第二章 謎の米問屋・越前屋との因縁
「それにしても、こっちではクレジットカードもスマホも使えないし、不便だらけだ……」
夕方、何とか見つけた安宿で一人つぶやきながら湯船に浸かる。江戸の風呂は狭くて木製、湯はすぐ冷めがちだが、ここが“本物の江戸”だと思うと感慨深い。
体を温めながら、明日の相場を改めて頭の中でシミュレーションする。現代のテクニカル理論をベースに、江戸の米相場の特色(幕府の蔵出し米や年貢の増減)などを考慮すると、確率的に勝てそうだ。
そういえば、あの番頭が属している「越前屋」とは何者なのか。宿の主人に尋ねると、江戸でも有数の大問屋で、官僚や大店(おおだな)と太いパイプを持っているらしい。
「そりゃあ睨まれたら怖いですよ。相場を支配するほどの力がありますからねぇ」
主人の言葉に、しかし俺はむしろ燃えるものを感じる。大勢力に立ち向かうなんて、ちょっとワクワクしないか?
翌朝早く、俺は老人を連れて米相場が集中する場所へ向かう。そこでは仲買人たちが、昨日の値動きを元に活発に取引を始めていた。
「さあ、本日の米の初値は……」
場内が一瞬静まり返り、役人らしき男が高らかに値段を告げる。「昨日の終値より、やや高い!」
すると「おおっ!」という歓声が起こる。老人が「ほんとに……上がったのか」と声を震わせる。さらに値段はジワジワと上昇を続けた。どうやら俺の読み通りだったようだ。
番頭は露骨に悔しそうな顔をしているが、江戸の商人たちは「なんだあの男は?」「ただ者じゃないぞ」とざわめき始める。
「昨日の賭け、覚えてますよね?」
俺が涼しい顔で問いかけると、番頭は「くっ……仕方ねぇ。倍の値段で買い取ってやらぁ!」と渋々応じる。周囲が「すげぇ!」「初心(うぶ)そうな面してやるじゃねえか!」と盛り上がる中、老人は感激のあまり俺に泣きながら頭を下げた。
「こんなに嬉しいことはありませんだ……あ、あんたのおかげだ!少ないがこれはお礼だ。受け取ってくれ!」
と儲けの一部を手渡してきた。
「いえいえ、ちょっと相場が見えただけですよ。これで少しは落ち着いて暮らせますね」
そう言いつつも、これで俺は無事“初期資金”をゲット。江戸ライフの大きな一歩を踏み出したのだった。
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