俺が魔王と呼ばれるいくつかの理由

@Kemoderera

プロローグ:世界が壊れる音、またかよ

 ――はぁ。マジで、なんでこうなるんだろうね。


 クロノは、目の前にそびえる漆黒の塔を見上げていた。

 それはもう「建築物」じゃない。「殺意のオブジェ」とでも呼ぶべき代物。全長300メートル、禍々しい魔導刻印がびっしり。上空には雷が集まり、今にも「世界の半分」が吹き飛びそうな勢いだ。


「うわー……これはヤバいなぁ。超ヤバいやつじゃん……」


 軽く言ってみた。誰もいないけど。

 言葉に出さないと、精神がもたない。


 塔の名は――『蹂躙殲滅型決戦魔導兵器バベル』。

 どんなネーミングセンスだよとツッコミたいところだが、実際の性能も笑えない。

 起動すれば、半径百キロの文明が煙と化す。大地は焼かれ、空気は溶け、すべてが「前置きなしのゲームオーバー」。


「建築期間一ヶ月、魔力燃料は試験管みたいなのに入れられた精霊と亜人の魔力、威力天井知らず、倫理感マイナス。はぁ〜〜〜〜〜〜」


 ため息が止まらない。

 いやマジで、俺こんなの相手にする仕事だったっけ?


 クロノ――調律者。

 この世界における「因果のゆがみ」を整え、未来を最悪の結果からそっと逸らす役目を持った、地味な立場。

 あくまで“地味なはず”だった。


「設計図をこっそり盗んで、記憶から消して、はい、おしまい! ……っていう予定だったんだよなあ」


 でも気がつけば、目の前には完成済みバベルタワー。

 いやいやいや、早すぎでしょ。魔法と科学の暴走にもほどがある。


「こんなん毎回やってたら、胃に穴が空くって……ていうか、もう三つ空いてるし。医療班に“穴、常設”とか言われてんだけど?」


 軽口を叩きつつも、クロノは片手を上げる。空間がぐにゃりと歪み、黒い光が集まって一本の大剣が現れる。

 《黒剣エンドブリンガー》――名前からして終末感バリバリな、世界を終わらせる調律専用兵器。


「こんなの出したら、また“魔王だ!”とか“世界の敵!”とか言われるんだよなぁ……はぁ、理不尽」


 でもやるしかない。これもお仕事。誰かがやらなきゃ、世界はマジで終わる。


「はいはい、じゃあお片付けタイムといきますかー。今日も一日、安全第一にー」


 彼は黒剣を担ぎ、塔を目指して歩き出す。

 まるで、日曜大工に向かうかのような軽い足取りで。


 ……この世界が、いまにも崩れ落ちようとしているとは思えないくらいに。

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