【第15話】信頼の代償

 大学二年の春、光には親友と呼べる存在がいた。佐伯蓮。

 明るく社交的で、周囲の人間にすぐ馴染む彼は、無口でどこか人見知りな光とは対照的だった。


 だが、なぜか馬が合った。講義のあとにはよく二人で食堂に寄り、くだらないことで笑い合った。光が咲良のことを話すと、蓮はいつもからかいながらも真剣に話を聞いてくれた。


 「お前って本当に一途だよな。でも、そういうの……いいと思うよ」


 その言葉が嬉しかった。光は、蓮を心から信頼していた。


 春休みを目前に控えたある日、蓮は珍しく沈んだ顔で光に声をかけてきた。


 「なあ、ちょっとだけ……頼めるか?」


 詳しく聞くと、彼の姉が突然倒れ、急遽入院費と治療費が必要になったという。両親も急な出費に困っており、学費の納入期限も迫っているため、どうしても自分でなんとかしたい……と。


 「本当にすまん……。でも、返す。絶対に返すから」


 光は迷ったが、咲良との将来のために貯めていた50万円の貯金を、すべて蓮に手渡した。彼のためになるなら、それでいいと思えた。


 だが、それが地獄の始まりだった。


 しばらくして、大学の生活指導部から光に呼び出しがかかった。


 「佐伯蓮くんが、あなたから脅迫を受けたと訴えています」


 何が起きているのか分からなかった。貸したはずの金が、「無理やり奪われたもの」になっていた。証言も、蓮の手によって捏造されていた。


 「なんで、蓮……?」


 光は混乱した。信じた相手に裏切られたという事実を、心が拒否した。


 その後、大学での評判は一気に悪化し、咲良にも迷惑をかけまいと真実を話せず、心を閉ざしていく。


 信じた人間に裏切られる――それが、光にとって初めての“絶望”だった。

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