歴史はこうして覆る 土佐平定編
巴 幸宏
第1話なぜ親父は天下を目指さないのか
彼は小学生の時に家族で行ったキャンプが気に入り、機会があればキャンプ行きをせがむようになった。もともとアウトドア好きの父親は積極的に応じてくれたが、母親や妹は徐々に参加しなくなり、やがて彼と父親の二人だけで行く楽しみとなった。
その父親が好んで連れて行くのは、最低限の設備しかない山奥の森や川の岸辺などのキャンプ場だった。そこで自然の素材を生かしてキャンプをするというブッシュクラフトの色合いが強いもので、木を
さらに久杜が中学生になるころには、テントも張らずに森を歩いて山菜を採り、川を歩いて魚を採り、現地で調達した食材を調理して空腹を満たす、いわゆるサバイバルへと形を変えていった。
父親は持てる知識を
久杜は1年ほど前、友達に
しかし年齢的な制約で参加できるゲームが限定されたうえ、保護者同伴の
そんな久杜も中学3年生になっていた。3年生と言っても
「歴史は
まるで言い訳とも思えるような内容だった。
そのあとは歴史好き教師が、休日となれば歴史的な発見を求めて各地を
「お~い、きゅうと」
久杜は校門を出てすぐに、後ろから声をかけられ振り返った。声をかけてきたのは、
久杜は
「おお、かもん」
と返事をして少し立ち止まり、佳文と合流すると二人は並んで歩き出した。
「無事に中学を卒業できそうだし、高校入学までの1ヶ月は自由だな」
久杜は軽い気持ちで話しかけたが、佳文の表情が曇った。
「高校かぁ、無理をしてお前と同じ高校を受けて受かってしまったけど、授業についていけるか不安しかないよ。家族は難関高校に合格したって喜んでくれたけど」
「頑張って合格できたんだから頑張れば授業にもついていけるってことじゃねぇの。やってみなければ分からないことを悩んでもしゃぁねぇだろう」
「その頑張ればの生活が3年も続くと思えば、少しくらい悩みたくなってもいいだろう。いいなぁ優秀なお前は悩みなんかなくて」
佳文は口を
「そうでもないさ」
「ん?、久杜が?、そんな悩みなんかあるのか?、どんなことだ?、話してみろよ」
「う、う~ん・・・・。俺は、高校に行き大学に進むとして、いったい自分は何を目指すのかが分からないんだ」
「進路を考えるのはもっと先でも良いんじゃないか」
「進路とは少し違うんだ。自分は社会の歯車になることを目指しているんじゃないと言うか」
「分かるような分からないような」
このような問答のあと、久杜は大きく息を吸い込み話始めた。
「例えば源頼朝や徳川家康や坂本龍馬などの歴史上で偉人とされている連中は、自分の理想を持ちそれを実現させようと生きた奴らだろう。じゃあ周りの大人たちはどうなんだ。自分の理想を実現させようとしている大人はどれほどいるんだろう。みんな周りの人々の顔色を
思いつくままに言葉を並べた久杜だったが、自分自身でも説明ができなかった心の中のしこりが、話をするうちに理解できたような気がした。
引き合いに出した英雄たちが武士だったので、天下取りの話になったが何でも構わない、自分はてっぺんを目指す生き方をしたいのだ。
ただ、どんなてっぺんを目指すかはこれからの宿題になりそうな気がした。
佳文は話を理解しきれず、久杜に問いかけた。
「具体的にお前は何をどうしたいんだ」
「どうすれば良いのか自分でも分からないから、もやもやしてスッキリしないのさ」
もやもやの正体が分かりかけた久杜だったが、まだ具体的な話は出来そうも無かった。
2人の話は結論に行き詰まり少しの間黙ったまま歩いたが、佳文が話題を変えた。
「そうだ、兄貴が高校進学のお祝いに、サバイバルゲームに連れて行ってくれるって言うんだ。それで久杜の都合を聞いてみることにしたんだけれど、お前に何か予定はあるのか」
「ああ卒業式が終わったら、岡山のばあちゃん家に遊びに行くつもりなんだ」
久杜がそう答えてふと気が付くと、いつもの分かれ道に来ていたので、さらに言葉を継いだ。
「じゃぁ岡山から帰ったらお前の家に遊びに行くから、その時に決めよう」
「ああ待ってる、それじゃあ、またな」
2人はそう言って軽く手を挙げると、それぞれの帰り道に別れた。
久杜が空を見上げると厚く
卒業式の2日後、久杜は朝の新幹線に乗り父の実家がある岡山に向かった。久杜としては中学1年生の夏休みに家族と一緒に来て以来2年半ぶりで、初めて1人で来る岡山だった。
昼過ぎに岡山の駅に到着した久杜を、
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