第十二話
メリルたちを出迎えた夜のエリアグラシスは、昼間とは違う顔つきを見せていた。
街を覆う防壁に構えられた十二の門。そのうち八門は閉ざされており、夜間は東西南北の四門のみが使われる。昼間は正門から入りたいというエンの希望に沿って大通りに直結している南門を使ったが、今回はグラシアフォレストに最も近い東門から街に入ったのだった。
グラシアフォレストの静寂を守るためか、この地区はとりわけ閑静な住宅街として整備されている。大通りの方角からはわずかに喧騒が聞こえるが、東門付近は眠りに就いたようにひっそりとしていた。連なる家々の窓から漏れる明かりは疎らで、深夜までオープンしている一部の飲食店ではカウンター越しに店員が眠そうに店番をしていた。
木とレンガを組み合わせて造られた民家が並ぶ路地を、メリルとエンは駆け抜けていく。ローブと外套が揺れ、杖とランタンの明かりが尾を引く。街並みに理解のあるメリルが先導する形で走り、エンは歩幅を合わせてついてきている状態だ。
「本当に正面突破でいいんだね? 多分、警備もたくさんいると思うけど」
「一人でも十人でも、見つかったら同じだろ? なーに、邪魔するなら全員ぶっ飛ばすだけだ!」
「……人数差とか考慮しないんだなぁ。エンなら大丈夫だろうけど」
エンにとって、一般兵や警備員などの数を束ねたところで相手にならないだろう。今朝から見てきた彼の実力を鑑みれば、確かに問題外かもしれない。
問題があるとすれば、一般じゃないヤツらの方だ――そんなことを考えながら走っていたメリルは、住宅地の角を曲がろうとしたところで、何かにつまづいてしまった。
「うわっ⁉︎」
「ぐえっ」
何か呻き声のようなものが足元から聞こえると同時に、バランスを崩したメリルが両手をバタつかせる。そのまま硬い石畳に転び落ちそうになったところを、間一髪エンに腕を掴まれて支えられた。
「メリル、大丈夫か?」
「あ、ありがとう……一体何が……」
視線を足下に向けてみると、そこには。
「……ヒト?」
狭い路地の石畳の上で、黒い外套を羽織った細身の人物が寝そべっていた。その隣には、同じように黒い傘が転がっている。
「う〜ん……? なんか今、蹴られたような……」
寝ぼけた様子の中性的な声が、モゾモゾと動く黒い塊から聞こえてきた。腰のあたりをさすっているが、起きあがろうとはしていない。
「あ、あの……ごめんなさい、蹴っ飛ばしちゃって……。だ、大丈夫?」
「う〜ん、別に大丈夫だけど……あれ? どこだろうここ……」
黒い人物は四肢を投げ出した仰向けの状態で、ぐりんと首だけメリルたちに向けてきた。
黒いショートヘア。口元を黒いマスクで隠しており、全身が真っ黒な外套で包まれている。対照的にやたらと白い肌が目立ち、目の周りと細い両手だけが暗闇の中に浮いて見えた。全体的に華奢なシルエットで、一目では性別の判断がつかないが、どことなく海を隔てて遠く離れた東方人の面影を感じる。気怠げなタレ目が印象的な、メリルやエンと身長が近い人物だった。
「どこって……東門の近くだけど……」
「はい、思いっきり路地の真ん中ですね」
「こんなところで寝てると風邪ひくぞ?」
メリルたちが立て続けにそう言うと、黒い人物は非常に気怠げな様子で間延びした声を放つ。
「もしかして、また寝ちゃってた? はぁ〜……起き上がるのダルぅ〜〜……」
どうやら路上で寝ていただけらしい。行き倒れかと思って心配したメリルだったが、ただの迷惑人物だったようだ。しかも口振りから察するに、寝落ちの常習犯らしい。
「ごめんね、邪魔だったよね。ボク、夢遊病の癖があってさ。気付くと歩いたまま寝ちゃって、どこかで倒れてること多いんだよね。う〜ん、めんどくさいしこのまま二度寝しようかな……あぁ怠惰怠惰。怠惰サイコー……」
聞いてもいないことをペラペラと語りながら、全く立ち上がろうとしない。その様子を見るに、メリルが蹴飛ばしたことによる怪我は無さそうなので、放っておいてもいいかもしれない。
「えっと、じゃあ、私たち急いでるから……」
「寝るなら家に帰れよな〜」
メリルとエンは転がっている人物の横を抜けて、改めて目的地へと走り出す。
そして、数歩進んだところで、背中に声がかけられた。
「アマテラスに行くなら、今は兵団が集まって大騒ぎだから頑張ってね」
「――ッ!」
石畳を踏み締めて立ち止まる。エンと共に、寝転がった人物の方へと振り返る。
エーテルランプの街灯にぼんやりと照らされた、狭い路地。石畳に寝転がったままの黒い人物が、首だけをメリルたちに向けていた。
「……どういうこと?」
「お前、なんなんだ?」
「そっちのキミ、
そう言われたエンが「え、マジで?」と言って顔を擦り始めた。物理的に書いてあるわけなかろう。
「エンとコヨミのことを知っているということは、アナタもトワイライトの関係者ってコトですね。差し支えなければ、お名前を訊いても?」
「人語を介するランタン、キミのことも聞いているよ。ボクの名前を訊くことに、何か意味があるのかい?」
「いえ、特にありませんが。名前を伺うのに、知りたいという以外に何か理由が必要ですかね?」
「……降参だ。キミとの口論はダルそうだし、素直に教えよう」
黒い人物がそう言うと、彼の体が踵を支点にふわりと浮くようにして起き上がった。彼自身はどこにも力を込めた様子はなく、まるで別の何かに担ぎ上げられたかのような動作だった。
膝丈までの黒い外套を軽く払い、砂埃を落とす。外套の前を留めているボタンを一個ずつ外した彼は、その内側にさらに黒い服を着込んでいた。その服のデザインに、メリルは見覚えがある。
「トワイライトの隊服……!」
石畳に転がっていた黒い傘が、不思議な力でふわりと浮かんで彼の手に戻った。雨も降っていないのに傘を持ち歩いている謎の人物は、その先端で足元をコツンと鳴らして告げる。
「トワイライト黎明兵団"黒の隊"、
「お前みたいな子供でも兵団やってるのか。トワイライトって人手不足なのか?」
「子供はお互い様だろうに。色々あるんだよ、トワイライトにもさ」
クラカと名乗った少年は、そこまで話すとくるりと背を向けた。
「あ~~、防壁に戻るのもダルい……いっそバックれちゃダメかなぁ……ダメだろうなぁ……」
「……待って。兵団が集まってるって言ったよね。アマテラスで何か起きているの?」
メリルが呼び止めると、クラカは振り向くことなく闇夜に向けて声を零す。
「侵入者だってさ。キミたち以外にも、トワイライトに喧嘩を売る変わり者がいたってコト。今頃は"白の隊"が動いてるだろうし、すぐ鎮圧されると思うよ。あぁ、そういう意味ではキミたちには都合がいいのか。混乱に乗じて忍び込めるかもね」
コヨミを奪い返そうと意気込むエンとメリルを、トワイライトの関係者である隊員が見逃す
「私たちを止めないんだね」
「だってダルいし……防壁内の警備は管轄外だし……」
「見逃してもらえるなら越したことはありません。メリル、行きましょう」
「レイの言う通りだ、急ごうぜメリル。教えてくれてありがとうな、クラカ! 気をつけて帰れよ!」
はにかみながら放たれたエンの言葉に、クラカが振り向いた。意外そうにタレ目を開いた彼は、マスク越しでわかりにくいが、口元が少し緩んでいた気がする。
「変なヤツだな、まったく。座布団一枚の代わりに、もう一つだけ忠告してあげるよ」
黒い少年は黒い外套を翻し、黒い闇が広がる路地裏へと歩きながらポツリと。
「"
わざわざ身を案じる言葉までかけてくれたクラカは、そのまま闇の向こうへと消えていく。メリルとエンはその背中を見送ることなく、再びアマテラスを目指して駆け出した。ぐらんぐらんと揺さぶられているレイが、声色を変えず冷静に告げる。
「彼の言葉が本当なら、絶好の機会と見ていいでしょう。侵入者の対処に追われているのであれば、警備が手薄になっている可能性はあります」
「よっしゃ! それなら正面突破だ!」
「結局同じじゃん!」
**
トワイライト本部アマテラス正面入り口。
世界最大のエーテルプラントを中心に建造された、鉄骨とガラスを組み合わせた無機質な巨大建造物。ドーム状の天板から空高く伸びる煙突からは灰色の煙が夜天に吐き出されており、外壁を走る無数のパイプが地下から組み上げたエーテルを運んでいる。鉄門と鉄格子に囲まれた敷地内には、二人の警備員がエーテルライフルを担いで立っていた。
「なぁ、
「俺が知るかよ。叩き起こされて交代に来たばかりだぜ? 心配しなくても、黎明兵団に任せときゃネズミ一匹くらいすぐお縄だろうよ」
「だといいがな。お前も医務室に連れていかれる見張り連中を見ただろう。ものの数秒で全滅、正面突破されてこのザマだ。タダ者じゃねぇらしい」
無精髭を生やした警備の男が、自分の背後を親指で示した。そこにはアマテラスへの入り口があるが、扉がついていない。よく見ればその近くにはゴロゴロと金属片が転がっている。その断面は全て鋭利なもので引き裂かれたようで、乱切りにされた人参のように散らばっているそれらが、入り口を塞いでいた頑丈な鉄扉であったことが窺えた。
群青色の警備服から煙草を取り出して咥えた若い警備が、エーテルライターで火を付けて紫煙を
「二刀流の小僧ねぇ。腕は確かみたいだが、運が悪かったな。今日はルインシアさん直属の"白の隊"がいるし、黒の副長まで呼ばれてる。
――そんな会話をしている二人組の様子を、エンたちは鉄柵越しに窺っていた。深夜とはいえ敷地の周辺は見通しよくライトアップされているため、コソコソとしていても発見されるのは時間の問題だろう。
「見張りは二人だけ……随分と警備が緩いね」
「先ほどクラカと名乗った彼の言う通りですね。侵入者の排除に人手を割いているようです」
メリルとレイの声を聞きつつ、エンは鉄柵に向けて歩き出す。
「中に入ったらどうせ見つかるんだ。だったら最初から派手にかましてやろうぜ!」
そう言って鉄柵の中心、縦に伸びた数本の支柱を両手で一本ずつ掴み、血管を流れるエーテルを発熱させる。両手が真っ赤に染まり、鉄柵を灼熱で溶かして捻じ曲げていく。
「ふんっ!」
赤色発行する高熱の鉄柵を力任せに引っ張る。頑丈な支柱がぐにゃりと歪み、人間が通れる程度の幅ができた。
「よっしゃ、突撃だ! いくぞメリル!」
「お、お邪魔しま〜す……」
まるで友人の家にでも遊びに来たテンションで、エンとメリルが鉄柵をくぐり抜けた。二人の警備員はぎょっとしてエーテルライフルを構える。
「な、何者だ! 子供が遊びに来るような場所じゃないぞ!」
「お前……
銃口を向けられても怖気付くことなく、エンはその目的を口にする。
「コヨミを連れ戻しに来た! どこにいるか答えろ!」
二人の警備は目配せし、わずかに首を傾げた。
「コヨミ……? 誰のことだ?」
「あれじゃないか? 特異点の……」
そういえば彼女が特異点などと呼ばれていたことを思い出し、エンは「そうそう、それそれ」と頷いた。
「連れてきてくれたら大人しく帰るからさ! 頼むよ! 迷惑かけないからさ!」
「器物損壊して敷地に侵入してる時点で、既に大迷惑でしょうけどね」
レイの的を射た発言を聞き流し、両手を合わせて拝むように懇願する。そんなエンの願いを聞いた警備たちは。
「――こちら正面ゲート! 侵入者、
胸元の通信機に向けて、思いっきり応援要請をしていらっしゃる。
「やっぱりダメみたいだね」
「いきなり殴り掛からなかったのは褒めますよ、エン」
「話し合いに応じないんじゃ、仕方ないよな」
スッと腰を落とし、右拳を引く。
「俺はもう暴れるぜ!
灼熱。右拳が発火。
同時に警備の二人がエーテルライフルの引き金に指をかけた。
「撃て! 撃てッ!」
「
銃口から放たれたエーテルの光線と、拳から放たれた質量ある炎が激突する。
闇夜を煌々と照らし出す二種類のエネルギーは、わずかにも拮抗することなく一方的に突き進む。
「う、わぁぁぁぁッ⁉︎」
爆熱の炎塊がエーテル弾を弾き飛ばし、二人の警備に直撃。そのまま二人の体を攫い、鋼鉄の壁に叩きつけて勝負あり。
炎がエンの右手に手繰り寄せられ、収縮するように鎮火。顔面が焦げついた二人組は壁を背にズルズルと落下し、気を失ったようだ。
「行くぞ、メリル!」
「目的はコヨミの救出だからね。無駄に暴れ回らないでね!」
「わかった! いい感じになんとかする!」
「エンの『わかった』は大体わかってないので、諦めてください」
メリルのため息を背後に聞きつつ、斬り刻まれた入り口から突入するエン。四角く切り取られたような無機質な廊下の奥から、複数の靴音が近付いてきた。
「応援要請を受けて来たぞ! そこの侵入者、止まれ!」
先ほどの警備たちと同じ服装をした男たちが、エーテルライフルを構えて立ち止まった。前衛が膝立ちになり、後衛と陣形を組んで銃口を並べている。
「止まれと言われて止まるバカがいるかバーカ!」
「ぎゃああああぁぁぁぁッ⁉︎」
熱線放射。エーテル弾などものともせず、通路いっぱいに広がった火炎が警備員たちを薙ぎ払う。鋼鉄の如き大質量に吹き飛ばされ、屈強な男たちが棒切れのように転がっていく。
「エン、やり過ぎないでくださいね。またすぐにエーテル切れになりますよ」
「それもそうだな! よし、補給しよう!」
エンはそう言って廊下にしゃがみ込み、警備員たちが床に落としたエーテルライフルを一丁拾い上げた。触ったことは無いので構造はイマイチわからなかったが、とりあえず力任せに
エンはそれらガラス製の弾丸を右手に掴み取り、口の中に放り込んだ。
「いただきまーす!」
バリバリゴリゴリベキベキごくん。
ガラスケースごと噛み砕き、内部のエーテルを飲み込む。喉に細かいガラス片が突き刺さった気がするが、魚の骨みたいにそのうち取れるはずなので気にしない。隣でメリルの顔が引き攣っている。
「およそ人間業とは思えないんだけど……」
「そうですね。せめてガラスくらい吐き出して欲しいものです」
「メリルも食うか?」
「誰が食うか!」
力強く遠慮されてしまい、エンは「そっかぁ」と言って立ち上がる。モタモタしていると、望んでもいない
「よーし、補給完了! コヨミ、どこだー!」
叫びながらエンは再び走り出す。どこに繋がっているのかもわからない通路を直進していたが、やがて左右への分かれ道に突き当たった。
「くそ、どっちだ?」
「闇雲に探すより、誰かからコヨミの場所を聞き出すのはどうでしょう?」
キョロキョロと左右を見渡すエンに、腰元からレイの提案が聞こえた。
「それいいな! 誰かに案内してもらおう!」
「そう簡単に口を割る連中じゃないと思うよ。特に――あの白い連中はね」
メリルの声を聞いて振り向くと、分かれ道の先から純白の隊服を着た一団が現れた。軍靴を鳴らしながら無機質な通路を駆けてくる。
「そこまでだ、侵入者! 我ら"白の隊"がいる限り、このアマテラスで好き勝手などさせん!」
右手には半透明の非物質的な刃を形成したエーテルソード。左手には同じく半透明の膜で八角形のバリアを形成しているエーテルシールド。近接戦闘用の兵装で身を固めた"白の隊"だった。
「目的は問うまい。捕縛してから聞かせてもらう! かかれっ!」
足音は反対側の通路からも聞こえ、振り返ればいつの間にか挟み撃ちの状態になっていた。元来た道に戻れば切り抜けられるかもしれないが、それでは前に進めない。
ならば、突破するまで。
「
両手の指先から炎の釘を連射。横幅の狭い通路では逃げ場などなく、無数の炎弾が隊員たちを襲う。
しかし、彼らは先ほどの警備員たちとは一味違った。
「シールド展開! 陣形を崩すな!」
通路を塞ぐように横一列に並んだ四人の隊員が、左手に装着したエーテルシールドの出力を上げる。人間をその裏に隠せるほどに大きく展開されたバリアが隙間無く並び、フレア・ネイルを全て防いで見せた。弾かれた炎はその場で消滅し、エーテルシールドからわずかに煙が立っている。
「お? やるなアイツら!」
「本部の護衛を任されていると言うことは、兵団の中でも精鋭なのかもしれませんね」
「今朝ぶっ飛ばした連中とは一味違うってことか。燃えてきたぜ!」
エンは口角を吊り上げ、右手に意識を集中する。血管の中を煮え滾るような灼熱が迸り、心臓から送られたエーテルが拳を包み込む。赤々と輝く爆炎が右拳を包み込んだ直後、それを足元の床に叩き込んだ。
「なにを……ッ⁉︎」
金属製の床を穿った炎がそのまま床下を這い進む。隊員たちの足下が高熱で赤く発光した瞬間。
「
「うわぁぁぁぁッ⁉︎」
金属の床を突き上げるように大噴火。シールドの無い直下からの衝撃に打ち上げられ、隊員たちが火だるまになりながら天井にめり込んだ。
エンはザマァみろと笑ってみせるが、ふと背後からも別の一団が迫っていたことを思い出して振り返る。
「そうだ、メリル! 大丈夫か⁉︎」
そこには、エーテルソードを振りかぶる白服たちを相手に一歩も引かないメリルの姿があった。
翡翠色のエーテリウムが先端に取り付けられた杖。それを水平に構えたメリルが、言霊を詠唱する。
「
詠唱完了と共に、メリルは手にした杖を金属室な床に突き立てる。甲高い音が炸裂すると同時に、彼女の目前まで迫っていた隊員たちの足下の床が膨れ上がった。
「しまった、戦闘輝法か……!」
直後、頑丈な床を突き破って現れたのは、鋭い棘を持つ緑色の
「初級輝法ごときでどうにかなると思うなッ!」
隊員たちはエーテルソードの出力を上げ、高速振動する半透明の刃を蔦に突き立てる。その凄まじい切れ味で、一本ずつ引き裂かれていく。
だが、エーテルソードの振動音にメリルの更なる詠唱の声が重なる。
「――沈黙する繁栄、緑のエーテルよ。我が呼び
詠唱と共に、
エーテルソードで
「ッ……まずい! 全員、息を――」
「深緑輝法! ヒプレシアクラウン!」
メリルが輝法名を告げると、ピンクの花々から濃い紫色のガスのようなものが噴射された。花冠に取り囲まれた隊員たちは、あっという間に瘴気に包み込まれていく。
そして、メリルが指を鳴らすと同時に
「すげぇなメリル! 今のどうやったんだ?」
エンが感心して叫ぶと、メリルはローブを翻して振り返った。
「深緑輝法……エーテルを植物に変えて操る戦闘輝法だよ。詠唱の短い初級輝法で足止めしてから、中級輝法で一網打尽ってワケ」
「なーんだ、メリルも戦えるのか。初めて会った時も、輝法使って戦えばよかったんじゃねーか?」
メリルは首を横に振り、杖を両手でぎゅっと握りしめた。
「半妖精の私は肉体の半分がエーテルで出来ているから、体内エーテルを消費する戦闘輝法を使うと体が崩壊しちゃうの。だから戦闘輝法を使うには、エーテリウムからエーテルを取り出して操るしかない。この
彼女の視線が落とされる。床で寝ている白服の男たちを、憎らしげな目で睨みつけている。
「修繕屋の報酬として街の人たちから貰ったエーテリウムを使って、先生の目が届かない森の外で練習してたんだ。いつ、
「――いいじゃんか。やってやろうぜ、メリル」
エンはメリルの肩に手を置く。そして、もう片方の拳でグッと親指を立てて見せた。
「お前もトワイライトにムカついてるんだろ? 一緒にギャフンと言わせてやろうぜ! そんでコヨミを連れ戻すんだ!」
「……うん! そのために、来たんだからね!」
メリルもまた親指を立て、その拳をエンの拳に重ねた。
「――で、どっちに行けばいいんだ?」
「……さぁ?」
分かれ道で立ち尽くしながら、エンとメリルは揃って首を傾げた。
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