眠らない雪狐

氷の天ぷら

一頁目

 ウチの山に知らん人の子が駆け込んできよった。野犬に追われとったから匿ってあげたんやけど、服はボロボロで目も荒んどった。街で暮らせる程の力もなさそうやったし、暫くはウチが面倒見ることになってしもうた。乗り気はせんけど、神様が見てるうちは助けなあかんよなぁ...。山菜採りくらいには付きおうてもらえるから、得したと思うことにしよっ!

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 山の麓から、騒がしく駆けてくる音がした。木々を避け、息を切らし、到底山へ入るような装備もなく、ただ闇雲に上へ上へと駆けて行く、そんな音。

 人と数匹の動物の追いかけっこだろうか、大方、犬か猫の尾でも踏みつけて怒らせてしまったのだろう。慣れない山道へ入ってしまったのが、その人の運の尽きだ。野生の動物から逃げ切れず、力を使い果たし、そのまま食われてしまう。過去にも幾度かあったことだ。

 カエデは慣れた手つきで、少し後に見つかるであろう遺体を処理するために、ショベルを肩に担ぎ、山の中腹にある神社から、音の聞こえる方へと降りて行った。


 下りている最中、カエデは聞こえてくる音が一定の場所に留まり続けていることに気が付いた。もう捕まったのか、なんて見ごたえのな人の子よ、と考えているうちに、犬の鳴く場所へと着いてしまった。

 そこには、木に登った男が長い木の枝で、野犬が上って来れないよう必死に突いている光景が広がっていた。時はまだ日が昇りきったくらいだったが、目のまえの光景が面白くなり、カエデは助けることもせず、日が落ちきるまで男と犬の勝負を観戦することを決めた。幸いにも、男はカエデの存在に気付かず、カエデは助けを求められなかった。


 日は暮れ、辺りは暗闇に包まれていた。男と犬の勝負は、犬が諦め、男の粘り勝ちで幕を下ろした。男は疲れ切り、そのまま木の上で気を失っていた。息を引き取っているかと思い、カエデは男に近づいてみたが、驚くべきことに、弱々しくもしっかりと息をしていた。

(人の子にしては生き汚さのある見上げたものやね。なんとか勝ち取った命、ここで潰えるんは些か可哀そうに思えてきたわ)

 カエデは男を担ぎ、元居た神社へ帰ることにした。

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