「歪んだ神話:鎖を解かれる者たち」

狐塚 キキ

第1話 無茶な勝負


 ごく普通の大学生、鈴里 紅蓮すずり ぐれんはいつものように、大学に行こうと思い目を覚ますと、7時40分で、今から大急ぎで行かなければ一限目に間に合わない、そんな時間に目が覚めた。


 その日はスマホの充電がなくて、目覚ましが鳴らなかった。

 昨夜、寝る前に充電しなかったのを悔やんだが、そんなことしている暇もなく、朝食も食べずに家を出た。


 息切れしながら駅に向かう。

 少しでも早く駅に着きたい、そう思って近道をしたのが間違いだった。


 その近道は治安が悪くて、でもそんなことは考えずに走った。

 その時、奥から大きな音がした。


 いや、音というよりも悲鳴、だろうか。

 悲鳴がした方を見ると、20代前半位の男の人が一人、立っていた。

 男の人の周りには、4,5人、人が倒れていて、思わず悲鳴をあげそうになるが、ギリギリで抑える。

 男の人は、僕がいる方とは反対側を見ていて、僕もつられて奥を見るが何もない。


(何を見てるんだ?)


 そんな事よりも、周りで倒れている人は大丈夫だろうか。

 こんな時はどうするべきだ? 救急車? いや、こんな狭い道、すぐは来れないだろうし…。

 もしかしたら大学とかの文化祭でやる劇? の練習かもしれないし…。

 いやでも男の人は血の付いたナイフを持ってるし…!


 いろいろ考えていて、気がつかなかった。

 自分はまだ、息が切れていて、男の人は、すでに自分の存在に気がついていたこと。


 男の人は、まるで乾いた血のようにドズ黒い赤茶色の前髪から除く、綺麗なようで黒く染まってしまったようにも見える、絶望したような希望のない(捨てた)ハイライトのない琥珀色の眼で僕をとらえる。

 思わず「ひっ…!」と声を出してしまった。

 男の人の、まるで僕をとらえる眼のように、鋭く尖った刃の先から滴り落ちる赤い液体が、僕の恐怖を増幅させる。

 男の人はゆっくりと僕に近づいてくる。

 その行動で僕の恐怖が最大限に達し、思わずその場に座り込む、あきらめかけたその時、倒れているうちの一人が、鉄パイプを持っていることに気がついた。


(男の人がこっちに来るまで、まだ時間がある!)


 僕は走って、鉄パイプを持つ。

 男の人は僕の予想外の行動に、呆然としている。

 僕は鉄パイプを構えて叫んだ。


「どこからでもかかってこい!!!」


 この行動は、もし近くに男の人の仲間が居たら終わりだが、「近くにいる誰かの耳に届け」という思いで叫んだ。

 僕は鉄パイプで、男の人は折り畳み式ナイフ。戦っているときも大声を出し続けたら、誰かの耳に届くはず!

 淡い期待をかけて、この勝負を挑んだ。

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