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あの聖夜の夜以来、僕はまるで生きた屍だった。両親を失った僕は親戚の家をたらい回しにされ、クリスマスが来るたびにあの日の光景をフラッシュバックしてしまう。僕にとってのクリスマスは、涙と嗚咽にまみれた絶望の誕生日になっていた。
僕はあの日からずっと復讐の火をともしている。
『娘に、聖子にクリスマスをさせてあげたいんだ』
僕の両親を奪った男の娘、聖子。僕と同じクラスにいたなんて、そのときは気づきもしなかった。もし気づいていたならば、僕がこの手で葬りたかった・・・・・・。
けれど、そのことに気づいたのは僕が転校してしばらくしてからだった。
僕はあの日から当たり前に日常を過ごすことができなくなっていた。高校もまともに通えず、就職もできなかった。ただ生きることすら苦痛だった。
心と体が次第に離れていくような感覚がずっとある。足下がふわふわしている。多分、僕はもう人間じゃない。
奪われたからには、奪い返さないと。
いや違う。奪うのではない。僕と同じ絶望をプレゼントしないと。
そうだ。僕からすべてを奪ったあの家族に、あのおじさんと娘にプレゼントをしよう。クリスマスプレゼントだ。
僕はサンタさんになるんだ。
僕が親戚の家に預けられてから、聖子の父は逮捕された。今は暗い塀の中で罪を償っているらしい。では、聖子は?聖子だけが、何の報いもなく幸せになるなんて、絶対に許せない。
僕は聖子の行方を探した。探偵を雇う金なんて当然無い。どこにも定住することなく、日銭を稼ぎ町を移ろいながら、何年もかけて、執念深く。僕の人生のすべては、彼女を見つけ出すというたった一つの目標に集約されていた。
何年の月日がたったのだろうか。ようやく見つけ出すことができた。その日は偶然にもクリスマスであった。
僕は涙が止まらなかった。
古びたアパートの一室。窓から漏れる光。あの憎むべき殺人犯の娘は、優しそうな旦那と、小さなツリーを囲んで笑っていた。
あの女が幸せになるなんて、絶対に許さない。
その笑顔は、僕の両親の血の上に成り立っている。そんな幸せは壊されなくてはいけない。
ようやく見つけたんだ。僕の復讐の舞台が整った。
僕はあの日失った笑顔を取り戻していた。乾いた笑い声がアパートの前に響いた。
「あははははっ、もうすぐ僕のクリスマスが始まる。今夜、すべてが終わるんだ・・・・・・」
僕はポケットにずっと忍ばせていた、ナイフの柄を強く握る。両親を殺したあのナイフとよく似たナイフの刃はあの日と同じように鈍く光っている。復讐の道具は、あの夜の模倣でなければならない。
「今、いくからね・・・・・・」
僕は古びたアパートの玄関扉を力任せにこじ開け、聖子の部屋に押し入った。
「メリー・クリスマス、聖子」
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