5話 砕けたこころとロックユー
「世の中には知らない方がラクなこともある」
というのは、何かのアニメで主人公が言っていたセリフだ。
ホントにその通りだな。
例の一件でイチローは、
自分が弱くて、しょぼくて、情けない人間だと知った。
できれば知りたくなかった情報である。
ああ、このまま消えてしまえたら、
どれだけ楽だろう。
思った矢先、
こころの中から舌打ちが聞こえた。
イチローのこころは
まだ死んでいなかったのだ。
有紗によって落とされた大きな影は、
イチローに光を生んでいた。
光が影を生むように、
影が光を生むこともある。
ただしそれは、
真っ赤な光だった。
見る夢を赤く染めるほどの熱量が
胸のうちにある。
うおお、燃えるぜぇってカンジだ。
こんな気持ちになれるなんて、
我ながらびっくりしていた。
そうだ。
名案を思いついたイチローは『バトルロギア』を立ち上げて、
ラウテルにコメントをした。
全てを話し終えたのは、
放課後もずいぶん遅い時間になってからだった。
<大変だったンゴね~>
ラウテルの優しい言葉に、
思わず目頭が痛くなる。
イイやつだぜ、ラウテル。
<長くなってごめんね。説明も下手くそだったし>
<いいってことよ。あたしヒマだから。
そのかわりブラックサンダー1年分を所望するぅ!!>
ホントは、ネット上だけのゲームフレンドに
こんな相談をするなんておかしなことだ。
面倒くさくなって、
縁を切られたっておかしくない。
<で、頼子ちゃんは美人なの?>
<いやいや、
カンケ―ないだろそこは>
<ばっかおめぇ!
そこがイチバン大事なことだろJk>
イチローは笑った。
ラウテルに相談してよかった。
<色白で、可愛いと思うよ>
<薄い本キタコレ!!
あたしがおおいかぶさって、日光をさえぎってやるよぉお!>
<不謹慎>
<ああ~たかぶってキタ~!
イチローの鎖骨でもいいからペロペロさせろぁああああ!>
<自重しろ>
そのはしゃぎ方はやや暴走気味だと思うが、
ラウテルなりに気を遣ってくれているのかもしれない。
下ネタをあしらいながら最寄り駅まで歩いていく。
電車を待っているときラウテルがいった。
<マジレスすると、
イチローは頼子ちゃんをどうしたいの?>
その言葉がイチローの頭を、
電流のようにかけめぐった。
「うーん・・・」
<頼子ちゃんと、付き合いたいとか?>
まぁ、言われればそうかもしれない。
カワイイ女子となら、
男子はみんな付き合いたいと思うのがトーゼンだろう。
<それとも、有紗ちゃんに
恥をかかされたフクシュウをしたいとか?>
フクシュウ。フクシュウか。
それもあるかもしれない。
問いの鋭さから逃げるために、
その場しのぎで返事をしようとする意識が、
ニンジャのように滑り込んできた。
答えなど出さず、逃げればよいのです!
とニンジャが叫ぶ。
ええい。
もう逃げるのはいやじゃ!
イチローはニンジャを振り払い、
こころの声に耳をすませた。
「うむ・・・うむむぅ」
今になってわかったコトがある。
人が朝日を美しいと思えるのは、
夜の怖さを知っているからだ。
もうすでに、
イチローは自分のしょぼさを知った。
だからこそ、
いま美しいと思う選択をするべきかもしれない。
<僕は日に焼けている彼女を楽にしてあげたい>
<そっかぁ。
わかった!!>
<わかったって何が?>
コメント欄に、
連絡用アプリのコードが表示される。
<なにコレ?>
<あたしの連絡先。
40秒で登録しなァ!!>
あわてて登録をしているイチローは、
降りるハズの駅で、ドアが閉じられてしまったことに気付かない。
プシューという気の抜けたような音が、
イチロー反撃の狼煙となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます