第16話
舞と楓は図書館を出て行ってしまった。あの様子だと楓は戻る気はないのだろう。まあ、いいか。正直いって、レジュメ作成を全員で作り続けることに疲れてきたころだった。しかし、まあ、俺たちが勝手に帰ってしまったら武内までも怒らせてしまいかねない。
ちらっと、横目で東村を見ると、何やら本を読んでいた。
「おい、何の本を読んでいるんだよ」
本には水色のブックカバーが欠けられていて何の本であるかわからない。
「僕が読んでいる本ですか?」
「お前意外、誰がいるんだよ」
「そうですね」
「で、何の本なんだよ」
「哲学の本です。読んでいると落ち着くんです」
「はあ、哲学ねえ」
いったい哲学の本を読んで何がそんなに面白いのだろう。
第一、答えがでないことを無意味に考え続けて、挙句の果てに答えがでなくてもその過程に酔いしれている。どうにも気持ちが悪い学問だ。
「じゃあ、お前、哲学の講義取ってるんだ」
「ええ、そうです。荻原君もですか?」
「ああ、そうだよ。選択必修で他に楽な科目がなくて、授業がなくてもプリントだけ講義の最初に貰っとけばレポートは書けるからな」
「それはもったいないですね」
「何がだよ」
「哲学の本当の面白さは講義を聞かないとわからないですよ。論理を積み重ねた重厚な過程は本当に美しいですよ!」
東村の顔が妙に真剣味を帯びているのがわかった。知識の押し売りに付き合わされるのは御免だ。話題を変えよう。
「俺は単位が取れればそれでいいからな」
「まあ、人それぞれですからね」
案外あっさりと食い下がるのか。テンションの上がり下がりがいまいち読めない。
「お前、読書以外に趣味とかないの?」
「趣味ですか。文芸部以外には、カフェ部に入っていますが…」
「えっ!そうだったのか?でもお前がカウンターに立ってるの見たことないぞ」
「ええ、あまり自分の気質となじまない人ばかりだったので、部活にはほとんど顔をだしていない幽霊部員なんです」
「たしかにお前がカフェ部っていうイメージないもんな」
「コーヒーを淹れることは好きなんですけどね」
「ふーん」
「興味なさそうですね」
「ああ、興味ない」
話しのネタが大体尽きたような気がする。
東村は再び手に持っている本に視線を戻していた。
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