第20話 命令と逃走
**【フェルザー視点】**
ガルシアンの指に嵌められた契約の指輪が、かすかに光を放った。
──命令が下っていた。
抗うことのできない、
そんな中、霧の中からサッと伸びてきた手が俺の腕をつかみ
ガルシアンが
シラスが
──すまない、シラス。
「ま、まずい……っ!
濃い霧の中からガルシアンの焦りを帯びた声が聞こえてくる。
「おい! フェルザー! 絶対逃げるんじゃないぞ。逃げたらイドナの命は無いと思えよ!」
だからお前がイドナを殺せるわけがないだろう。
「えー! もう何やってんのよ。幻五郎に怒られても知らないからねー! 自分でなんとかしてよね」
そして霧の中で剣の金属音が鳴る。続けざまに気配が動き、剣が強引に斬り裂こうとしていた。
──キィン
「ちょっと! 今度はなによ!? 危ないじゃん!!」
「体が……勝手に……!
焦りに満ちた声とは対照的に、彼女の声は不気味なほどに落ち着いていた。
「……ふうん。そういうことね」
ガルシアンの剣は止まらない。本人の意思に関係なく、霧の向こうにいる
「
焦るガルシアンの声。だがその一方で、カァンッ、キィィンッと剣の金属音が連続して響いていた。
「はぁー。ほんっとこれだからさ、小さい家の子って面倒なんだよねぇ。なんかこう、平和ボケ? そんなんじゃすぐに死んじゃうよ?」
──キィィィンッ! カァアン!
「ねえ、ガルシアン君。契約の指輪ってさ、
「くっ……! 試みましたが……手が、勝手に……言うことを……!」
どうやら自分の指を切り落として契約の指輪を外そうとしたが、その手すら動かせないらしい。
「そりゃそうだよ。だって、もう遅いもん」
「それ、自分の指を切り落とすの禁じる命令も出てるよ。よーするにね、命令が完全に発動する前じゃないと、どうにもならないって事だよ」
──キィィン
「ガルシアン君の指は、私が切り落としてあげるね! いくよーっ♪」
──まずい。
早くこの部屋から逃げないと。俺はできる限り気配を消すように動いた。胸の内では鼓動がうるさく鳴っていたが、それすら押し殺すように呼吸を止め、足音を立てずに霧の中を動いて部屋から抜け出した。
いまは逃げることがすべてだ。若様たちに、一刻も早くザリアナを離れるよう伝えなければ。
ザリアナ城の壁の裏に隠された古い通路を通り、シラスの家に向けて一気に隠し通路を駆けた。
シラスは無事だろうか? いや、今はそれよりも若様が最優先だ。
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