第11話 騎士ガーラントの追跡
かどわかされたローゼリンデ姫を救出すべくエリスの町にたどり着いたガーラントは、あまりに残酷な現実を前に茫然と立ち尽くしていた。
彼の欠点は、思い込み激しめの猪突猛進だけでなく、極端に方向音痴であることだ。
通常であれば王都から馬で一日あれば到着できるはずのエリスだが、彼は足かけ三日かかった。
そして、通りかかったブティックのショーウィンドウに飾られたドレスを見て目を見張った。
胸の部分にあしらわれていた宝石類がなくなっているが、それは紛れもなく二日前の朝にローゼリンデが身に着けていたドレスだ。
普段から身だしなみに気を遣うローゼリンデは、あの日もまさしく精巧なビスクドールのようにかわいらしく清楚だった。
地下の礼拝堂へ続く扉の前で警護していたガーラントは、ミントグリーンを基調としたドレスを纏うローゼリンデを、目の覚めるような思いで見つめた。
「ドレスがよくお似合いです」
「お姉様からいただいたの。あちらではいま、この色が流行のようですわ」
メイドと談笑する声は、清らかな鈴の音のようだ。
あと数年もすれば、女神様を具現化したような美しさと威厳を持ち合わせた女性になるだろう。
下品な劣情を抱いているわけではない。これは、神への畏敬の念に近しいものだ――ガーラントは常に己にそう言い聞かせ、この日も姫に黙礼した。
あの朝の光景を思い返していたガーラントは、ハッと我に返る。
やはり見間違いや勘違いではない。
これは姫のドレスだ。
ガーラントはブティックのドアを荒々しく開けた。
華やかなドレスを取り扱うブティックにそぐわない険しい顔で入店したガーラントを、店員や客たちが驚いた様子で見つめている。
奥から慌てて店主が出てきた。
「いらっしゃいませ、騎士様。本日はどういったご用件でしょうか」
「あそこのドレスのことで、聞きたいことがある」
凄みのある声とともにミントグリーンのドレスを指さす。
すると店主の顔が一瞬こわばったのを、ガーラントは見逃さなかった。
「どうぞこちらへ」
促されて個室へと入る。
「あのドレスの持ち主はいまどこに?」
単刀直入に聞いてしまったせいで、主導権が店主に移ったことにガーラントは気づかない。
「存じ上げません。あのドレスを売りに来たのは貧相で小柄な男性でした」
ドレスを半値以下で買いたたいたことを責められるのではないかと戦々恐々としていた店主は、そうではないとわかってホッと胸を撫で
おろしながら答える。
「その男がひとりで?」
「さようでございます」
賊のひとりは小柄な男……呟いたガーラントは、さらに質問を続ける。
まるっきり架空の男の人相を聞かされているとも気づかずに。
「男の人相はわかった。ちなみに、あのドレスには宝石類がついていたはずだが?」
「宝石だったのですね。胸元に飾りを引きちぎったような形跡がありました。それをこちらで修復しましてね、あのように飾っております」
店主がうそぶく。
「そうか……」
これ以上の情報は得られなさそうだと判断したガーラントは、落胆した様子でブティックを後にした。
「身ぐるみ剥がされるとは、なんとおいたわしい……!」
ローゼリンデを神格化しているガーラントは知らない。
彼女は目的達成のためなら、姉からもらったドレスであっても潔く売り払うほど豪胆な性格であることを。
まさか、すでに命まで奪われているのではないか――最悪の事態まで考えてしまう。
両手で顔を覆って立ち尽くすガーラントを放っておけなかったのか、老婆が優しく声をかけてきた。
「お兄さん。お腹が空いているんなら、そこの宿の食堂で食べなさい。元気出してね」
腹を空かせて絶望していたわけではないと言おうとしたのに、グウッと腹の虫が鳴く。
まずは腹ごしらえだと思いなおして、勧められた食堂へと赴いた。
その大衆食堂で、ガーラントは思いがけない情報を手にした。
「人探しをしている」
と、ローゼリンデの風貌をチラっと話すと、女将さんと常連客がそれに反応したのだ。
「ああ! あの物騒な武器を持った?」
「カエル食べてた子だろう?」
「なんと……!」
賊は物騒な武器を持ち、姫にカエルを無理やり食べさせていたというのか……!?
なんと、おいたわしいことだ……!
ガーラントは再び衝撃に襲われた。
しかし、姫が生きているとわかって安堵もしている。
「そ、その者たちはどちらに?」
勢い込んで尋ねる。
「たしかここから真っすぐ森に行ったよな?」
「そうだね」
女将さんと客が頷き合う。
ガーラントは急いで料理を口の中へかき込むと、席を立った。
「情報提供に感謝する。この料理も、何かはわからないが非常に美味であった。では失礼!」
ガーラントも真っすぐゴブリンの森へと向かった。
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