第4話 お米を炊きます。超スピードで
「ふぅ。これでよしかな」
持っていた荷物を部屋に置き、少しの模様替えをして、幼馴染の
ベッドももちろん移動した。彼女一人が。
こうして眺めていると、改めてここに彼女が住むんだと実感する。
そう……機械化した彼女が。
「お待たせ、ヒロちゃん。でも待ってなくても、リビングでくつろいでくれたらよかったのに」
「あー……まあ、気になってな」
どんな風に行動するのか。
動く度にロボット特有のギシガシといった音はするものの、動き自体は人間と大差ない。
しかし、その腕力はすさまじく。さっきも、タンスの位置がちょっと気に入らないからと移動させたばかりだ。
正直、荷物運びやらいろいろ手伝うつもりはあったのだが、出番がまったくなかった。
まあ、彼女の私物を勝手に漁るわけにもいかないのだが。
……キャリーケース一つだが大丈夫なのだろうか。
「それで、こ、この後どうしよっか」
もじもじしながら威子が聞いてきた。時計を確認する。
時間は……お昼過ぎってところか。朝から母ちゃんの電話を受け 、それからずっと片付けだの準備をしていたからな。なにも食べてない。
その俺の気持ちに反応するかのように、お腹からくぅ……と小さな音が鳴った。
「あ……ふふ、ならお昼ご飯かな」
どうやら今の音が威子に聞こえてしまったらしい。恥ずか……しい。うん。
それにしても、こんな小さな音なのに……
まさか、アンドロイド化したから聴覚が過敏になったとか言わないよな。
「そうだ、私がなにか作るよ。あ、台所借りてもいい?」
「! そりゃ、構わないけど……作れるの?」
「つ、作れるよもー、私のこと甘く見てるね? 昔からお母さんに、は、花嫁修業だって教わったんだから」
えへへ、と多分照れ笑いを浮かべている威子。花嫁修業以前にその姿になるのは止めなかったのかおばさん。
そんなこんなで、威子が昼飯を作ることに。部屋を出て、階段を下りる。
リビングに戻ると、威子はさっそくキッチンへ。
「冷蔵庫の中のもの、勝手に使っていいから」
冷蔵庫を開き中身を確認する威子に、俺は言う。
一応一人暮らしをしているから俺も自炊はできる。だから材料は……まあそこそこ入っているはずだ。
冷蔵庫の中をじっと見つめていた威子は「ピピ……材料確認、レシピを表示……」となにやらぶつぶつつぶやいていた。ちょっと怖かった。
「よし、じゃあオムライス作ってあげる。ヒロちゃん、昔からオムライス好きだったよね」
と、なにを作るのか決めた威子は冷蔵庫から卵や調味料を取り出していく。
昔からって……昔の俺しか知らないくせにまったく。
だが、ここで重大なことに気づいた。
「あ……ご飯炊いてない」
そう、威子が来ることに夢中になっていた俺は、食事も忘れていた……つまりご飯を炊いてもいない。
今から炊いたんじゃあ、かなりの時間がかかる。ご飯ものは諦めるしかない。
そう思っていると……
「ふふ、ヒロちゃん。心配ご無用だよ」
そう笑う(多分)威子は、炊飯器へと近寄る。そしてまだ処理していない米を適量入れ、その中に水を投入。
やはり、今からご飯を炊くつもりなのか? そう思っていると、威子の右手が形状変化していく。
「え……」
ガシンガシン、と手がまるでミキサーのようなものに変化し、水に浸した米の中に突っ込むとブィイイイン……と大きな振動。
ものの数秒でそれは終わり、炊飯器をひっくり返す。それでは水と共に米まで落ちてしまう。
しかし、なぜか落ちるのは水だけ。米は炊飯器の中に残ったままだ。
「お米を炊きます。超スピードで」
再び形状変化していく右手は、今度はなにかのプラグのようなものになった。
それを炊飯器のどこかにぶっ刺して、蓋を閉じじっと待つ。
すると、これもまたものの数秒で変化が訪れる。
「炊けたよ」
蓋を開くと、そこにはほかほかのご飯があった。
あまりの光景に、俺は言葉を失ってしまった。どことなく誇らしげな威子は「じゃあ始めるね」と料理開始の宣言をする。
ウチのキッチンは、IH対応のクッキングヒーターとなっている。そして、フライパンなどを加熱できるのは二箇所ある。
「調理開始」
そして威子の肩がぱっくりと開き、そこからウィイイン……とアームが出てくる。つまりは、新しい手だ。
威子本来の手が二つ、そして肩から出てきたアームの手が二つ。しめて四つの手が、それぞれ調理を開始する。
ヒーターの二箇所にフライパンを乗せ、火をかける。そして卵を割り油を敷いてから卵を流し……炊きたてのご飯を……とその工程を、二人分行っていく。
キッチンに立っているのは一人なのに、なぜか四つの手がフライパン二つを操っている奇妙な光景があった。
「……ん? 二つ?」
そこで俺は、威子が二つのフライパンを……つまりオムライスを二人分作っていることに改めて疑問を感じた。
そもそもウチにフライパンは一つしか無かった。どこからもう一つを出したのか……という疑問は置いておこう。
作っているオムライス。一人は、もちろん俺だろう。そしてもう一人は……威子本人のものだろうか。
……機械なのに、ご飯食べられるの……?
「かんせー!」
そしてあっという間に、オムライスは完成した。とろとろの卵に閉じられたご飯……とてもおいしそうだった。
「じゃ、食べよっか!」
テーブルに並べられた料理を挟み、俺たちは向かい合って座る。
いただきます、と合掌し、スプーンでオムライスを一口……食べる。……うん、うまい。
そして、威子はというと……
「んー、我ながらおいしー!」
……普通に、口の中にオムライスをかきこみ食べていた。
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