機械になった幼馴染との同居生活は温かいけど冷たい
白い彗星
第1話 どんな彼女だって、受け入れてみせる
「えっ、
俺、
電話の相手は母ちゃんであり、その口から語られたのは……
『そうなのよー、威子ちゃんがこっちの高校に進学することになったって連絡をもらってね。急に、ウチに来ることになったのよ』
幼馴染である、
彼女とは小学校に入る前に別れ……それから、十年が経った。
別れて以来威子とは会っていない。なんせ、あいつが行ってしまったのは県外……おいそれと行き来できる距離ではない。
彼女は、俺にとって初恋の相手だ。十年も会っていない相手に、未だ初恋を拗らせているのは我ながら女々しいなとも思うが……
なんにせよ、彼女と久しぶりに再会できるということで、はじめこそ困惑していた俺はそのうち浮き足立っていった。
『あんたったら、昔から威子ちゃんのこと好きだったもんねー』
「は、はぁ!? なに言ってんだ!」
くすくす、と電話の向こう側で笑う母ちゃんに、俺は顔が熱くなるのを感じる。
もちろん、俺が威子のことを好きだなんて話したことはないが……
それは女の勘か、それとも母親としての勘か。見事にバレてしまっている。一応認めてはいないけど。
『私と父さんも、しばらく帰れないから。ちゃんの面倒、しっかり見るのよ』
「わかってるよ、子供じゃないん……ん? 面倒?」
とにかく、早く威子と会いたい。昔のあいつはちびで、どんくさくて、いつも俺の後ろを着いてきているような奴だった。
ふわふわした茶髪も、丸っこい顔も、屈託のない笑顔も。十年経っても忘れたことはない。
それに、とにかくなにかを作るのが好きな奴だった。あんな小さい頃から機械いじりなんかしてはおばさんに怒られていたっけな。
そんな懐かしい思い出にあたたかな気持ちになっていたのだが……母ちゃんの言葉に、引っかかるものを覚えた。
「おい、面倒を見るってなんだよ?」
『あー、言ってなかったわね。威子ちゃん、今日からウチに泊まるから』
「は、はぁ!?」
あっけらかんと言う母ちゃん。
な、なんだって……いや、それって……!? てか今日"から"!?
両親は出張で県外に行っている。朝昼どころか夜も帰ってはこない。つまり今、この家には俺しか住んでいない。
その環境に、彼女も一緒に住むって……それは、二人暮らしするってことか!?
「いや、それまずいだろ……い、いろいろと」
高校生の男女が、ひとつ屋根の下……しかも相手は、俺の初恋の相手なのだ。
いや、そういう物語を見たことはあるし、わずかに憧れはあったけど……いざ自分がそんな目に遭うとなると、どうしていいやら。
すると向こう側で、くくっと笑った声が聞こえた。
『まずいって、なにがー? なにがまずいのー?』
「なにって……ほらその、なんかあったりとか……」
『えー? あんた威子ちゃんになにかするのー? なんかしちゃうのー?』
「し、しねえよ!」
俺の反応を見て……いや聞いて絶対楽しんでやがる! 我が母親ながらなんて人だ!
「第一、向こうはどう言ってんだよ。威子本人もだけど……おばさんたちは」
『博人くんなら問題なく娘を預けられる、だってさー』
……どうやらこれは、母さんの独断ではないらしい。妙な声マネまでしやがって。
とはいえ、考えてみれば当然だ。威子の両親や威子の意思を無視して、こんな重要なことは決められないだろう。
俺のことを信用してくれている……ということだろうか。
「……いや、そもそもおばさんたちはどうしてんだよ」
『あっちはあっちで、仕事が忙しいのよ。だから、威子ちゃんを一人暮らしさせることにならなくて助かったって言ってたわー』
なんだか、俺の知らないうちに外堀が埋められていっている。なぜ当人である俺がなにも知らされていないのか?
……ともあれ、決まってしまったことは……仕方ない。俺のことを信用してくれているのなら、それに応えなければ。
それに……この件は、威子自身が納得しているってことだよな。俺との二人生活に。
それって……結構、いやだいぶ威子からの好感度が高いってことなのでは?
「……母ちゃんたちも、俺のこと信用してくれているってことでいいんだよな?」
『まあねー、これでも
「母ちゃん……」
『あ、でも孫の顔はまだ早いからねー?』
「母ちゃん!?」
俺のことを信用してくれているのかいないのか。結局いいようにはぐらかされた気がする。
それから少し話して、電話を切る。その後俺が取った行動は……着替え、そして部屋の片づけだ。
当然だ、女の子が……それも、初恋の子が来るのだ。まして十年ぶりの再会。
顔洗って、髪を整えて、一応歯も磨いて……あぁ、なんでこんな大切なこと突然言うんだよ母ちゃん!
ピンポーン
「! 来た」
部屋を片付けていた俺は、家の中に鳴り響くインターホンについにこの時が来たと息を呑む。時間を確認すると、伝えられていた時間ぴったりだ。
と、とりあえずは片づけたし、大丈夫だろう。今は、彼女を待たせないことだ。
部屋から出て、どたどたと会談を下りる。そして、向かう先は玄関だ。
……この時、俺は外にいる人物をインターホン越しに確認することなく玄関に向かい、そのまま扉を開いた。
まあ、事前に確認していたからって、なにが変わっていたわけでもないだろうが……
「よ、よう……久しぶり……」
ガチャ……と扉を開け、久しぶりの挨拶をするとともに外にいた人物を確認する。
俺の初恋の女の子。どんな成長を遂げているのか? かわいくなっているのか、きれいになっているのか、それとも……
いや、どんな姿になっていようと、十年も抱き続けた恋心が簡単に消えることはない。俺はどんな彼女だって、受け入れてみせる。
下げていた視線を、徐々に上げていく。地面から彼女の足へ……そして、機械じみた足をのぼり、彼女の身につけているミニスカートがふわりと揺れた。
視線はさらに上へ。お腹からほどよい大きさの胸元、さらに上へとのぼり……
「元気だった……か……ぁ?」
彼女と目線を同じくした俺の目に、飛び込んできたのは……
「久シブリダネ、ヒロチャン。私ハコノ通リ、ピンピンシテルヨ」
……人型で、茶色の髪が生えている……ロボットがいた。
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