第52話 爽やか騎士長と王都訪問⑵
王国からの迎えが来たのは、十時だった。
今回迎えに来たのは、この前のごつい二人組ではなく爽やかな青年だった。
それと竜でなく、馬車のようなものに乗って現れた。
またもや、俺とミナミは、玄関まで向かっう。
「いや、済まないな。どうやら時間を伝えていなかったようだ。これは俺が念を押して言わなかったことが悪かったね」
「え、えっと……。あなたは?」
ミナミの質問に対し、少年はこれまた爽やかに答えた。
「俺の名はエギル・ナルヘリン・ツーベルク。『白銀の騎士団』団長を務めさせてもらってるものだよ」
「ああ、あの人たちの団長………。へ?団長!?」
「何かの間違いじゃないのか!?」
俺達が疑うのも当たり前だと思う。この青年、見たところ俺と同い年か少し上くらいだ。
つまり、明らかに先日やってきた二人の方が歳上なのだ。でも、確かに彼の胸にはかなりの勲章が着いているし、マントの色も赤色だ。
「いや、間違いじゃない、俺が団長だよ」
「うん、やっぱり『神剣』エギル。たしかにこの人が騎士団長」
「『神剣』なんて大層なものじゃないけどね」
後ろからシュガーが歩いてきた。かなり有名なのだろうか。
って、ん?なんかこいつの後ろにいるぞ。尻尾みたいなものが見えるが……。
「な、なあ。エギルさん……だったっけ?」
「エギルでいいよ」
「じゃあエギル、お前の後ろになんかいるんだけど、気のせいか?」
「ユニラはユニラだもん!なんかじゃなくてユニラだもん!」
「喋った!?」
すると、尻尾のようなものがぴょこんと動いて、その持ち主が姿を現した。
それはケモ耳のようなものを付けた金髪の少女だった。
「可愛いですね、この子!今回限りはお兄ちゃんがひどいと思いますよ」
「俺が悪いのかよ……」
「こんなに可愛い子に、なんかって呼んでた。可愛そう、なでなで」
「ふふふ、くすぐったい。でも、ユニラそれ嫌いじゃないかも!」
二人はなにやらユニラと名乗る少女を撫でくりまわしていた。すると、
『可愛い……!』
と、何やら後ろから声が聞こえてきた。振り返るとアリスとティナ、それからルキアが立っていた。
そして、迅雷の如くスピードでケモ耳少女に飛びつく。
「ほらほら、お姉さんがキャンディあげますよ!」
一人は店で一度試しに店に並べてみたが、売れなかった賞味期限が気になるキャンディをあげたり、
「寒くない?良かったらお姉さんが手編みのマフラープレゼントしちゃおっか?」
一人は普段はボーイッシュな格好なのに女子力を発揮し、
「はぁ〜、耳の裏サラサラ癒される……」
一人はなんかケモ耳の裏を触ってた。
「うふふ、くすぐったいってば!マフラーは有難くいただくね、キャンディも。ありがとう、お姉ちゃん達!」
『可愛い!』
全員がそう言っていた。だが、ミナミだけは「私はお兄ちゃんの方が萌ますけど!」と続けていた。男に萌え要素なんてないと思うんだが……。
「お、お姉ちゃん、大丈夫?」
な、何だ、さっきのか弱い声?どこから聞こえてきた?
その答えは案外簡単だった。エギルの後ろにもうひとり誰かいる。
またもや尻尾のようなものが見えている。その正体はユニラと瓜二つの少女だった。
いや、少年のようにも見える。どっちだろうか?少ししか確認できなかったため、かなり曖昧だ。
全員の視線がその子に向けられる。それに耐えきれなくなり、再びエギルの後ろに隠れる。
「怖くないですよ〜、こっちに来てお顔を見せてください」
まるで小動物にでも呼びかけるように、アリスが手招きした。
それに吊られるようにその子が顔を出す。うん、改めて見ると少女だ、間違いない。ただ髪が短いだけだ。
「ルニラ、来ても大丈夫だよ、お姉ちゃん達、とっても優しいよ!」
ユニラにルニラと呼ばれた少女は「本当に……?」と確認をしたあと、恐る恐るアリスたちの元へ足を運んだ。
「2人は姉妹なんですか?」
「そうだよ!この子はルニラ・ステリア。私の妹だよ!」
「よ、よろしくです……」
「『大魔道士』ステラと、『神の脳』ルニラ。お初にお目にかかるけど、この二人は白銀の騎士団の副団長をしてるって噂。毎回私の元にたどり着けなかったから見てなかったけど」
もう驚かないぞ、何でも元魔王を仲間にしてるんだからな。
今頃騎士団なんかで驚かない。この若さで副団長ってことは、相当腕が経つのであろう。こいつの言うことはあまり信用はしたくないけど、今回ばかりは本当だろう。
すると、ドアの後ろから手が伸びてアリスとシュガーを家の中へ引き込む。その手の正体はエルマだった。俺も一様家に入る。
「馬鹿?馬鹿なの!?」
「いきなり主人に対してバカとは何ですかバカとは」
「主従関係の上下はなしって契約だったよね!?」
「契約に縛られた以上、私はあなたの主人です」
アリスがキッパリと言い放つと、エルマは「って、それどころじゃないんだよ!」と返した。
「なに、それどころじゃないって」
「あのねぇ……、シュヴァはまぁいいとしよう。一度も騎士団たちと戦ったことがないから、直接。だけど、俺達は戦っただろう、顔くらいは覚えられてるかも知らないんだよ!」
「た、確かに言われてみれば……」
「ぐぬぬ、エルマさんに論破されるとは……」
何こいつら、意外と馬鹿なのかな?俺でも少し考えればわかるぞ。
「あと、なんか王都で俺たち指名手配されてるみたいだから」
「おいおまえらホントについてきていいのか?」
「ついて来いって言ったのユウマさんでしょう?なに、多分似顔絵だし別に偽名使えば抜けられますよ監視の目くらい」
「うん、大丈夫」
そんな能天気なことを言っていた。エルマはもう諦めてしまったらしく、「どうなっても知らないからね」と言っていた。
……嫌な予感しかしない!
「あ、あの、みなさんもう外ですがまだ向かわないんですか?私は先程まで荷物の整理をしていましたが……」
「ああ、終わったぞ、じゃあ向かうか」
不安を抱えながら、俺達は家の外へ出た。もう皆は荷物を荷台に詰んだらしく、馬車に乗り込んでいた。
「おーい、全員揃ったか?」
「はい、揃いました!もうお兄ちゃん、遅いですよ。何してたんですか?」
「ああ、ちょっと話をしててな。お前には関係ないことだ」
「それってどんな……、わぁっ!?」
ミナミは何か言いたそうにしていたが、その直後に馬車が揺れた。どうやら進み出したようだ。
ちなみに、この馬車は四人乗り用。前に馬車の運転手がいて、向かいの席にはエギルがいる。
その向かいの席に俺たち二人が乗っている。個室空間みたいで、実質三人乗りだ。
ゴトゴトと馬車に揺られながら、穏やかな冬の大通りを抜ける……。はずだった。
「きゃー!エギル様よ!」
「こっち向いて!まぁ!手を振ってくれた!」
「私、もう死んでもいいかも!」
何やら歓声が上がったので、木の柵がはめられた窓から外の様子を覗く。
大通りは歓声を上げる女性達でごった返していた。馬車が通るスペースはあるのだが、すぐ脇には人、人、人。人の群れ。
「お前、人気なんだな」
「まぁね。今日ここに来ることは誰にも言ってないはずなんだけど、毎回これなんだよ」
「嫌味かよ」
だが、何故かこいつのことを憎めない。
普通のやつなら腸が煮えくり返るくらいに切れるかもしれないのだが、それがないのだ。そこが逆に腹が立つ。
「大丈夫ですよ、お兄ちゃんには私がついてます!」
「……はぁ」
「ちょっと、なんでため息を出すんですか!?」
こいつにはだいぶ好かれてるらしいが、前の世界からずっと他人に好かれないままだ。
それも当たり前と言われれば当たり前だ。自分から関わりを持とうとしないやつとなんて、関わりたいとは思えないから。
「いや、お前ってつくづく変わったやつだなと思ってさ」
「いい意味でですか?」
「さて、どうかなー」
「はぐらかさないでくださいよ!」
ミナミがぎゃあぎゃあと騒いでいると、エギルがクスリと笑った。
「どうした、何かおかしいか?」
「いや、君たちって本当に仲がいいなって思ってさ。俺も妹はいるけど…これがまた問題があってね」
「完璧な人間なんて居ないだろ、みんな多少なりとも欠点を持ってんだよ。それをどれだけ目立たなくするか、それを求められてるんだよ、俺達は」
「いいこと言うね、ユウマ……、だったっけ?」
そう言うと、エギルは爽やかな笑顔を見せた。
てか、こんな話をしてからでなんだが、こいつには欠点はないんだろうか?見たところ余りないように思えるが……。
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