長期出張

 唯一ただかずは亜由美には何でも話すし、話し合う。だけど今度はいきなりびっくり

するようなことを言った。しかも唯一ただかずひとりの決定で。


「遠距離出張することになったんだ」


しかも期間は半年。

唐突なのは、早く申し込まないと誰かに取られてしまうから。会社も人が悪い、

こんな大事なことはもっとは早く告知してくれれば対処のしようも変わって

来るのに。


「それに亜由美ちゃん、きっと反対するだろうから」

「そんな…私その間どう暮らしていればいいの?」


亜由美にとっては出張自体が初体験。出勤中ですら首を長くして待っているのに、

半年も別れ別れになるなんて今から耐えられないことはわかっている。でも唯一ただかずは、


「亜由美ちゃん、子供が欲しいんだろ?」

「え、ええ」

「だから稼いでくる。家計を支えられる夫でいたいんだ。亜由美ちゃんに負担を

 かけたくない」


決心は固いようだ。夫の考えはうれしいし、顔も立ててあげたい。でもいないのは

いや、私と離れて暮らすなんてという怒る気持ちと、いっしょにいれない時間が

増える淋しさ。否定と肯定が交錯して心の中は複雑だ。きっぱり決められないまま

出発前夜を迎えた。


「送別会みたいなごちそうだね」

「社食、ないのよね?せめて今のうちにたくさん栄養をとってほしくて」


本当は手料理の味を忘れてほしくなかった。大げさだが亜由美のせいいっぱいの

気持ちなのだ。大丈夫、気持ちはすでに伝わっている。

明日出発となると眠れなかったが、いやでも朝は来る。会話がなかっただけで

二人とも眠れない夜をすごした。

当日はバス停まで送ったものの、二人とも見つめ合うだけで声は出ない。これきり

お別れでもあるまいに。

唯一ただかずのいないマンションは広く感じる。冬の寒さが淋しさをいや増す中、亜由美は

二週目で音を上げた。


<カズくん、私さみしい>


今は夫に抱きしめられる夢を見ながらいる。日々がつまらない、夫のたくましい体に

甘えたい…。

でも、このことは誰にも相談できない。うかつに「夫がいなくて寂しい」なんて

もらすと、ママ友たちに嫌われるかもしれない。どこも夫婦関係は簡単ではないし、

グループで子供がいないのは亜由美だけだから。

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