二日目の月

 よい 月だった


 美しい 下の弓張り


 25時


 月を眺めるときは いつも ひとり

 そんな気がする


 私の情けなさも その美しさの前では

 夜の空に さらわれるように思えた

 

 昨日は 見えたと思ったら

 すぐに 雲に隠れてしまった

 でも 今宵は たっぷりと 惜しげもなく


 どこにもいかない


 そう 囁いているかのように


 




 昨夜



 


 

 頭の澱を濾すため

 私は車に乗り込んだ


 なぜか 涙が出た

 悲しいことなど

 なにもない はずなのに


 むしろ近頃は

 すごく

 胸が温かかったのに


 いや

 だからなのだろうか

 

 堰を切ったように

 溢れ出た


 

 

 寒い


 

 

 そう 小さく叫びながら

 私はみっともなく 声を軋ませて 泣いた


 大の 大人の男が

 

 意味が わからないだろう

 私だって

 そんなことは 生きていて 二回目だった


 父の訃報を聞いたときですら

 故郷へ向かう車の中

 私は 不思議と 乾いていた

 


 

 エンジンをかけると

 あの曲が流れた


 Mr.Children 〝HERO〟


 私は何度も この曲に背を蹴られた

 そうやって 進んできた


 でも

 僕は 本当は


 〝HERO〟になんか なりなくなかったのかも しれない

 

 

 ひとりが嫌で

 ただ

 

 そんな呪いを 自分に課していただけなのかも しれない


 


 僕は

 

 俺は

 

 私こそが


 きっと 狐男なんだ




 そんな風に 感じた

 

 


 ふと 見上げると

 昏い雲間に 月が見えた


 下弦の月だ


 手を伸ばす

 その月を 摘む

 口に運ぶ


 冷たく 寂しい味がした

 指先が触れた唇は すこし 乾いていた


 再び見上げたときには

 月はもう 雲に隠れていた

 

 それは

 ただ ありのままの事実で

 

 なんのメタファーでも

 ありはしない


 はやく 飲まなければ

 二錠の 月白を









 

 それが 昨夜の出来事


 でも

 再び月を見上げて


 私は思う


『最後のデザートを笑って食べる 君の側に僕は居たい』

 

 その気持ちは やはり変わらない


 疲れ果てた夜 なにが欲しいかと 問われたら

 それはやはり


 好ましいだれかの

 そんな笑顔を

 となりで ただ 眺める

 そんな 贅沢


 うまく笑えない 僕の代わりに

 うまく甘えられない 私の代わりに









 そんな我儘を

 月に 流し









 この声の届く あなたの夜が

 満ち足りたものであることを

 誰かの やさしいまなざしに 浴していることを








 

 私は 心から 

 祈っています


 






 

 いつも そこにいてくれて

 ありがとう


 






 


 







 ……いまにも死にそうですね(笑)


 でも大丈夫

 なぜなら いま うちの冷凍庫には


 雪見大福が あるのだから

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