第5話 睡眠薬
まず、捜査の中で、
「防犯カメラの解析」
というものが最初に分かることであった。
特に、被害者が宴会から帰ってきた時間。
「ちょうど、10時半くらいに戻ってこられたと思います」
というホテルマンの話であった。
なぜ、ハッキリ覚えていたのかというと、その人が、学会の偉い先生であるということは、数日前から、話題になっていて。その日に見たホテルマンは、
「この人が有名な博士」
ということで、想像にたがわぬだけの人物であると感じたことで、注目をしていたということであった。
今回は特に、
「毎年恒例の開催であったが、イレギュラーだったこともあって、博士たちが同じ宿に泊まることができなくなったということだったので、今回だけのことだということは分かっているので、余計に、気になってしまうのだろう」
ホテルマンからすれば、
「まるで、首相や天皇が泊まる」
というくらいのワクワクだった。
もっとも、泊まるのが、
「首相」
ということで、
「ソーリではない」
ソーリというのは、
「ただ、国家主席という名の下での、仮面をかぶった何もできない男」
と考えているからだ。
特に最近のソーリ連中というのは、
「ろくなやつがいない」
ということで、今までであれば、
「あいつが最悪だから、他の人に変わりさえすれば、政治はよくなる」
と思っていたが、ここ数年間というのは、何代か変わったソーリのほとんどは、
「やっと変わったと思ったけど、すぐに前の方がマシだった」
ということが分かってきた。
「そういえば、ここ数年で、すぐにソーリは変わったが、その前のソーリは、悪どいことばかりしていたのに、
「歴代一位の通算在籍期間」
ということだったではないか?
「なぜなのか?」
ということを考えていたが、その理由として、
「なぜ、こんな簡単のことに気づかなかったのか?」
ということであるが、それこそ、
「誰も他にいなかった」
というだけのことだったのだ。
その男が、実際に、
「歴代記録」
というものを作ってからすぐに、
「体調を崩したので、病院に入院する」
ということで、本来であれば、自分が率先して政治の難局に立ち向かわなければいけない立場で、
「そのために、ソーリになった」
という状態で、記録を達成したという実績を残して、簡単に、土俵を降りるということになったのだ。
つまりは、
「首相の立場を放り出して、病院に逃げ込んだ」
ということであった。
だから、それ以降の首相は、皆、どんどんひどくなり、就任早々、
「あいつ以外だったら誰でもいい」
とまで言われるようになったが、実際に辞めてしまうと、
「今度は期待できる」
というのも最初だけ、組閣の時点で、
「こいつも今までと変わらない」
ということになるのだ。
そうなると、
「また他のやつを」
といっても、簡単に辞めさせるわけにもいかないわけで、
「どうせなあやらせてみるか」
ということでさせて見ると。やっぱり最低最悪の首相ということで、結果は変わりがなあったのだ。
しかし、
「だったら、他に誰が?」
ということになり、結局、任期までさせることになる。
「それが、あの病院に逃げ込んだやつの実績だったのではないか?」
ということになる。
確かに、
「悪党」
ではあったが、今ほどひどい首相ではなかった。
だから、
「他にできる人がいない」
ということでただ、ズルズル来てしまったことが、やつの実績記録ということになったのであった。
それを考えると、
「少なくとも、病院に逃げ込んだやつからこっちは、首相というには、憚りがある」
ということから、あえて、
「ソーリ」
という呼び方をする人がいるということを聴いたことがあるが、
「本当にそうなのか?」
ということに、信憑性というものはないのだった。
それを考えると、
「国家が亡国を迎えているのは、ただの架空の話ということで片付けていいのだろうか?」
といってもいいだろう。
実際に、そういう政治を含めて、今の時代、いろいろな有識者によって、セミナーや会合が開かれている。それが、今回の、学術会合もその一つだということで、ホテルマンも、そういう会合を行っている博士や有識者に、一定の造詣を深めているといってもいいだおう。
だから、ホテルマンは、
「高千穂話せに注目していた」
ということであった。
しかし、まさか、
「その高千穂博士が殺害される」
などということが起こるとは思ってもいなかったので、
「ホテル始まって以来の大事件」
といってもいいだろう。
これまで、ホテル内において、
「殺人事件」
というものが起こったことがないわけではなかった。
何度か実際にあり、ただ、殺人事件ではなく、
「自殺だった」
ということはあっただろう。
密室で、睡眠薬を服用しての自殺」
というのは、このホテルだけではなく、あったことで、実際に、
「まるでブームのようだ」
という時期があった。
このホテルは
「昭和の頃からあった」
ということで、実際に新しいところではないので、特に、バブル崩壊も経験しているので、その時期に自殺する人も結構いて、ブームの時期のホテルマンたちは、精神を病んでしまう人もいたが、普通に、
「慣れっこ」
になった人もいたようだ。
もっとも、それからかなり時間が経っているので、自殺をする人もめっきりいなくなり、殺人事件というのも聞かなくなった。
「だから、犯罪事件というものは、ビジネスホテルでは少なくなった」
ということで、今の若手のホテルマンは、
「ホテルで人が死ぬなんて」
と、初めて経験する人がほとんどだった。
もちろん、今回の第一発見者であったホテルボーイも、清掃のスタッフも、その後は、しばらく、そのショックが消えたわけではなかったようだ。
掃除のスタッフなどは、
「部屋に一人で入るのが怖い」
ということで、特例として、もう一人と一緒に部屋に入るということで、何とか仕事を続けていた。
ホテルボーイも、部屋に赴くことができれば、他の人になるべくお願いするということをしていたが、若さからか、気分転換が早いようで、数日もすれば、前のような仕事がこなせるようになり、ショックもなくなってきているようだった。
その後、警察からの聞き込みも何度かあった。
最初こそは、
「まだ、ショックが起こっているので、どこまで話せるか分かりませんが」
ということであったが、そこまで気にはしていなかった。
話の中で、
「実は、今回の被害者が、睡眠薬を服用していたんだけど、それについて、何か気になることはないかね?」
と刑事から聞かれ、彼はふと思ったこととして、
「そういえば、ユニットバスのところにあった洗面台の上に、何かの薬の袋が置かれていましたね」
ということであった。
睡眠薬というと、普通は錠剤で、ビンに入っていると思うので、そのクスリは睡眠薬ではないと思えた。
「何の薬か分かりますか?」
と聞くと、
「ハッキリは分かりませんが、ひょっとすると、胃薬ではないかと思うんですよ」
ということであった
「胃薬ですか?」
と少し落胆した刑事だったが、
「でも、それが胃薬だということであれば、他にも薬を飲んだという可能性がありますよね?」
というホテルボーイの言葉を聞いて、
「というと?」
「いえね、薬って、漢方薬などのようなもの以外というと、食後に飲むのが普通ンじゃないですか。つまりは、意を痛めるということが原因だっていうんですよね。だから、何か突発的に、常備薬、つまり風邪薬や、頭痛薬などを服用する時、空腹の状態であれば、胃薬を一緒に飲むと思うんですよ」
という。
「そういえば、帰ってきた時は宴会の後だったということで、食事は済ませているだろうから、胃薬を飲んだとすれば、普通に胃が痛くなったという可能性も否めませんが、もし、他に服用する薬のために飲んだとすれば、空腹状態である、深夜から朝方に掛けてろいうことになるわけで、そうなりと、眠くなるまでに時間もかからなかったということで、辻褄は合ってくるわけだ」
と言った。
だが、河合刑事は、少し疑問があり、
「でも、眠ってしまって、殺されるまでにこの部屋が密室だったということであれば、犯人は、少なくとも、睡眠薬を服用する前にこの部屋にいたということになるわけですよね? もし、扉を開けっぱなしにしていたとしても、20分で警報が鳴るということであれば、その間に、犯人を招き入れたということになる。自分を殺す相手をですよね」
というのだった、
そこまで考えると、
「今回の犯罪には、何か時間というものが影響しているような気がしますね」
ということであった。
「WIFIの接続に気が付いたのは偶然であったが、あれも、3時間という縛りがあったわけで、部屋のロックも20分以内に密室にしないと、下のフロントで分かることになるというのを考えると、何か不思議な気がしてくるわけですよ」
というのだった、
もちろん、あまり必要以上に考えることはないのだろうが、
「考えれば考えるほど、混乱してくることを考えると、やはり、この事件は複雑だということになるだろう」
河合刑事は、今回の事件に対して。これまでの犯罪事件にはないものが感じられた。
それを、
「刑事の勘」
ということで片付ければいいのかどうか分からなかったが、同じ思いを桜井警部補も感じていると思うと、ある意味、ワクワクするものがあった。
今回の発見というか、
「ベルボーイが思い出してくれたこととしての、問題であった」
ということであるが、一つ気になったのが、
「なぜ、鑑識はそのことを言わなかったのか?」
ということであった。
鑑識に聴いてみると、
「そんなものは発見されなかった。分かっていれば、ちゃんと報告書に書いていますよ」
ということであり、それももっともなことであった。
ということは、ベルボーイの言葉に嘘がないということであれば、
「誰かが、その場から証拠品を持ち出した」
ということになる。
考えられるのは、掃除のスタッフしかいないわけだが、なぜ、そんなことをする必要があるのか?
もし、くせで捨てるとしても、部屋の中のごみ箱に捨てるであろう。
ただ、それが残っていると犯人にとって都合が悪いことなのか、それとも、
「犯人は、わざと、ホテルボーイに見せておいて、実際の証拠だけは、隠蔽する必要があったということなのか?」
ということである。
「これは、掃除のスタッフにも話を聞いてみないといけないな」
と河合刑事は考えたのだ。
少なくとも、そこに胃薬があったということに、不自然さはない。
おかしいとすれば、
「その証拠品がどこかに行ってしまい、ここで証言がなければ、分からなかった」
ということだ。
事件の核心をついているのかどうなのか? 今のところは何ともいえないっ状況であった。
睡眠薬というものを服用させたということで、その睡眠薬によって眠らされたところで、結局、胸を刺されて死ぬということであれば、普通に考えた時、
「犯人が、相手を殺すことに対して、
「素人」
ということであり、
「確実に殺すために、相手の動きを封じるために睡眠薬を使う」
ということであれば、あり得ることだといえるだろう。
しかし、実際に鑑識の話では、
「犯人は、確実に被害者の急所を狙っていて、声を立てる暇もないくらいに、即死させている」
ということであったではないか。
それだけの、まるで、
「スナイパー」
であるかのような犯人に、そこまで確実に助けるようなことをしないでもいいような気もするのだ。
「それだけ念には念を入れる犯人だ」
ということであれば、その気持ちも分からなくもないが、それにしては、
「胃薬の袋を置きっぱなしにしておいた」
ということ、そして、
「パソコンのWIFIの問題」
と、何か抜けているところがあるように感じるのはどういうことであろうか?
「殺害を実行するということに関しては、確実性はあるが、それ以外のまわりの気配りなどに関しては、ずぶの素人」
といってもいいかも知れない。
そんなことを考えてみたが、だからと言って、
「犯人の性格が分かるわけではない」
逆に、
「とらえどころのない犯人なのか?」
とも考えられ、
「少なくとも、犯人は一人ではないだろう」
といえる気がした。
その感覚を一番持っているのは、
「河合刑事」
であった。
そして、河合刑事が、この事件に、
「他の事件になかった何かを感じている」
ということを想像しているというのを、桜井警部補は思っているようだった。
もっといえば、
「桜井警部補は、今までの経験から、河合刑事の特殊性を分かっていて、だからこそ、今のところは放したくない」
と思っているように思えた。
「犯人複数説」
というのは、桜井警部補も感じていた。
「単独犯にしては、何かおかしい」
ということは、他の捜査員も感じているようであったが、それは、
「自分にかかわりのある捜査」
というものを始めてのことだった。
それだけ、数か所に渡って、捜査網を敷いていて、そのうちのほとんどの捜査員が、
「単独犯ではない」
と感じているのだとすると、もはや、
「その考えは、通説といってもいい」
といえるのではないだろうか?
今回の事件において、気になっているところというのは、事件において、
「どこかにおかしなところが点々としている」
ということであった。
おかしなところが事件の捜査上あれば、そこから、次第に事件の糸口が見えてくるというものであり、
「完全犯罪に近づける」
とすれば、犯人が描いた設計図に狂うことなく、その通りに導けば、他に想像する隙もなく、すべてを暗示に掛けることができる」
というものである。
だから、今回の事件は最初から、
「違和感があった」
といってもいい。
しかし、それも一つ一つを考えれば、
「河合刑事と桜井警部補のコンビでなければ、何も感じずに、通り過ぎていたことではないか?」
といわれるかも知れない。
確かに。WIFIにしても、あれは、河合刑事が、
「パソコンに詳しい」
ということから分かったことであった。
ただ、だからといって、捜査員の中には、パソコンに詳しいというのは、山ほどいる。
今回のことに疑問を持つことができる素質のある人はいるということである。
しかし、これはあくまでも、
「素質」
ということであり、
「気が付いたとしても、それを事件と果たして結びつけるということができるだろうか?」
ということである。
「できるかできないか?」
それが刑事としての資質なのかも知れない。
「目の前に控えていることに対して、疑問に思ったことを結び付けれるかどうか?」
それが、問題といってもいいだろう。
確かに、
「なんでも疑問に感じてしまい、そこで整理ができないということになると、結局混乱させてしまっただけになる」
ということである。
つまり、
「疑問に感じたことを、どうして疑問に感じたのかということを理論的に説明できないと、混乱を招く」
ということであろう。
それは、
「疑問に感じたことを、自分なりに、どうして疑問に感じたのか?」
ということを理解できるかどうかである。
そこで、疑問に感じるのは、自分にではなく、
「理解できなければ、理解できないという自分に対して」
ということではないだろうか?
疑問を感じることができるかできないか。それは、場数を踏むということもあるだろうが、
「自分というものを、どこまで信じることができるか?」
ということだ。
「自分を信じる力があれば、自分が理解できるであろうことを理解する」
という力を持つことができるという気持ちである。
河合刑事も、警察に入る前からそうであったが、学生の時には、よく、
「お前は理屈っぽい」
といわれ、嫌われていた時期があった。
だから、それが嫌で。
「理屈っぽくない考え方をしよう」
と思うようになった。
だが、実際に、それは難しいということで、
「理屈と理解」
ということをはき違えていたのだった。
「理屈はあくまでも、一般的な事情であったり、誰にでもいえることなのかも知れないが、理解というのは、自分という性格上、一般的にこだわらず、自分の事情でもいいから、納得できることを、理解という」
と考えていた。
だから、
「理解するには、理屈を知る必要があり、理屈を知ることは、自分を理解できていないと、一般論として受け入れることができない」
と考えるようになった。
だから、今まで学生時代のように、
「理屈を毛嫌いするという人は結構いるが、そういう人に限って。自分を信用することができないんだ」
ということである。
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