第8話

「あの後、どうしたのさ」

 昼休み、愛理と屋上でお昼を食べていた。

 天気がいいから屋上へ行こうなんて言い出したのは、愛理なんだけどね。

 お弁当を広げて、愛理は昨日の事を聞いてきた。



「あの後って?」

「だから、リボン出て行った後」

「え……」

「ちゃんと話した?」

「あ……う、うん」

 私はあの子のことよりも、その後に起こったあのことが頭に蘇っていた。そして、顔が真っ赤になるのを感じた。

「どうしたの?なんかあったんでしょ」

 ニヤッと笑う愛理には誤魔化せない。言わなくても予想は出来てるんだろうな。

「あ、あのね……」

 私は誰もいない屋上で、愛理に話した。

 あの子の話をしていたけど、なんかどうでもいい感じになってしまったあの事。



「えー!!キスしたぁ」

「ちょっ、ちょっと!」

 大声で叫ぶ愛理の口を手で塞ぐ。

「声、大きい」

「てか、あんたたち、してなかったのね」

 意外というような顔をしている。

「付き合ってどのくらい経ってるのよ」

「え……だって受験生、だったし……」

 と、もごもご話す私。

 やっぱり遅いのかな。



「でもそうか。瑠璃もひとつ大人になったね♪」

 なんて、喜んでる。

「私の仲間入り」

 へ?

 仲間入りって。

「あ、愛理?彼、いたっけ?」

「ああ。でももう別れたよ」

「はい?」

「中1の時、5組に転校して来た天野章太郎っていたでしょ。ヤツよ」

「え。天野君?」

「うん。てか、瑠璃、知ってるの?章のこと」

「1年の時、私5組だもん」

「そっか」

 へぇ。

 愛理って天野くんと付き合ってたのかぁ。

 知らなかった。


「でも、なんで別れたの?」

「う~ん……なんでだろ。覚えてないや」

 ケラケラと笑う愛理は、やっぱり顔と性格のギャップがありすぎると思った。


 愛理はこう見えても結構、モテる。顔と名前と、性格のギャップがいいのかな。

 初対面でそのギャップに驚く人が多いけど、中身を知ると愛理のそのサバサバとした性格が、逆にかわいいと言う人がいるみたい。



「そんなの、知らなかったよ」

 私はそう言うと、愛理はこっちを見た。

「そんなことより、そっちのことよ」

 じっと見られて私は動きが固まる。

「あのね、誤魔化されたんじゃないの」

「え」

「だから、あの繭子って子のこと」

「あ……」

 私は言葉に詰まった。

 誤魔化された……のかな。

「……ふぅ。しょうがないなぁ」

 黙ってしまった私に、愛理はため息を漏らす。

「ほんと、優しすぎるんだから」

 ジュースを飲みながら、愛理は空を見上げる。

「ほんとに、瑠璃って人を疑うってこと、知らないんだから」

 その言葉に、私の頭はハテナでいっぱいだった。





 ──疑うことを知らない……。





 そんなこと、ないとは思うけど、信じたいんだ。疑うこと、したくないんだ。

「瑠璃。あんたはほんとに素直すぎるよ」

 愛理にいつも言われてきた言葉。

 愛理とは中1の時、同じ部活だった。その時からの付き合いで、私と常に一緒にいた友達。

 親友であり、悪友。

 その愛理は私のことを、一番理解してる友達と言える。

 そんな愛理からその言葉をきいてしまった。その言葉を聞くと、何も言えなくなるんだ。



「さて。もうそろそろ教室に戻ろうか」

 気付くともう予鈴の5分前。

 そんな時間まで、私たちは屋上でお互いのことを話していたんだ。

 私の恋バナ、愛理の恋バナ。

 こんな風に話せる相手が、今、私の近くにいるのはとても嬉しかった。

 立ち上がって、空を見上げるととても清々しい青空だった。

「キレイな青だねぇ」

「うん」

「あんたはあの空に浮かぶ雲のように、真っ白なんだよ。もう少し、周りに気をつけた方がいいよ」

「愛理…」

「今はまだ博は、あの繭子のことは恋愛対象に入ってないかもしれない。でも、この先は分からないじゃない。だからかも」

「え」

「私が章と別れたのは」

 振り返り、苦笑いをする。

 愛理はまだ、天野くんのことを好きだったりするのかな。




 

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