第10話 円卓会議
ユウとスミミが現在いる国家グリモニア。
そんなグリモニアのどこか一室。
一つの巨大な古机を囲んで、豪奢に椅子に座っている数十人の人物がいた。
円卓会議。戦場から退いた数々の歴戦の猛者達が一同に介しているこの場は、歴戦の戦士達がそれぞれの豊富な経験と知見を集結させて、騎士団の重要な戦略的意思決定を下す為に設けられている。
しかし、事態は緊急を要しており、議論は
もみあげの長い男は顔を赤くしながら額に汗を流し、悲痛な表情で叫んでいた。
「どうなっているんだ! 今は絶境大陸から魔帝の一人が侵攻して来ている緊急事態なんだぞ! だというのに......修行に行くから騎士団長を辞めるだと!?」
糸目の女性は、何枚もの資料を読みながら質問に
しかし彼女の声色にも、少しばかり焦りともどかしさが見えた。
「現在は二番隊隊長と三番隊隊長が、団長の代理を務めているようですが......」
すると高齢のエルフの老人は高らかに声を上げて、その長い耳を赤くした。
「あの団長の代わりなど、どこにもおるわけが無かろう! あやつは千人に一人の逸材じゃ! この場にいる誰の全盛期であっても、奴の実力を凌ぐことは不可能だと、皆、分かっているはずじゃろう!!」
そう。歴代最強と言われた騎士団長リエルの実力は、この会議にいる誰もが、身に沁みて理解していた。
そして彼女が正論や報酬、もしくは脅迫で、首に縄を付けて御せるような人物ではないことも。
そして会議に訪れる短い沈黙。
皆、もどかしさと歯痒さを抱えながら必死に頭を回転させる。
「っ......。昨年の魔法協会との抗争で失われた、一番隊隊長の候補はまだ見つかっていないんですか!?」
そんな
しかし糸目の女性は残念そうに答える。
「人材育成には力を入れているようですが、未だおらず、現在は欠番のようです」
するともみあげの男は、こめかみに手を当てながら溜息を吐く。
「はぁ。仕方ない、魔女会のメンバーにも当たってみよう......。今はどこにいる?」
隻腕のオークの青年は『魔女会』という単語を聞いて、反射的に口を挟んだ。
「っ......。あいつらは魔術協会の脱退者達ですよ!? そんなならず者達......」
するとそんな指摘に、今まで神経質そうに足を小刻みに上下させていた吸血鬼の男が声をあげる。
「うるさいぞ! 敵の敵は味方、危険を承知で侵略を防ぐのと、何もせずに魔帝に国を乗っ取られる。どちらを選ぶかは明白に決まっているだろう! そんな事もわからんのか、この若輩者! 無知ならば、口を縫い付けて黙ってろ!」
その反論はこの場にいる大体の総意ではあったが、男の言い方はあまりにも攻撃的であり、会議の空気が少し淀んでしまう。
そうした重い空気の中、糸目の女性は古びた地図を机に広げ、赤いバツ印が付けられた部分の地名に目をやる。
「魔女会の一人は、現在地は絶境大陸のフォクスネル領です」
もみあげの男はしっかりと頷いて、従者の青黒い髪の青年に命令を下す。
「そこなら例の魔帝の所有地ではないな。よし、文を頼む」
「はっ」
しかし魔女会に要請を送ったところで返ってくる保証は無い。
もし応援が無かったとしても魔帝に国を乗っ取られる事は無いだろうが、良くても辛勝、苦戦を強いられる事は間違いない。
「しかし、団長の不在は不味いぞ......。最悪他国から攻め込まれる好機だと思われるかもしれない......」
そんな誰かの呟きによって、ますます騎士団長の不在が不安の種になる。
しかし、そんな再び訪れた沈黙を破るような一声が、どこからか発せられた。
「すいません――僭越ながら、口を挟ませて下さい」
丁寧に手を上げたのは片耳が欠けた、金髪の
「良い。奇譚のない意見を聞かせてくれ」
別に承諾を取る必要は無かったが、もみあげの男は承諾し、女性は語り始める。
「はい。騎士団団長が辞任した理由ですが、聞く所によると、ある青年との戦いに負けたからという噂がございます。もし、その青年が実在するというのならば、彼女を超える戦力が......」
そう語っていると突然、空間に響く衝突音。
見ると、吸血鬼の男が、机を拳で叩いていた。
「冗談も休み休み言いたまえ! 現団長を超える達人など、この国にいる訳がないだろう!」
男は血走った瞳をしており、強烈な物言いで女性は少し萎縮する。
同時に狐人の女性は、苛立ちを覚えながらも何とか平常心を装おうとするが......。
――しかし、円卓の間に響いたのは優しい声色。
その声の主は白く長い髭を携えながら、微笑みを浮かべる白髪の老人だった。
「まぁ、落ち着いてくださらんか。ここはひとまず頭ごなしに否定せず、まずは彼の話を聞いてみようじゃないか。君、その話はどこから?」
視線を向けられた
「はい......。先日、騎士団にて団長と青年が、つばぜり合いをしていたのを見た騎士団員が仰ってました。彼ら彼女らが言うには、二人が一太刀を交わしあった後に、団長は一言『負けた』と呟いたそうです」
彼女の言葉によって会議は騒然とする。話を肯定する者、否定する者。
そうして
「何をほざくかと思えば......! はぁ......これだから
吸血鬼の男は語気を強め、ついには立ち上がって身振り手振りを用いて荒ぶる。
しかし、先ほどまで微笑んでいた白髭の老人は、鋭い瞳を向けて......。
「先ほどから少し目に余りますな。君にとって議論とは、己の感情で相手を押し潰すことなのかな?」
今度は威圧するような声色で男に質問をする。
傍目に聞いていた者であっても、心臓を掴まれるような言い知れぬ圧迫感に包まれていた。
「いえ、ですがあのような若輩者に......」
そんな重圧を受けてもなお、苛立ちを露わにしている男に対して、老人は痺れを切らした。
「くどい。ここは戦場を退いた歴戦の戦士達が一同に介し、重要な事柄を定める場。英雄に古きも新しきも存在せん。それは君も同様だ。しかし、それが理解できないようなら、退室を願うことになるがね」
白髭の老人が圧倒的な闘志を見せつけると、吸血鬼の男は体をブルブルと震えさせ、瞳に若干の涙を浮かべていた。
「っ......。申し訳......ございません......」
そうして頭を丁寧に頭を下げる男の様子に、老人は微笑みを取り戻して。
「ふむ。分かってくれたなら良い。さぁ皆の衆、議論を止めて悪かったのう。では、再び始めるとしよう」
柔らかく響き渡り、すっと人の心に沁みるような音色は、会議の場を一新させた。
「よし。では噂の青年を探すと同時に、魔女会にも救援要請を送る。そしてギルドにも要請を送り、冒険者達も戦力なってもらうということでよろしいでしょうか?」
「ふむ。ありがとう」
糸目の女性、は会議で定まった情報を皆に知らせるように口を開き、白髭の老人は優しく首肯した。
そして、この場を締めるように老人は
「さて、こんな状況ではあるが、来週には、戦争国家シェルバイツの第四王子が文化交流を目的にお越しになる。
そんな最後の一言を以て、今回の円卓会議は無事終わりを迎えた。
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