言えない想い...

ran_

あの日 あの場所で 

https://youtu.be/8rc8-lkhaOE?feature=shared

(Bach 無伴奏partitaより)


爛々と目が輝く 青空の上 原っぱを駆ける

風の様に速く はやく


「名前」を呼ぶ


どんなに遠くても 僕を見つける


前足を出して尻尾を振って勝負する

どっちが速いか駆けっこをする


「まだ走れるよね?」 「もう疲れたの?」


挑発的な爛々とした瞳


肺に大きく息を入れて キミが疲れて

抱っこをしてと言うまで走る


ある朝 扉の前で決して譲らなかった。

あの日倒れるて生死の境をまた歩むと

知ってたのか


主治医が言った。


「私は非科学的な事を信じないけど

 君と付き合いが長いからなぁ

キミのそんなロマンチックな言葉嫌いじゃ無い」


目が覚めたら走れない身体

あの日の記憶 見覚えのある白い部屋


肩まで伸びてる髪


起き上がりたいのに感覚が無かった

前後が思い出せない...



-空は変わらず蒼い


久々の外の空気を胸いっぱい吸う


携帯は運ばれた時に無くなった。

隠してた持病を親が話して満場一致で

身分保留になった。


車椅子でランに会う


少しも変わらない笑顔で顔を舐めてガジガジする

僕の袖を引っ張る


-なぁ もう痛かったんじゃないのか?


《変わらない事に意味がある》

若い頃の僕の意地だった


遠い地で1人でリハビリと闘ってた


扉を閉める時 

変わらない笑顔で送ってくれた



-ある時、ランが倒れた。


電話が越しの母の声は震えてる 

まだ上手に動かない足を引き摺り飛行機に乗る


「卵巣嚢腫」だった...

いつもの僕なら気づいた筈だ


僕が生死を彷徨って

家族も周りも引っ掻きまわした。


手の施しようが無い、持って数週間


-何を見てたんだ。何の為に此処に居る


誰よりも今日を求めて 

また走る為に 掴む為に必死だった


試練の様に祖父が亡くなる


2人の時に父がステージ3だと僕に言う、


話したのはいつ以来か分からなかった


---


恋人の両親から打ち明けられる


「娘と別れてくれ頼む 

君から言えば別れられるだろ? この通りだ」


他人の親に初めて涙ながらに言われた


20代で2度目の大失恋


-始めて弾く事が 自分が怖くなった



---



ずっと泣いてたのか目が腫れぼったくて

ずっと ずっと 腕を掴まれた


「肝心な時に 何で居ないの」


喧嘩しても何をしても走って見つけた


ランみたいに僕は陸上やバスケで

走る事が得意で いつでも何処でも走ってた


握り返す力は無かった だって感覚が無い

なのに とっても手が痛いんだ


「後悔するよ いつかきっと」


(毎日 毎日 してるよ)


今なら分かるんだ 頼ればよかった。

家族や師匠や友人を


この瞬間を掴んで 勝負して夢を実現させた



-もう自信が無かった。


何度も夢みた 良いパパになって

息子か娘と弾く未来


料理もお菓子も勉強したから毎日作った

早朝 学校が始まる前

寮の前 家の前で待ってた


ランと散歩してたら 人が寄ってきた


笑顔がみんな好きなんだ!



無機質な病室で主治医に言われる


「お子さんは無理だと思うけど...

紹介するよ。キミは幸運な方だ」


破綻して立ち上がれないのに


記憶や想いが捨てれない


-きっと世の中の人はみんなそうなんだ


無理でも苦しくても 

あの雲が晴れるかなと願ってしまう


泣きたい位辛いとき僕は笑う

そして今 弾きたくなった



「幸せになれよ」


学生時代は追い掛けて

何度も壁を一緒に越えた

不可能なんて僕の辞書には無かった


失恋して 今度こそと毎回

最初じゃ無くて最後に人になりたかった


お爺さんになっても隣でヴィオラみたいに

口煩く喋って 明るい話意味のないをする


欲張り過ぎたのかもしれない。


僕は その場から動けない 

無理やり抜いた点滴の針すら痛く無かった


扉が閉まる 

涙は枯れた筈なのに

雨が降る


窓を見る 風が舞う


言えない想いが 積み重なる


------言えない一言------



下手くそで 全然歌えなくなった

背中を向けて捨ててごめん


倒れる前に病気をもっと早く

言えばよかった 全て隠さないで


そうしたら大切なものが

全て手から溢れずに 皆 笑えてたかな?


何度巡っても きっと同じ選択をする

止められても 突き動かされるままに

伸ばした手が届かず いつも病院のベット


目が覚めたら 時が過ぎてて

手足の感覚が全て無かった 


過去を消しても僕は変われなかった

人が好きで音楽が好きで

お調子者でうるさい奴


舞台に上がるときだけキラキラしてる

恥ずかしい事を人前でよく言う


恐怖も不安も緊張も無い だってみんながいた


走る横顔が爛々として「Ran」と名付けた

どんな時でも扉を開けると笑顔のきみが居た


キミから教わったんだ。沢山の事


甘酸っぱい青春や夜が明けない闇の中でも

黙って背中越しに ピタって付いてぺろぺろする


丁寧に毛繕いする様に僕の側を離れない


どんな時代も忙しくなって


「ごめんっまた今度」 


何で僕はこんなに馬鹿で不器用なんだ 


分かり合えたかな? 

幸せだったのか? 


言葉で紡がない 何かに込めちゃう


遠い地で誰かを何を想って弾くと


誰かが声を掛けてくれた


音楽をやって心から良かった


涙は君の前でしか見せた事は無かった


君に似てるのか 僕に似てるのか


爛々と夢を追いかけるその瞳

舞台の中心で夢を追うときだけは輝いてた


ボロボロの状態でも 家族も医者も先生も

皆 黙ってくれた


土間で高校生の頃

始めて楽器を弾いたあの時


気持ちよさそうに側に居てくれた


僕の命を上げたかった

キミが居なきゃ走れないよ


起こさない様にそっと そっと

大きな音じゃ無くてセロ弾きのゴーシュ

子守唄の様に弾く


晴れ舞台 君の代わりに恋人が

祖父やヴィオラが嫌いな母が 師匠が

いつだって 僕は誰かに届けてた


信じてくれるから 立ち上がれないのに

僕を突き動かす もう少しだけ頑張れた


ヴィオラはね1番前で弾いても目立たない

でもね必要なんだ。


オケが停滞したり背景が足りない時に

影で支えれる。


他の楽器の魅力を僕は弾き出せる

ついてこいと背中でみんなに見せる


初めて数年の初心者が


沢山語りかけたよ 全ての人に

届かなくても笑われてても


ヴィオラが僕を見つけてくれた


其処にキミはいれない もう居ない


恋人や友人を連れてくると 

初めは影に隠れてるのに 撫でられると嬉しくて

リードを口に咥えて走るんだ


喧嘩してお互いが悩んでたのが嘘みたい 

キミは魔法使いだ


「ランッ!」


振り返る瞳はやっぱり 爛々としてた


疑わない心に忠実で お日様みたい


リードを話してもリードを加えて持ってくる


迷った時に キミはいた


遠く離れてても 海外でも


世界が闇に包まれて 疫病が心を蝕んでも


-遅いかな? 今からじゃ


分かったんだ 


-青空の元 一面の原っぱで駆ける

名前を呼ぶと小首を傾げる 風が吹く


届けばいいな 届くかな?


作 sik


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