【第18話】届かないヒカリ

 いつからだったか、自分が「腫れ物」になっていたのは。

 キャンパスのどこを歩いても、誰かの視線を感じる。

 話し声が聞こえれば、それが自分の名前を含んでいるような錯覚に囚われた。

 噂は、ゼミだけではなく大学中にも広がっていた。


――裏アカで人を晒してるらしい。

――あの彼女も、実は言いなりだったんだって。


 噂を否定する声はなかった。いや、声を上げる者はいたのかもしれない。

 でも、その声が届く前に、光の心は限界を迎えていた。

 講義には出ることもできなくなり、図書館にも足が向かなくなった。自分がどこにいても「見られている」という感覚が、呼吸を苦しくさせる。

 

 そして、ある日を境に、光は大学へ行くのをやめた。



 体調を崩していた咲良から「検査入院になった」とメッセージが届いた。

 光は毎日、病院に足を運んだ。誰とも話さず、花を買い、受付で面会手続きをして、咲良の病室のドアを静かに開ける。

 彼女は笑って迎えてくれたが、その笑顔の奥に疲労と不安が滲んでいることに、光は気づいていた。


「今日も来てくれたんだ。ありがとね、光」

 

 その声を聞くたび、光は胸が締め付けられるようだった。

 自分のせいで、彼女はこんなにもやつれてしまったんじゃないか。

 そう思わずにはいられなかった。



 検査結果は芳しくなかった。医師は「精密検査が必要」と言い、家族は深刻な顔をして病室を出入りするようになった。

 咲良の母親には、光の存在がよく思われていないことも感じ取っていた。それでも、咲良が「光だけは会わせて」と頼んでくれているらしく、光は毎日、あの病室に通うことができた。

 

 だが、彼女の容態は徐々に悪化していく。

 

 薬の量は増え、点滴の管は二本に増えた。ベッドから起き上がることも難しくなっていき、笑顔は次第に減っていった。

 それでも光は、毎日手を握って「また元気になったら一緒に海でも行こう」と笑った。咲良も「うん、絶対」と答えてくれた。

 

 けれど、その約束が叶わない未来を、光はうすうす感じていた。

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