太陽の秘密バレ

ほしレモン@カクヨム低浮上

第1話 始まりの風は

 開いた窓から、風が吹いてきた。


「あー! ぜんっぜん案が思い浮かばない!」


 感情のままにバンっと勢いよくパソコンを叩くと、隣から「うるさ」と呆れたような声、そして胡桃先輩の「パソコン無事!?」という絶叫にも似た声が部室に響いた。


「パソコンは大丈夫です、でももう無理ですよ―!」


 もう一度力任せに叩きたいのをこらえ、特大のため息を付く。


 私は月ヶ丘中学の、文芸部に所属している。活動としては1か月に1度の短編小説を書いたりしているが、最近は9月後半に控えている文化祭に向けての小説を用意している。


 通っている学校は駅にも近いから、学校帰りはみんなで何かを食べたりしながら帰る。寄り道はしないというけれど、まぁバレなきゃセーフってやつだ。


 そしてこの文芸部、実は廃部寸前。他の部はもっと人数がいて賑やかなんだけど、文芸部は私を含めて5人。1年生も2人いるけど、顔を見せないので幽霊部員ということで紹介は省く。

 残りの3人は先輩である、胡桃先輩、そして私――木戸きど日向ひなた――と、


「締切来週なんだけど、まさか、まだ書いてないなんて言わないよな?」


 私の方を向きながら鬼のような表情で見てくるのは、幼馴染の長宮ながみや玲斗れいと

 玲斗は小説は書かないけど、冊子にしてくれたり本の改稿を行ってくれる、編集者的な立場だ。玲斗は本もあんまり読まないし、文芸部なんて興味ないと思っていたけど意外にも勧誘したら来てくれたのだ。


 はぁ、アイディアが落ちててくれればなぁ……。


「そのまさかなんだよね、ミステリーにしたいのに案の要素がないんだよ〜!」

「おい!」

「と、いうわけで。締め切り間近だけどちょっとまってね」

「はぁ……。お前なぁ……そろそろいい加減にしろよ。先輩にも迷惑かけてんだろーが」


 この会話も何回目だろ? 毎月お題に合わせて小説を書き冊子として配っているけど、毎回私が遅れるせいで数日遅れた配布になっているのが現状。

 すかさず胡桃先輩が「迷惑じゃないよ」とフォローしてくれるが、まぁそろそろ締切くらい意識したほうがいいんだろうなと、少し反省だ。


 玲斗の呆れたような声を聞きながら、私は画面に向き直って小説投稿サイトに移動する。

 小説投稿サイトには、任意で自作の小説を上げていいことになっているので、私もたまに小説を上げているのだ。


 胡桃先輩もアカウントを持っていて、何作品か投稿していた。

 でもまぁレベルが違う。私はフォローも1、2もあれば良い方で、レビューなんてもらえない。コメントもなかなかもらえないのだ。

 胡桃先輩は常に多くの人の応援をもらっていて読者も定着している。


 私とはまさに雲泥の差……。


 うーん、と悩んでいるところに、自分の作業が終わった胡桃先輩が「それならさ」と声をかけてきた。


「長宮くんと二人で駅前に取材に行ってきてみたら?」

「先輩!?」


 その声に、私はたまらず大声を上げた。

 別に幼馴染の関係である以上、出かけるというのは別に変な気持ちとかなく、普通のことなのだが中学生にもなれば少し違う。

 玲斗を見ると、『まじで行くのか』という目でこっちを見てきている。


「私もネタがないって言ってたときに、先輩にアイデア出してもらったし……」


 胡桃先輩の言う『アイデアを出してもらった』とは、我が文芸部では有名なあの話のことだろう。

 この話も、本の中の話だと思うくらいロマンチックな話なのだが、この話を持ち出すと胡桃先輩が恥ずかしがるので割合する。

 「取材って意外と楽しいよ」と最後の一押しだとばかりに言われ、私は「よし」とうなずいた。

 

「それなら行こう!」

「おい」

「玲斗、てことで今週の土曜日開けといてね。胡桃先輩ありがとうございます〜!」

「おい!」

「前から行ってみたかったアイス屋さんとか、ベーグルのお店とかあったんだよね。玲斗、甘いもの嫌いだろうけどちょっと付き合ってよ」


 ぎろっというブリザード級の視線を受けながら、完全無視を決め込んですぐに予定を立てていく。


 小説投稿サイトの新作を書くページはまだ真っ白だけど、あと1週間もあればなんとかなる!


 ウキウキとしながらお店を調べていると、斜めの方からやけに殺気立った雰囲気を感じる。

 流石に無視できなくて、機械のように首を動かすとそこには鬼のような表情で顔を真っ赤にした玲斗が立っていた。


「勝手に予定を決めるな! 俺もいいなんて一言も言ってない。そもそもお前は時間がないのに今まで書いたこと無いジャンルに手を出すな!」

「じゃあいつまでも恋愛小説を書いてろっていうの? いろいろなことにチャレンジするのが部活でしょ!」


 私が立ち上がってそういうと、玲斗が悔しそうに顔を歪める。


 ふ、勝った!


「と、い、う、こ、と、で。土曜日はよろしくね」


 私が二コリを笑ってみせると、もう何も言えなくなったのか、黙って席に座った。


 席に着いた後も、なぜだか心臓はマラソンでも行ってきたかのようにバクバクと高鳴っていた。

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