第二十九節 始原より繋ぐ

 大空洞の上層を流れる霧は輝きを透かして垂れめている。

 ──この紗幕しゃまくの向こうに未知の別世界べっせかいがあるのかも。

 視界をおおう白さに島ほどの影が射す。

「建物──なの?」

 近づくと、白亜の列柱がベールを払って高みへ聳える。四阿あずまやめく立方体が積層した大建築だ。分かれて絡み合うはりや柱は溶けた大理石を固めたよう

 ──尾を脚にする生き物にとっての通路みたい。


 柱廊ちゅうろうに導かれた裸少女らしょうじょたちにとうたちも続いた。清水しみずが流れる水路が左右に通る道を進んでいく。

 前を塞ぐ無数の背が分かれて広がった。

 ──大広間!

 殿しんがりの灯たちは中央付近まで歩み出る。

 水路がごうして円形の池になっていた。

 

 その前でじょたちがこちらを向いて立ち並んでいる。


優愛ゆあちゃん! 松浦まつうら先生も」

 しゃ女学院の教職員たちだ。

「ママ」

 息を呑むあきらと瓜ふたつの姿──白銀しろがねるなもいた。

「よかった、って言っていいの?」

 優愛たちの安否が知れたことは幸いだけれど。

「あまり楽観はできないようね」

 小夜さよの鋭い視線を追う。

 ――井氷鹿いひかの子。


 有尾の童女どうじょも優愛たちの前でこちらを向いて立っている。


 ――いま尋ねなきゃ!

 意を決して一歩を踏み出す。

「教えて、貴女あなたはいったいなんなの?」

 柔和な美貌は、慈しみを示して笑む。


『すべては刷新の時のため。接ぎ木を得ることで幹はやまいを克服して、新たな果実を実らせるのです』


 心に響く声はどこまでも優しくて聖母のよう。

 小夜も踏み出して、

「貴女たちはそうやって童女どうじょじゅ守人もりびとを作り出してきた。何世代にもわたって。その目的はなに? 私たちを──人類をどうするつもりなのかしら?」


『答えは目前に。我らの意志も力も、貴女たちに受け継がれるでしょう』


「それってどういう──んっ」

 迫る甘やかさに口を塞がれる。

 優愛の裸身に抱かれて唇を重ねられていた。乳首どうしが触れ合って互いの巨乳が形を変える。濡れてしなやかな舌に口の中を愛撫されていく。


 ともすれば欲情の視線を向けていた体に抱かれて心が湧き立つ。


 女に向ける多淫な気質は生まれつきのものだけれど、気軽に叶えられるものではない。ただでさえ閉塞的な女の園の中、同性カップルはありふれていても、灯のように誰でもかまわずだと知れれば排斥は必須だろう。

 だから、童女果樹のもと真理亜まりあに犯してもらいたかったのは、まぎれもない本心だった。あのまま男根おとこ様を生やして、みんなと乱脈に交われたら。

 ──そんなケダモノじみた願いが叶えられるの?


「っ──!?」

 せんに両尻をつかみ込まれて下尻したじりの量感を持ち上げられた。すぼまりを刺激するように尻肉が開閉されだす。

 普段意識しない排泄器官への刺激が、指先の感触と共に陰核を興奮させて、包皮からちいさなかしらを覗かせた。

 ──だめ、このままじゃ。

 溢れた欲情が抑制を緩めていく。

 密着したけいもうを絡み合わせながら優愛の両尻をつかんだ。豊満に沈む指先から至福が流れ込む。

 唇から離れた舌に頸筋くびすじを舐め上げられた。尻肉から離れた右手が股間に割りって、陰裂を撫でさすられる。


「ひっ、きゃあう!」

 待ちわびていた刺激に、熱く猛る快感の芯がとろけて、襞穴ひだあなからこぼれた蜜が内腿を伝う。

 霞んだ視界で見渡すと、灯以外の生徒たちも教職員たちに抱かれていた。

 小夜もれきも真理亜もまゆ永遠とわあやも玲も肌をいだかれた女淫にょいんの営みが流れ落ち──岩地の上に押し倒される。

 熱くうるおう陰裂どうしが貝合わせにされて、卍型まんじがたになった下肢が揺すられだした。

 夢心地のなかで腹部に違和を覚える。

 ──なにこれ、おへそくだ

 

 ふたりの臍は臍帯さいたいのような赤黒い肉紐でひと繋ぎにされていた。

 

 男根おとこ様とは異なる寄生の実感に体を引き離そうとすると、陰裂が激しくさすり合わされる。

「ひぁぅ、ああ」

 陰核そと膣内なかから溢れる快感に恐怖が塗りつぶされていく。

 熱く濡れそぼっているのは灯のものだけではない。

 ──優愛ちゃんも感じてるんだ。

 潤う互いのうねみ合って肉の襞を複雑に絡ませ合う。包皮から覗いた球どうしもさすり合わされて、鋭い喜びを刺してくる。                                    

 ──ああ、ダメ、だめ。

 脳裏に掛かる霞掛かすみがかった鈍さは、股間のこころよさを貪れと命じていた。

 背を反らして複雑な形の梁が渡された天井を仰ぐ。


 壮麗な肉の裂け目が視界を覆った。


「むぐ、うぅう!」

 蒸れた陰裂に唇を塞がれて、鼻筋が尻肉の谷間に包まれる。

 蜜を求め伸ばした舌が襞穴の粘膜をなぞって、粒状つぶじょうの感触に分泌液のしおを感じる。しょくすことを夢見た果実を捧げられて、はしたないほど息を乱して舌を使っていた。

 淫らな期待を込めて脚を開いて股間を突き上げる。

 潤う襞穴に入り込んだ二指にしに裏側をさすられだす。

 ──深い、深いよ。そんなにされたら、もう裂かれて──初めては小夜に捧げたかったのに。

 心の隅で覚えた後悔を陰核の熱が奪い去る。

 包皮ごと唇に挟み込まれて吸われていた。

「っう!? ん~!」

 快感のせきが破れて至福に脳が焼かれる。

 それも一巡目。

 めぐる波がとう海嘯かいしょうに高まる予兆をはらんで腰の奥で猛っている。


 優愛の腰もうごめいて、蠕動する襞穴に舌先をしごき上げられた。

 ──優愛ちゃんも感じてるんだ! ああ、もっとこの愛しいにくを貪りたい!

 思いに応じて尻肉の量感が頬を挟み込む。

 いんを渡った舌が排泄孔に呑み込まれた。

 ──やだ、そんなとこまで。

 卑猥を貪る欲求にあらがえない。

 襞穴とは異なるしめつけを突いて腸液の苦みに突き入った。

 頬に触れる円満がいらい揺すられて、膣口から指が抜かれる。

 ──ああ、また来る。きちゃ──。

 高まる性感が優愛の顔に潮を噴き上げようとしていた。

 失禁に等しい粗相を止める意思は愛しい舌遣いに根こそぎにされる。

 こちらも決壊を乞うように舌と腰を使った。


 真っ白なきらめきが脳裏からふくに下りて、熱くはじける。




 泡沫うたかたの銀河が散る。


 乳色の空白に割卵かつらんめいたひび──根や血管を思わせるぶんが柔らかに輝いていた。原初的いこいはむらから仰ぐ木漏れ日のよう。

 ──近づいてくる!

 あるいは灯の意識が迫ったのか。


 無数に広がる根の一本が雷光と化して、知覚できるすべてが埋没した。


 白く溶けた五感に気配を覚える。

 抜けていながらもしっかりした甘やかさは柏木かしわぎ優愛が与えていた実存そのもの。

 思考や感情を注がれるように、優愛の抱く想いや願いが心に充ちていく。情操じょうそうのみならず、経験や記憶や関係も──ひとりの人物の歴史そのものが意識の内奥ないおうで灯の記憶と混ざり合って区別をなくしていった。


 流れ込む歴史の濁流は優愛のものだけではない。

 ──七人も!

 七世代にも渡る想いが瀑布となって灯の記憶を染めていく。とても抱えきれないはずの情報が無理なく融合して、灯でありながら灯ではない新たな実態を形作っていった。


 ──刷新の時、超人の創生──そうか、そのために!


 今こそすべてが了解できた。有尾の裸童女が主導する、これから灯たちが成すべきこと。来たる大破壊は避けられなくとも、その叡智は破滅を越えて、希望を未来に繋ぐことができると! 

 灯たちは創り出すだろう、

 ──より進化した超人類を! 必ずこの手で!

 すべてが光に溶ける。


 再生の祝福に充たされながら、灯は来たるべき未来を確信していた。

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