一話 いつも通りの朝
スマホのアラームで目が覚める。ワンオクの好きな曲をアラームに設定したけど最近少し嫌いになってきた。毎朝6時にこれで叩き起こされるんだからそりゃそうなるか。体を起こし布団から出ると少し肌寒くて、カーテンの隙間から覗く空はもうすっかり白い。朝練に遅刻すると
階段を降りる最中、パチパチと聞こえ少し油の匂いがした。降りると当たり前のように母さんがキッチンに立っていて、多分弁当を作ってくれている。
「はよー」
「おはよう。早く顔洗いなさい、今日は珍しく
「まじ」
途端に足が床に張り付く。洗面所にあまり行きたくない。寝起きの姫様は、本当に機嫌が悪いのだ。意を決し脚を進める。洗面所の前でぐっと背筋を伸ばす。そして、ドアを開けた。
「はよ」
「……」
「今日早いじゃん。なんかあんの」
「ふっはい」
「ひぇ」
今日も機嫌が悪い。朝なんだからしょうがない。いつものことだ。というか、俺が中学を卒業する前からずっとこんな感じだ。歯を磨いてても怖い。蛇口を捻り、水をすくう。水が冷たくて気持ちいい。
「ほいて」
「ちょっとー、お兄ちゃんまだ顔洗ってるんですけどー?」
「ほ い へ」
「はい」
泣く泣く退散。せめてタオルは使わせてほしい。姫愛はペッと口の中を吐き捨て爆速でうがい。そのままどすどす出て行った。ため息が少し漏れる。昔はもっと懐いてくれてたんだけどな。
顔を洗って、制服に袖を通す。部屋から練習着とバッグを持って降りる。髪のセットは後だ。母さんの後ろを通ってトーストを4枚投入。冷蔵庫からバナナとヨーグルトを机に並べる。
「父さんは?」
「まだ寝てるわよ。昨日しこたま飲んだみたい」
「ふーん。コーヒーもらうね」
「はい。弁当できたわよ。姫愛も、ほら」
「ありがと」
チーン。
気の抜ける音が鳴り、小麦のいい匂いが漂う。母さんが買ってきたよくわからない柄の皿にトーストを2枚乗せる。母さんと姫愛は1枚だ。スマホをいじってる姫愛の目の前に腰掛ける。
「いただきます」
母さんの焼いてくれたウインナーと目玉焼きをほおばる。いつも通りうまい。
「姫愛、あんた
「はーい」
「あれ、姫愛も朝練?じゃあ一緒にいこ」
「いくわけないでしょバカ兄貴。キモ」
「女の子一人だと危ないだろ。仲良くチャリンコチャリチャリしようぜ」
「うっさい」
「心配だよ兄ちゃんは」
いつものやり取りだ。母さんはもう何も言わない。そこからは母さんと少し話をして、朝食を平らげた。
「そんじゃ、いってきまーす」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
姫愛は何も言わない。姫愛が食卓に一緒にいたこと以外はいつも通りの朝で、いつも通りの日常だった。
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