第45話 揺れる狭間


 目の前から迫りくる虚空。


 刀で斬り上げると、真っ二つに割れ、消滅してしまった。

 その風圧で灰色のフードがめくり上がり、彼女の白黒の長髪が見える。

 彼女の右目の周りには奇妙な紋様が刻まれており、それはどこかで見たことがあるように思えた。

 同時に、彼女はスキルが斬られた事を驚いている様子だった。


「何なんだお前は......」


 俺は彼女の質問には答えずに、疑問を返した。


「一つ、聞いていいか? どうしてグリモニアに侵攻しようとしているんだ?」


 すると女性は苛立ち、凄まじい形相で薙刀で連撃を加えてきながらも、質問に答えてくれた。


「ザラクの配下、赤き龍を屠った者を処刑する為だ。そいつが名乗りを上げるまで、グリモニアを戦火の炎で燃やし尽くしてやる」

「へぇ......赤いドラゴンか......」


 彼女の攻撃をいなし、同時並行でその他大勢の魔族達の攻撃を受け流していた俺は少し呟いた。

 

 あれは忘れもしない、この世界にやってきたその日の事だった。

 俺はスミミさんを襲っていた巨大な龍を、真っ二つにした。

 姿は赤いウロコと沢山の角、加えて変な紋様を目の周りにくっつけていた。

 

 今思えば、スミミさんが住んでいた村の少女が毎年生贄として18歳の少女食料を捧げていたから、辺りに住み着いていたのかもしれない。

 

 けれど、あまり強く無かったし、辺鄙へんぴな所にいた為、魔帝の配下という訳ではないのだろう。ドラゴンなんて、どこにでもいるだろうし。


 すると桃髪の少女にして魔帝ザラクが、俺の呟きを聞いて攻撃をやめた。


「っ......! お前、何か知っているのか!?」


 少女らしい高い声を出す彼女に対して、俺は白黒の女性の攻撃をいなしながら首を横に振った。


「いや、俺は知らない」


 しかし、彼女は必死に叫び声を上げながら、コチラに訴えかけてくる。


「何でもいいから教えて! リューちゃんは六つの角が生えていて、瞳の周りには綺麗な紋様があるの!」


 自分には関係無い、今はそんな事よりも大切な事がある。――と、一瞬思ったが、彼女の口から発せられた単語を頭の中で反芻して、俺は桃髪の少女に疑問を投げた。


「待ってくれ......。もしかして、それは『ショコラタウン』という街の近くに生息していたか......?」


 言うと、桃髪の少女はハッと息を呑んだ。

 そしてそんな彼女の表情を見ていた女性はコチラを鋭く睨み......。


 ――瞬間、平原と砂漠の狭間に一つの声が響き渡った。


「魔王軍の皆よ! 俺はシェルバイツの王子、ルフェウス・シェルバイツという者だ! どうか俺の話を聞いて欲しい!」


 ルフェウスは拡声器も持たずに、全力で大声を出し、皆に訴えかけていた。

 皆は攻撃を止めて、彼の声に耳を傾けた。


 ここまでは作戦通り。

 しかし、彼が言い放った単語の中に聞き逃がせないものがあった。


 軍。


 ルフェウスは確かに魔王と言った。魔帝軍ではなく、魔王軍と。

 それは、この場に魔王がいるという事を意味している。

 そしてディメント側の一番の実力者は、白い髪をした彼女だ。


 つまり、俺の目の前にいるこの白黒の髪をしている女性こそが、ディメント大陸の魔族全員を束ねる、魔王その人という事になる。


 そしてその魔王らしき女性は、金髪の青年ルフェウスの方を見て、酷く瞠目している様子だった。


「シェルバイツの第四王子が、なぜグリモニアの国境に......」


 訥々と独り言を述べる女性。そしてルフェウスは声を張った。


「この先の戦いに身を投じれば、多くの犠牲を伴う。それはグリモニアの勇敢な兵士、そして魔王軍の勇敢な兵士達だ! グリモニアの兵も皆も、それぞれの信じるモノの為に命を懸けているのだろう。――だが、お前達は、ただの駒ではない。家族がいて、故郷がある! そうだろう! 彼らが、皆が、この先の戦場で戦う度、多くの血と涙が流れる。それを見過ごす事は、このルフェウス・シェルバイツには出来ぬ!」


 彼は全身全霊を声に込めて、見据えた未来の為に口を、肺を、脳を、動かした。


「だからこそ俺はここに立っている! 武器を捨て、対話の為に! 彼もそうだ! 逸脱した力を持っていながらも皆を傷つけないのは、ひとえに対話の為にだ!」


 ルフェウスの声色には人を引き付ける何かがあった。

 魔族たちは思わず、ルフェウスの声に聞き耳を立てている。


「魔王よ! 聞かせて欲しい! 貴方の望みは何だ! グリモニアの支配か!? それとも破壊か!?」


 魔王に問うルフェウス。

 

 そう問われた本人は、俺を指差しながら横にいた桃髪の少女に対して口を開いた。


「ザラクよ。この青年が言った街の名前に覚えはあるか......?」

「うん......。 ショコラタウンは昔、私があの子を放った場所の今の名前だよ......」


 悲しそうな表情を浮かべる魔帝と、怒りを噛み締めている様子の魔王。

 彼女は憤慨した様子で大声を放った。


「シェルバイツの王子よ! もはやこの場に貴様がいる理由を問うのは、時間の無駄だ。であれば貴様の顔に免じて、一つ教えてやろう!」


 魔王は言う。


「私が望むのは――この男の死だ! 私の部下であるザラクの配下、赤き龍を殺した罰として、こやつの処刑を所望する!」


 そんな冷徹な声色が砂漠と平原の狭間に、反響した。

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