第2話①

 侵入者たちが衝突してから一夜が明けた洋館に、一台のリムジンがやってきた。

 黒塗りの高級車は洋館の前に停車して数名の男たちを下ろすと、その中の一人を囲むように列をなして敷地へと足を踏み入れる。

 開けっ放しの門から入る彼らの存在に、ちょうど庭にいた克尊もすぐ気がつく。

昨晩から後片付けと防犯設備の再構築を続けていた彼は、彼らが接近してくる様子を悟ったものの、まったく振り向く素振りは見せず、片膝をついた体勢のまま作業を継続する。

 無防備にも見える彼の背後に歩み寄り、足を止めた男たちは視線を送る。

 ほんの数メートルの背後に佇むも、半腰のまま地面に向けて手を動かし続ける克尊の姿に、彼らは黙って凝視を続けた。

 だが、一向に注意を向ける様子もない少年の背に、中心にいた人物が小さく一息をついてから、わざとらしく地面を踏む。

 ガッという不自然な音に、しかし克尊はなおも振り返ろうとしない。

 ただ、流石にこれで気づかないというのは無理があると自覚があったため、小さく舌を打ってから、一拍ほど間を挟んでから口を開いた。

「今日、来るという話は聞いていないが?」

「あぁ、すまない。野暮用でね」

 あいかわらず視線どころか顔も向けない克尊に、それでも相手が自分だと理解していることが示されたため、男・濱晋十郎は薄らと苦笑いを漏らした。

 その声は、昨日も克尊と電話越しに話していた男と同一のもので、見た目も相応の三十後半から四十代の中年だ。周りの男が黒スーツにサングラスをかけた角刈りの大男たちなのに対し、やや灰色気味のスーツに袖を通した背丈はやや小柄であり、かつ容貌も大人しいものだった。

 気弱という訳ではないが荒事とは無縁でありそうな相貌は、自分に視線も向けない相手の無遠慮な態度にも慣れているのか、気を悪くした様子もなく辺りに視線を巡らせる。

 目に見えて変化があるわけではないものの、以前に訪れたと時とは様子が違うことが、彼にも分かっていた。

「昨日は大層賑やかだったそうじゃないか。バーベキューでもしたのかな?」

「知らん奴らが勝手にそれっぽいことはしていた。焼きそびれたが」

「そうなのか。生肉にあたったという割に元気だね」

 揶揄も交えて気さくに話しかける晋十郎だが、対する克尊は少なからず鬱陶しさも滲んだ溜息を漏らす。

「どうせ知っているんだろ。で、叱責にきたのか?」

「いいや。そこまで馬鹿じゃないよ」

 苛立ちも垣間見える克尊に対し、晋十郎は相手の刺々しい態度もどこ吹く風といった無頓着さで肩を竦めた。

 無神経、あるいは図太いようにも取れる反応であるが、克尊を相手にこういった態度も取れないようでは、彼の上司としてまともに付き合うことなど出来はしないだろう。

「交戦があったと報告はあったが、貴方からの連絡は来ない。疑問に思うのは当然でしょう」

「必要があるか?」

「あるに決まっている。ただでさえ、貴方は警戒されているんだ。自覚ないのですか?」

「どうせ何もしなくても疑われる身だ。今更だろ」

 ぞんざい、あるいは投げやりとでも表すべきだろう雑な回答に、晋十郎は流石に呆れた様子を隠すこともなく嘆息をつく。

 遠慮もなく吐き出された大きな溜息に、ようやく克尊も手を止め、半身で振り向いた。

「何か?」

「……いや。私は貴方の保護者ではないから。さっさと実際に何があったか話してくれる?」

 不満はあったが雑に吐露することは避け、晋十郎は説明を促す。

 彼の発言からも分かるだろうが、すでに昨晩のこの屋敷の敷地で何らかのトラブルが生じていたことは把握されている。

 一体何があったのかを訊ねるために、晋十郎は自ら足を運んでやって来たわけであり、克尊もすでにそのことを敏く推し量っていた。

 そのため、問い質されたことに怪訝そうな表情が出るはずもなく、「あぁ」と相槌を打ち、かい摘んだものではあるが、可能な限り詳らかに説明を始める。

 彼の留守中に敷地へ侵入した二人の人物と彼らとのやりとりを要領よく伝えると、それを聞かされた晋十郎はしばらく無言となり、腕を組みながら右手の人差し指でこめかみをゆっくりとしたテンポで繰り返し叩き、頭の中で話を整理しながら思考を巡らせる。

 視線は克尊ではなく、周囲の庭の様子をどこか漠然と行き来していた。

「侵入者二名、その内の一人は魔導教の司祭。もう一人は名乗らず正体は不明、か」

「少なくとも友好的な関係ではないはずだ。侵入者同士、逃げるではなく交戦しているのだからな」

「監視カメラは?」

「男側が侵入したと思われる直前に壊されていた。当然、どんなやりとりがあったかの確認手段はない」

「なるほど。貴方の魔術でも分からなかったのか?」

「俺の魔術は読心術ではない。そもそも、瞬時に記憶や思考を読む魔術行なうのは、魔術の理論的に不可能とされている」

 克尊の答えに、晋十郎も「そうだったね」と顎を引く。

 上司という立場もあって、克尊が習得している魔術の性質は晋十郎も把握している。その上で念のために訊いてみたことではあると、克尊も理解していた。

 そのため、「具体的に解説でもしてやろうか?」と訊いたところで、辞退の回答が返ってくることも目に見えていて、無用なやりとりであることから省略する。

 彼が脳内で余分な会話を済ませているとは露知らず、晋十郎は話を進めた。

「ひとまず、両者の交戦の件については置いておこう。最優先は、魔導教の司祭がしてきた提案と話に関しての考察だ」

「陰謀の気配と言っていたが、心当たりはあるか?」

 相手にはそう訊ねつつ、克尊は脳裏で百世と交わした話を思い浮かべる。

 彼の話によれば、この周辺で何かを探っている野良の魔術師がいるらしいということであったが、それが誰なのかの判断はおろか、推理するための情報すらない。

 思い当たる陰謀に関係するかもしれぬ可能性としては、克尊の手持ちの中ではそれしかない。

 それ以外にも百世から様々な話を聞いてはきたが、どれもこれもが嘘かまことか疑わしい与太話、信憑性が薄すぎてあくまで噂というレベルのことばかりだった。

 新たな可能性を模索する上での問いであったが、晋十郎からの回答も、あまり芳しいものではない。

「はっきりとした怪しい動きに関して、報告では聞いていない。少なくとも、政府の持つ情報網にそのような類は引っかかっていない」

「つまり、政府外の情報網には何かあるのか?」

「ははは。生憎、私はそういったものに精通してはいないさ」

 笑いを交えて言われ、克尊はすっと双眸を細める。

 じゃあなんだよ、とばかりの表情に、晋十郎は怯むことなく泰然と肩を竦める。

「貴方がさっき言っていた司祭、彼女たちがそういった独自の情報網を構築しているのかもしれないということだ。それに、何かしら気になる事態が掛かった可能性はある」

「そういうことか。確かに、それっぽいことを言っていた。組織が持つ情報を提供する見返りに協力してくれ、と」

「それって、具体的には?」

「はぐらかされた。だから俺もその場で返答するのは拒んだ」

「妥当な判断だろうね」

「同時に、彼女ら側は後日話し合いの場を設けたいとも言ってきた。これは保留と返した」

「向こうが何を掴んでいるか分からないから?」

「そういうことだ」

 克尊が首肯すると、「ふむ」と晋十郎は改めて考え込むように腕を組む。

 今度は口元に指を添えて考えるポーズを取るが、それも十秒も待たず解かれ、再び視線は克尊に戻された。

「これは私の独断なのだが、いいかな?」

「なんだ?」

「彼女、延いては魔導教の要請を承認し、彼女たちに協力してくれ。必要なら、貴方の判断で動いてもらって構わないよ」

 下された判断と指針に、克尊の表情に変化はない。

 ほんのわずかの間を挟んでから、小さく鼻を鳴らした程度だ。

「そういう選択をするか、アンタは」

「何か不満でも?」

「いいや、狙いは分かる。俺としても、探りを入れるべきという考えはあった」

 わざわざ口にはされずとも、克尊は晋十郎がどういう意図と狙いをもって決断したのかは理解出来ている。

 単純に、彼女たちの要求を聞き入れて協力し、その手助けをすることを容認するというのみの話ではない。

 むしろ、そのような意義は『ついで』である。

 一番の目的は、端的に表現するなら『諜報』だ。

 政府や行政の人間として、治安と秩序の維持のためにあらゆる情報やそれらが巡るネットワークを把握しておくことは必要かつ不可欠なことである。

 この度、魔導教から要請を受けた『陰謀の調査』という案件を交えていえば、表立っては未然に惨事を防ぐことを念頭に協力に応じ、一方で彼女たちが持っている独自の情報網の正体や概要を探ること、それが把握して監視できるものなのか、延いては掌握・運用なども可能かどうかまで掴めるかというのが、指示を出した晋十郎の腹の裡であろう。

 聞く側の判断次第では性悪さも感じそうな意図であるが、決して過ぎた策謀や私情の類ということではない。

 あくまでそれは、治安を守る組織として使える手管は多く用意しておきたいという備えを目的としたもので、至極真っ当なものにあたる。

 問題が生じるとすれば、そういった情報網を私欲や利己的に悪用する者たちという人間が出て来た時、最初からそれが狙いの人間だった時などの場合だ。

 そのことはこの二人も重々自覚と把握はしており、呑み込んだ上で探るという判断だった。

「よろしく頼む。とはいえ、こっちから表立った支援は現状出来ないけれど」

「最初から当てにしていない。政府の戦力自体、頼りになると思ったこともない」

「辛辣だね。貴方からすれば事実なのだろうけど」

 オブラートに包むことなく断定され、晋十郎は失笑を浮かべた。

 自身の半分も生きていないような少年にこうもばっさり切り捨てられることは、人によっては『生意気な餓鬼が』と憤慨を浮かべるかもしれない。

 実際、晋十郎以外の政府に属する役人の間には、克尊の歯に衣着せぬ物言いや冷笑混じりの皮肉の数々に、彼の経歴も相まって嫌悪感を露わにする者は多数存在する。

 中には憎悪や敵意を隠すことすらしない有り様で、実際にそれを目撃することも多い晋十郎は、私情を抜きにして公然と組織内で和が乱れるのを嫌い、克尊には懸念や注意を繰り返しているのだが、彼がそれを聞き入れた試しはなかった。

 今しがたの彼の発言に対してもやんわりとした抗議が込められていたのだが、克尊はそれを知ってか知らずか、いや、知っていたとしても緩めることのない鋭い舌鋒を続ける。

「事実だ。護衛にAI魔法制御のホムンクルスを採用している時点でたかが知れている」

「そうかなぁ? 結構、現場では頼りになっているけど」

 断定する相手に、角が立たないような反論として、晋十郎は懐疑的な反応を示しながら周囲を見る。

 先ほどから彼の周りにいる厳つい大男たちは、二人の発言と視線にも微動だにしていない。

 不自然なほど表情すら変えないのは、両者の会話からも敏く勘づける者もいるだろうが、男たちが正真正銘の人間ではないからだ。

 その正体は、精巧に創り出された人工生命体・ホムンクルスたちである。

 人間を模した彼らは、錬金術を研究していた魔術師たちが発明した成果の一つとして知られていて、その存在は遥か昔から有名だ。

 かつてこそ知名度の割に使い手や数もさほどではなかったのだが、AI魔法という技術が普及したことで、現在ではその製造も充分に可能な域に達している。

 ただ、人間を精巧に模すという内容の魔術ということで、なりすましや囮などの手段で悪用される懸念が非常に強いという観点から、その量産というのは世界規模で抑制され、条約や法律で制限が課せられてもいた。

 少しでも知性・理性、まともな倫理観が備わっている者であれば、当然そのことは理解できるだろう。

 そんな背景があるものの、制限が緩和されている数少ない事例の一つとなっているのが、要人などを護衛するSPや警備員としての運用だ。

 あくまで対象をテロや暗殺などから護衛するために控えさせる、人員として配置しておくなどの利用は、非人道的な行為に利用しないことを大前提に登用されている。

 今こうして晋十郎の周囲にいる彼らも、感情や人間性などの要素は排除されているものの、対象として認識された人間を守りきることに特化したSP用ホムンクルスたちだった。

 その運用と成果に関して充分に把握した上で晋十郎は口にするが、克尊は声を荒立たせる様子もなく、冷静なまま真っ向から反論する。

「俺からすれば、生身のSPより耐久性があるだけの肉壁だ。人間でないことを理由に使い捨てが容易というくらいしか利点が見いだせない」

「的確な指摘だ。まぁそれを公の場で認めると、どっかの政治団体が騒ぎ立てるから面倒なんだけど」

「ホムンクルスの生命に権利を求めるような異常者なんて放っておけ。あれは騒音みたいなものだ。いや、場合によっては、騒音よりも煩わしいか」

 やや渋い顔をする晋十郎に、何の話かすぐに察した克尊は、今度はそっちの存在に悪態をつく。

 世の中、同じ人間のような形をした何かに、あるいは同じ生物までに必要以上の同情を抱き、自分勝手にそれらの保護や尊重を主張する人種も存在する。

 そう言った博愛主義者を一概に悪者と定義できるわけではないものの、その行為をすることで自己陶酔に浸っていることが無自覚なのか、何故か人間そのものへは横暴で被害を与えることも厭わない破綻者は目立つ。自分の主張が通るのならば、実際に矢面に立っている人間がどんな不幸に見舞われても知ったことではないのだろう、新種の害獣だ。

 その手のタイプで、ホムンクルスの運用に抗議して行政や政府に運動を行なって金をかき集めている連中のことを思い出した様子で、克尊は鼻を鳴らす。

 相手にするだけ馬鹿馬鹿しいと、わざわざ言葉にしなくてもそう思っているのが伝わる態度に、晋十郎も神妙に首肯して同意する。

 この二人が感情的な面で意見を合わせるのは希少なことで、知り合いであれば「奇跡が起こった!」と声を弾ませたであろう貴重な瞬間でもあった。


   *


 日本人が教会といわれて真っ先に連想するのは、キリスト教と関係する様式のものだろう。

 そういった先入観が日本人にはどうにも深く根付いており、幸か不幸か、教会という言葉だけでそれがどのような外観なのか頭には浮かび、説明を省けてしまうほどだ。宗教が異なれば教会の形が違うのは当然で、どの信仰でも同じと思っている方が不審といえる。

 ただそのような前提も、その宗教自体がメジャーであることが前提だ。

 信仰の内容に関する詳細はおろか、存在すら認知されていないような信仰集団であれば、元々の源流そのものから異なっていたとしても、その違和感が悟られることはない。

 それを裏付けるように、《魔導教》の支部の役割も果たしているその教会も、カトリックの教会のような外観でありながら、周囲から疑問を向けられたことは現時点で一度もない。

 専門的に観察してみれば、正統な様式にゴシック建築の様式によるアレンジをふんだんに取り入れているため、厳密にいえば『キリスト教における教会』との差異は図られているが、素人の目では違いがあるのかなど分からないレベルだ。

 古くから公の場ではあまり活動していなかった組織であり、時には正体を隠しながらの密かに活動をしていた時期も歴史上に存在しており、カモフラージュを兼ねて他の集団の外観を模倣していたというのが真相だが、そのような細かい理由を知っている者など組織の外部ではほとんどいない。

 そんなこともあって、市街地から少し外れた郊外地域の山の傾斜最中に立ったその教会を、正確に魔導教の教会として認知している者は少なかった。

 その事とは逆に、多くに知られている事として、教会では留学や赴任などで海外から来た人間を受け入れているというものがある。

 敷地には彼ら彼女らを受け入れるための宿舎もあり、たまに教会の手伝いを頼むことを条件に、その活動を支援していることを知っている人間が近隣には多くいた。

 そこを利用している一人で、ベネティスカの存在は知り合いの間ではとりわけ有名だ。

 学校を終え、教会に繋がる坂道を登っていく外国人の学生の姿はよく目立ち、すれ違って挨拶をされた人間の中に、彼女個人をはっきりと認識できない者はほとんどいない。その可憐で、どこか少女離れした美貌のみならず、自然と身に備わっている洗練された所作は、それだけではっきりと印象が残るほどのものだ。

 彼女もまた教会に下宿して留学している一人だということは、近隣の住民たちもほとんどが僅か数日で認知し尽くしたほどである。

 下校の帰路で歩く彼女の向かう先も、すれ違いざまに丁寧な挨拶をされた通行人たちの誰もが分かりきっていることだった。

 教会は敷地の外縁全体を鉄の柵で囲っているが、ただ一つの門だけは遮るものが何もなく、誰でも簡単に出入りできる形となっている。

 そこから真正面に見える教会の本堂まではまっすぐな一本の道が伸びていて、その突き当りの分かれ道からは、宿舎を含めたそれぞれの施設に繋がる設計となっていた。

 そのため、門からの道は誰もが当然通ることとなるのだが、教会へと帰って来たベネティスカは、すぐに道の先において並んで話す二人の人物の姿を目撃する。

 男女は、そちら側も帰ってきたベネティスカに気づいた様子で振り向いた。

 どちらも既知の人物であったが、男側の正体はベネティスカにとっては予期せぬもので、思わず驚きの色が浮かぶ。

 そんな彼女の反応も彼らにも意外ではなかったようで、近づいてくる彼女に対し怪訝そうな反応など一切なかった。

 声を張る必要もない辺りまでベネティスカが近づいたところで、女の側が声を掛ける。

「お帰りなさい、シスター・アザレア」

「はい。ただいま戻りました、シスター・シャーリー」

 教会の人間、それも長という立場に当たる水木ノアは、当然修道服に身を包んでいる。

 彼女とベネティスカが互いに呼び合った名前は、いわゆる洗礼名と呼ばれるものであり、その宗教に信仰を捧げること誓った人間にのみ与えられる、個々の通称だ。

 ベネティスカは『アザレア』、ノアには『シャーリー』という洗礼名があり、教会内では互いにそれで呼び合っている。

 いつも通りの呼び名、いつも通りの礼儀正しい所作でノアへと頭を下げたベネティスカは、顔を上げた後はいつもとは異なった困惑の表情を浮かべた。

 その視線が向かう先は、この場にいるもう一人の男――正確には少年の側だ。

 知らない相手ではないものの、ここにいるのが不思議な相手ではあった。

「そちらの御方は、確か……」

「えぇ。貴女もご存じの方よ」

 ベネティスカの確認に、ノアは具体的に訊ねずとも把握した様子で首肯を返す。

 二人のやりとりに、しかし当の少年・社城克尊は特に反応を示す様子はなく、一瞬だけ向けたベネティスカに対する視線を、すぐに逸らして周りの敷地の観察へと戻す。

 その横顔と態度に、ベネティスカは説明を求める様にノアへと視線を向けた。

「ちょうど今、お迎えしたところです。これから中に招くので、お手伝いを頼みます」

「承りました」

 まずは応対の用意をという指示を受け、ベネティスカは不満を見せることなく、恭しく頭を垂らすと、準備のために足早でこの場を離れる。

 その際、密かに克尊の様子を窺がう素振りも一切なく、迅速に与えられた役目に移っていく。

対して、そんな彼女の後ろ姿に、いつの間にか視線を戻した克尊は、静かに目を細めた。

一瞬、何か思案するような色が顔には浮かぶが、それもすぐに消える。

ベネティスカを見送った後に視線を戻したノアは彼のその動きに気づかなかったが、彼に声をかけると、供応のための案内へと移った。

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