
「わぁ……」
視界に飛び込んできたのは、あまりに膨大な無人島。無人島には似合わない、建物が並んでいる場所もある。もう、都市じゃない?
そんな大都市鬼ヶ島(今、私が名付けた)に誘われる。私は、私1人しか残っていないであろう船の入口から背を向け、歩みを進めた。
「……あれ?」
誰もいないと思っていたが、島へと足を踏み入れる寸前の場所に1人、こちらを見ながら座っている。
「(……あの人、明らかに私の方を見ているよね……?ただ、この人には異色のオーラがある。この人の周りだけ、灰色の背景が広がっている。それを象徴するのは、特徴的な灰色の瞳。目を合わせ続けていると、無の世界へと誘われそうな瞳をしている。)」
「こんにちわ。ちょっとアタシとお話してかない?今んとこ、アンタが1番マシそう。」
無気力で、こちらには興味がなさそうだ。妥協、というよりは作業のようだ。対話する気はないことを感じる。
「別に構いませんけど。対話をする気があるのなら」
「いいね。アンタ、『こっち側』?」
表情が柔らかくなり、こちらに視線を向ける。
「……まさか。あと、これ以上待っていても誰も来ませんよ。私が最後の下船ですから。」
灰色の瞳をした女性に似合った色をしているネイル……親指は黒色で、そこから人差し指は白色、中指は黒色……5本指で黒と白が交互する煌びやかな色彩の指を噛みながら私を見つめる。
「……アタシは、駄ネキに言われてここに来た。好きな人を見つけるために。アンタは、ここへ何しに来た?」
「好きな人を見つける、ですか……。綺麗な理由ですね。私は、そんな大層なモノではありませんよ。ただ、ウツクシイモノを見るために来ました」
「……美しいモノ……か。アタシにはよく分からないや」
「人それぞれ価値観が違いますから、仕方ないですよ」
それを聞いた灰色の瞳をした女性は、少し不服そうに指を噛む力を強める。
「……まぁいいや。じゃ、最後に1つ。アンタ、この世界の人間は何種類いると思う?」
いきなりだなぁ……。この世界の人間は何種類?そんなの決まってるじゃん。
「2種類です」
その言葉を聞いて、灰色の瞳が光った気がした。自意識過剰かもしれないけど、灰色の世界に私という光が入ったような……そんな表情を感じた。
「……ふーん。はははははは!前言撤回!いいねアンタ!好きになりそう♡」
……いやいや!確かに感じたとは言ったけど!そうはならなくない!?
「申し訳ないですけど、私は女の子が恋愛対象ではないです……。」
「あは!ははははははは!!バカだ、アンタ!バカで真っ直ぐで……そして、イカれてる!今だけは駄ネキに感謝しないと!こんなに早く出会えるなんて思わなかった!」
なんか、1人でテンション上がってるけど……何、この人?この様子なら私じゃなくても、誰でもいいのでは?面倒なことは御免だ。退散しよ。
「あ、じゃあ私はこれで……」
「あー待って待って。手を突き出してパーにして?」
……?なんだろ、ハイタッチでもするのかな。まぁいいや。
「……っ!?!?」
手をパーにして突き出した瞬間、この世のモノとは思えない痛みが全身を駆け巡った。な……に……これ……?ナイフが……私の手を貫通してる……!?!?
「な……に……してるん……です……か……!?」
「何って〜親愛の証?的な?アタシ、好きな人を殺したいの!でも、こんな感情久しぶりだからすぐには殺したくない!だから、とりあえずナイフで手を刺してみたの。キュートでしょ〜」
「ふ……ざけ……ないで……ください!ゲーム外の物理攻撃なんて……!ルール違反で、貴女の首が飛ぶかもしれません……よ……!……はぁ……はぁ……イカれてるのは……どっちですか……!」
流れるように行われたこの1連の動きで、鈍っていた感覚が徐々に現実へと引き戻される。痛い!痛いよー!!!
「はぁ……はぁ……私は、まだここで……やることがあります……!殺すならせめて、その後に……!」
「心配するとこ、そこなんだ♡やっぱり君はイカれてるよ!イカレポンチ!どう!?君の名称!可愛くない!?」
「っ……誰が……イカレポンチですか……!?そっくりそのまま、お返し……しますよ……!!」
「はぁ……♡昂る昂る〜!あ、医務室はすぐそこにあるから、下手に抜かない方がいいよ!」
そう言って、私の手から溢れ出す血を、ひとすくいして舐め回す。
「あ〜♡久しぶりに感じるなぁ、好きな人の血の味♡ご馳走様!あ、アタシは
「お……一昨日来やがれです……せめて……医務室まで案内してください……よ……!」
「YES、マイダーリン♡」
訳の分からないまま手を刺され、このまま死ぬのではないかという痛みが走る。それでも、この状況を受け入れられているのは……やっぱり、私が浮ついているからなのかもしれない。そして、この人が――――私の思う、この世界の人種に該当しないから……少し、期待しているのかもしれない。私は、この世界にいる人種は2種類だと思っている。
『自我、衝動、超越自我』
これらを掛け合わせ『自分』を形成する人種――。
これらを割って『自分』を形成する人種――。
この2種類だ。前提として、自我・衝動・超越自我は人間が形成されていく中で深層心理にあるモノだと、私は思っている。あ、超越自我って何かって?私は……超自我を超越自我と呼んでいます。簡単に言うと、自我を捌くモノです。もっと簡単に言うと、両親です。超越自我の発生には、言語的な情報が必要なんです。まぁ、言語的な情報なら何でもいいんですが……例えば読書とか。話が脱線しそうなので、話を戻します。超越自我は自我の選択を見届ける役割、という解釈で大丈夫です。
……では、それらを『割って』自分を形成すると、どうなるのか?『人間』が出来上がります。それもそうです、この3つを割っているんですからね。それはとても大層ですごいことですが……もっとすごいのは、これを『人間』は当たり前に行っていることです。
……では、それらを『掛けて』自分を形成すると、どうなるのか?……『人間ではない生命』が出来上がります。
それもそうです、この3つを掛けているんですからね。割って丁度いい感じなのに、掛けたら全てが相乗効果で、とんでもないことになります。これらは人智を超えた現象です。人間は、こんな存在を『天才』と呼ぶのかもしれません。え……?話が長い……?あ、難しい話に聞こえました?でもこれ、めっちゃ大事なんですよ!
「(……でも、この人はこの2つに該当しない……『この世界のバグ』だ……。ああ……シミる……)」
桜田と名乗った灰色の瞳の女性は、普通に医務室まで案内してくれた。そして、医務室の入口で飄々と消えた。お医者さんに何があったか聞かれたが、私は「軽い災難に……」とだけ言って、治療を受けた。
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🗂 本作の第1話はこちら →
▶️ 『第1話:あなたの人生は退屈ですか?』
👉 https://kakuyomu.jp/works/16818622175556728824/episodes/16818622175556818244
💀「才能」が全てを支配する世界。
狂気と才能が交錯する心理×頭脳のデスゲーム、開幕。
▶️ 次回、第7話:ゲーム・罪人狩りはこちら
👉 https://kakuyomu.jp/works/16818622175556728824/episodes/16818622175812934769
「ウツクシイモノが、もっと見たくなってしまったんです。」
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