ともかちゃん、入学おめでとう

 大学の入学式を控えたある日、ともかは一人、はるみの墓へと向かっていた。制服ではなく、落ち着いた私服。髪は少し伸びていて、大人びた表情がその輪郭に宿っていた。


「なんかね、いろんなことがあったよ」

そう言って、ともかはブーケを置き、石の前に膝をついた。

「学校の帰り道、あんたと一緒に歩いたあの坂道、ひとりで通るたびに、泣きそうになってさ。でも、だんだん平気になっていく自分が……なんか、ちょっと、いやだった」

彼女は空を見上げた。青空の中に、小さな雲がいくつか浮かんでいる。

「大学、決まったんだ。心理学の学部に行くよ。なんでかって言うと、やっぱ、あんたのことがきっかけだと思う。誰かの心に残り続けるって、すごいことだなって思ったんだ」

ともかは、小さく笑った。


「いつかさ、もしも天国っていうのがあるなら、あたしがそっち行ったとき、いの一番に会いに来てよ。『ともかちゃんー!』って言いながら、走ってきてくれるの、楽しみにしてるから」


風が吹いて、彼女の髪がゆれた。

「でもそれまでは、もうちょっとだけ待ってて。あたし、こっちでもうちょっと頑張るから」

立ち上がると、彼女は軽く手を振った。

「またね、はるみちゃん」

一歩、また一歩と、歩き出すともか。その背中は、少しだけ大人になっていた。

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