―瑞―

ことば

 かつて 彼はそれを

 言語的不能と呼んだ


 罪悪感が

 言葉の根を 枯らすこと


 その名付けは

 切実さを 物語るとともに


 彼が負っていた呪いを

 如実に 顕していたのかもしれない


 ことばは

 ときに祈りとなり

 ときに呪いとなり

 あなたを追い越し

 はじめに灯ってしまうもの


 でも



 

 ――大丈夫よ



 

 あなたはもう それを知っている


 それは時に 暴力となり

 それは時に 慰撫となり

 それは時に 誠実さとなる


 それは あなたと世界を繋ぐ 媒介ミディウム

 わたしと おなじね

 

 そこに 資格なんて 必要ないのよ


 それは

 ただ あふ

 ただ こぼ


 伝い

 濡らし


 乾けば 微かに

 ざらつきを残すもの


 ――涙のように


 見せてもいい

 隠してもいい

 堪えてもいい


 でも 流すことに 資格なんていらない

 それは あなたが感情をもって 生きている証


 見せてもらえたなら その温もりを感じてあげて

 隠されたなら 見ないであげて

 堪えられたなら……



 

 ――あなたは どうする……?



 

 ……私なら 黙って 寄り添うかもしれない




 ……それができるなら もう 平気


 


 言葉は雨

 渇いた誰かの上にだけ 降り注ぐ


 言葉は水

 息のできないあなたの 泳ぐ場所になる


 言葉は湯

 冷えたあなたを 包むから


 でも――


 傷に染みたら ごめんなさい

 癒すことは できないけれど

 

 ひどく ならないよう

 土を洗うことくらいは

 できたら いいな

 

 

 

 そしてこれは 独り言

 私と わたしの 

 時々 誰かの

 小さな溜息




 誰にも宛てない

 仄言ほのこと




 もちろん 拾われたら

 それは それ





 

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