第3話 セックス・アルコール・ベースボール

彼女を家まで送る時は、短い歩幅に合わせてゆっくりと。

無事に送り届けたら、家までしっかり走る!

運動するとテストステロンが出るからな。

YouTubeのショート動画かなんかで見た。

コンテンツ的に表現が難しいんだろうけど、若い女とセックスするのが最高だって言いたさそうな雰囲気だった気がする。


ってなわけでマッハで家に到着と。

母ちゃん本当にちゃっちゃとメシ作って、ウォッカ原液で飲んでるわ。

この以上連続最下位とかだと、飲むのが消毒液になっちまうぜ。

うわっ、まだ1回なのにもう中日先制されてるじゃん。

大野もさすがに全盛期の力はねえな。


「おかえり。もうご飯食べる?大盛りでいいわよね?食わないと中日の野手みたいに貧弱になるよ。大谷くらいムキムキにならないと」


「大谷はムキムキとか関係ない別世界の人だろ。なに食っても俺はああなれねえよ」


「諦めたらそこで試合終了だよ。安西先生も言ってたでしょ。こんなのみんな小学生の夏休みに習うもんじゃない」


「野球の話してるのにいきなりバスケの話に変えんなよ」


とか話している間に、試合は四球を足がかりに横浜打線の連打で得点し、再び四球を挟んでタイムリーを浴びて4失点、降板を告げられベンチに下がる投手を母ちゃんはゴミでも見るような目で見る。


「ナゴド専が衰えたら無様だねぇ。母ちゃん悲しいよ。大野はハマスタで勝ったことあるのかねぇ。2回で4点差とか無理無理。DH制の前にセリーグにはギブアップ制を導入する時ね」


「諦めたらそこで試合終了じゃねえのかよ」


「だって中日が4点差なんて追いつけないでしょ。もしかして敗戦処理で出てきた根尾が打つの期待とかしてる?そういうのはよくないわよ。立浪監督があれだけ目をかけて色んなチャンス与えたのにこのザマなのよ?何も期待できるわけがないの」


母ちゃんにここまで言われた根尾、ピンチを切り抜けるも、回跨ぎしてホームラン2本打たれる炎上で5失点、マジで申告敗戦とかあればいいと思うレベル。

母ちゃんは無言でテレビを消し、リモコンをテーブルに思い切り投げつけた。

4回で9点差はさすがにキレるわな。


「まーたヤフコメ巡回しなきゃいけなくなったじゃない。まず井上が悪いのよ。開幕4番石川とかなんだったの?方向性が全然見えてこないよね。こんなんだからチュニドラとかバカにされんのよ」


デカい声で色々文句を言いながら、スマホでコメント欄に長文の誹謗中傷を書き込む様は、もはや洗練された玄人の動きだ。

チームに対する批判が日常化するあまり、人を傷つける言葉に何の躊躇もない。

まだ一応は試合終了してないのに、負け前提で全て書いてるのがすごい。


中日なんて俺が物心ついた頃からずっと弱いから、これが日常の光景なんだけども、子供ながらに異常だろとは思う。

ウォッカそのまま飲んでる人だからヤバいのはそうなんだけど、母ちゃんって異様に酒強いから、ほぼシラフで毎日こんなことしてるのがマジでヤバい。

だってネットのこういうのって厳しくなったし。

開示請求とかされて社会的に抹殺されるみたいな話あるじゃん。


いや、社会的にどうこうとかは関係ないのか?

どうせ母ちゃんの仕事は普通じゃない。

すげえマイルドに言って、港区女子だな。

まあ、大田区だけど…

うち団地だし、母ちゃんは無敵の人だから、訴えられたらどうしようみたいな発想がないんだ。


「もうファンやめたほうがよくね?ストレス溜まるだけだって。母ちゃんが死ぬまで優勝できなくてもおかしくないくらい弱いぞ?」


「なに言ってるの?中日ファンやめるなんて、アンタを捨てて蒸発するようなものじゃない。出来の悪い子ほど可愛いのよ」


暗黒に肩までどっぷり浸かってる弱小球団と同じ扱いなのかよ、俺って。

なんか上手く言えないけど、なんか嫌だな。


「くだらないこと言ってないで、早く食べちゃいなさい。母ちゃん根尾のインスタに凸してくるから」


「敗戦処理で出てきて打たれただけだろ。やるなら大野にやれよ、先発だったろ。いや、大野でもダメだけど」


「ああいう人気先行で実力のない地元ドラ1の贔屓枠がね、中日を腐敗させてるのよ。危機感持ってやってないのよ。だからダメなの。それを言ってやるのが母ちゃんってもんなの」


「意味わかんねえよ。少なくとも母ちゃんは根尾の母ちゃんじゃねえから、言う義理ねえよ。だだのヤバい過激派だよ」


「母ちゃんはみんなの母ちゃんなんだよ。アンタを生んだ時から母ちゃんなの。母ちゃんはドラゴンズの母ちゃんなんだよ」


…もう野球なんてこの世からなくなればいいのに。

絶対そのほうが平和だよ。

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