第17話 フルオーバーティタネス・システム
「くそっ!? なん、だよぉっ!? ごれはぁっっ!?!?」
アリーナが騒然とする中、アデルのぐもった声が響き渡る。
失ったはずの推力が戻り、空中で停止したアデルの全身からエレメントの波動が吹き荒ぶ。
「やはり、仕掛けられていたか……」
前髪を揺らす烈風の中で、アデルの姿が変質した。
目は赤く光り、牙が
全身の筋肉が増していき、金色の髪の毛はまるで獅子の
その様は、まるで――。
「マンティコア……」
そう、先日のエデン襲撃において出現したティタネスの一体。
『暁っ、これはどういうことだ!?』
「あ、えっと……」
『録音はしていない。オフレコだ! 手短に話せ!』
ゲルテューアを構えると、冴華姉さんからの通信が入った。
責任者としては、当然の対応か。
「“フルオーバーティタネス・システム”……
『ちぃっ、そんなものが……』
「最強の敵は、最強の味方になるかも……ってことだな。反吐が出るけど……ッ!」
俺の刀身と、アデルの剛腕が激烈な勢いでぶつかり合う。
その余波だけで、アリーナのバリアが反応した。
『それが分かっていながら、なぜ決闘を受けた!?』
「人体とティタネスの細胞が中途半端に結合してるせいで、医療的な
『なんという無茶を……』
「黙ってたのは悪かったけど、他にやりようがなかった。まあそういうことだよ!」
刀身からエレメントを発振。漆黒の光刃でアデルの右腕を斬り裂く。
腕を落とすまでには至らなかったが、そこそこ深く刃が入り――。
『今度は、サラマンダーか!?』
炎の
更に火炎放射。
まだ幾分か、アデルの面影を残す口元から炎が放たれる。
「
更にグロテスクな光景と化したが、俺は炎連弾の間を
更に斬り抜けた体勢から即座に反転するとエレメント弾を連射し、漆黒の弾丸を浴びせていく。
前方からは斬撃、後方からは射撃。
アデルの全身から、鮮血が舞う。
『暁、お前はそのまま足止めしろ。澪を出す! 二人で叩け!』
「いや、大丈夫だよ」
『何を言っている!?』
「だって当たり前だろ。
『全く、お前という奴は……』
心底呆れたような嘆息が通信越しに聞こえる。
『暁……』
緊急事態に際し、メインモニタールームに移動していたらしい澪が、冴華姉さんが通信を変わったようだ。
ちょうどいい。伝えたいことがあった。
「澪も心配するな。それより他の連中を安心させてやってくれ。アイツは俺がぶっ飛ばすから」
『……分かりました。信じています! 絶対無事で……祝勝会をやるのですからね!』
「あいよ!」
こんな絶好の機会を逃してたまるものかよ――ってのは、二割ぐらい冗談として、本音は別だ。
いくら頼りになるって言っても、やっぱり澪を危険な目に合わせたくない。
それにせっかくのアヴァリスの初陣だ。
どうせなら、格好良く終わりたいだろ――ってな。
「月城ォォッ!!!!」
「相変わらず、声がデカい奴だ!!」
再び光刃と剛腕が激突する。
だがさっきより出力が上がっているのか、今回は体表を斬り裂くことができなかった。
更に
さっきまで俺がいた場所には、鋭利な尾が踊っていた。
「ったく、本格的に人外染みてきたな」
一刺しされたら毒で即死。
というか、口から炎とか自由自在の尻尾とか、もう完全にティタネスそのもの――いや、複数種の特徴が
何より奴の全ての攻撃には、エレメントの光が薄く宿っている。
怪物という言葉は、今の奴にこそ
「くそっ!? くそっくそっ、くそぉっっ!?!? 何で言われた通りにやってるのに、天才の俺がァっ!?」
「誰に言われたのかは、
「い、やだっ!? 俺は勝つんだ! いつだって勝つんだ! 落ちこぼれなんかに、負けてたまるかァァッ!!!!」
アデルの全身から力の波動が吹き荒ぶ。
これまでとは別次元の
黒い双翼、剣の如き両爪、
俺はこの
「フェルニゲシュか!? それにマンティコアとサラマンダー……こんな組み合わせ、そうそう揃ってたまるかよ!」
フェルニゲシュなんて大物が、二体も三体もいるとは思えない。
それに細胞とは言わないまでも、血液サンプルを入手できた貴重な機会には、あまりに心当たりがある。
マンティコアやサラマンダーも同じだ。
ちょうど学園内に、細胞のサンプルが転がっていたはずだからな。
つまりこの事態を引き起こした張本人は、エデン襲撃――俺たちの戦いを利用してティタネスのサンプルを確保。
精神的に不安定になっているアデルに付け込み、最新鋭のシュラウドとそれを扱える
自分の手を汚さない最低の方法で――。
この学園の生徒も、教師も、管制官も、シュナイダー博士を始めとしたシュラウド開発者たちも――多くの人間が、世界を守るために命と知恵を差し出している。
でもこの力は違う。
その全ての想いと犠牲に、泥を塗る最低の行為だ。
どこの汚い大人が原因は知らないが、随分と
まあいいさ。
純正の
それほどまでにアデルをボコボコにすれば、二匹目のドジョウを狙うバカもいなくなるだろう。
思ってたのとは違うが、さっそくアヴァリスを受けった意味もあったらしい。
「月城ォォッ!!」
「そんなに喚くな。ちゃんと最後まで付き合ってやるよ!」
誰かに誇る力じゃない。
護りたい人を、護る力を――。
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