はい、こちら異世界転生・転移案内所です。事件ですか?事故ですか?

道楽堂

第1話 こちら異世界転生転移案内所です!

 異世界転生・転移―――。

 死亡した人間が異なった世界へ送られ、第二の生を受けること。そして、我々、異世界転生案内所は、異なる世界と異なる世界を繋ぐ架け橋。と、綺麗な仕事ではなく、超ブラック企業です。

「あなたは、死亡しました」

「あなたは、第二の生を受けるのです」

「魔王を討ち滅ぼし、世界に平和をもたらすのです」

 こんな台詞を何百、何千、何万と繰り返しては、事務作業に戻る毎日。

 求人には『死亡者に希望と命を与えるやりがいの多い仕事です!』とか『アットホームな職場です!』とか『取引先の神はみんな優しい!』みたいな甘い文言に騙された私、アリシアは22歳の新卒社会天使です。

「よぉ、アリシア」

「先輩……」

 先輩のネームプレートはくすんで、辛うじて『鹿場衣ししばころも』という文字が読めるかどうか、というくらいだ。

「仕事や。日本時間で明日16:22頃、事故死。高校二回生。名前は『秋野紅葉あきのくれは』、女。転生先は悪役令嬢や。資料に目ぇ通しといてな。今日が初めての挨拶やけど、あんま気張らんでええで」

「はい」

 世界各国の事故を含めた人間の死亡はほとんどが管理されている。この、秋野紅葉さんは、もう明日には死ぬ。どんなに懸命な治療を施されようと、それが覆ることはない。そして、本人が望む望まないに限らず転生するという事実も。

 近年、現代は平和な時代に突入した。前のように『ナポレオン』や『織田信長』など、分かりやすい天才は陰を潜めている。だから、異世界側では「とにかく数を呼ぼう」という方針に変わった。中には『チート』とやら『ギフト』といった先天的な才能を与えてから転生される人間も多い。

 つまり、この職場では何が行われてるかというと、命の選別である。

 誰を現代で殺し、誰をどの世界に転生・転移させるか。それは基本的には全てこの『異世界転生・転移案内所』で行われる。

 今回の秋野紅葉さんは、いわゆる日本の女子高生で、明るく社交的、かつアニメやゲームの知識がそれなりにあるということで、選ばれた。

 悪役令嬢として転移し、傾きつつある王政を元に戻し、魔族による進攻を防ぐ目的がある。

 今は、私は誰を殺すかという仕事は任されていない。主に死亡者の案内が仕事だ。けれど、ゆくゆくは、どこの誰を殺し、誰をどこに送るか、その際、転生なのか転移なのか、『チート』を授けるのかどうか。全て決定する立場になるだろうことを考えると、非常に憂鬱だ。

 さて、資料に目は通した。明日、16:22。までに、受け入れ側の神との最終確認を行う。

 少し前まではこんなに急ピッチな仕事ではなかったらしいけど、近年から急激に以来数が増したため、一日に何人も対応しなくてはならないケースが多々ある。

 愚痴を言う時間もないので、先輩を連れて今回の受け入れ先にお茶菓子を持って伺う。

「お邪魔いたします。私、異世界転生・転移案内所のアリシアと申します」

「毎度、お世話になっとります。今回は引率の鹿場ですわ」

「ようこそ、いらっしゃいました。さ、上がってくださいな」

 神殿のような壮麗な建物の中の応接室に入る。ここは西洋風のヴィンテージを基調とした高級感溢れる世界だ。『悪役令嬢』ということで王政時代のものを思わせる世界に息を飲む。

「秋野さん……聞いています、大変期待できそうな方ですね。ですが、悪役令嬢として、ですか」

「えぇ、先日の打ち合わせ通り―――」

「それ、無しにできます?」

「……はい?」

「ですから、無しにできます?」

「い、いやいや! もうこっちもソレで準備進めてて―――」

「無しにしてください」

「せめて、ワケを―――」

「アリシア、やめぇや」

「ですが―――」

「新人が失礼しましたわ。ほな、俺らは失礼しますわ」

 こうして、私たちは神殿を後にした。あの、有無も言わさぬ雰囲気といい言葉といい神は自分勝手だとよく聞いてはいたが、まさかあぁまでとは思わなかった。

 帰り道、時空を移動する車の中で鹿場先輩が話しかけてきた。

「今日は、ちっと運無かったなぁ。ま、神サマいうんはああいう生きものや。気にしとったら身ぃ持たんで」

「そうは言ったって!」

 私は思わず語気を荒げてしまった。

「まぁまぁ、今回はまだ早い方や。殺してから『やっぱ要らんで』とか抜かしよるアホもおるからな。そうなったらタライ回しや。アン時はキツかったでホンマ」

 鹿場先輩はその時を思い出したのか、少し身震いしながら話していた。

「そんなことあったんですか」

「今なら、まだ間に合うやろ。死亡事故起こさんよう申請し直すのは面倒やけどな」

「そう、ですね」

 そして、事務所に着いたのだが、そこには―――

「……アカンやん」

「鹿場先輩……コレって」

「アホな……明日の16:22が何で既に死んでんねん!!」

 明日、死亡するはずの秋野紅葉がデスクでお茶を飲んでいた。

「ここがあの世……ってヤツ? なんかあんま変わんないね!」

「待て待て待て! オマエ……なにで死んだんや!」

「ん、自殺~?」

「……え? 自殺?」

「そ! てか、めちゃソファーふかふかなんだけど!」

 私たち、異世界転生・転移案内所はほとんどの人間の死亡事例を管理しているが、一つだけ管理できないものがある。それが、自殺だ。

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