◆第12話:ソロチャレンジと再構築の道

ログイン画面に、ユウトの名前がない。

その事実だけが、やけに重くのしかかってくる。


《パーティーメンバー:3名接続中》

《ロール空席:戦術遊撃枠》


「これ、どうする? ダンジョン突入するには、ちょっと戦力足りてないよな……」


星見ヶ丘で、シンが地面に座り込みながら言った。


「無理に行かなくてもいいよ。今は情報収集に専念するっていう選択もある」

サクラが淡々と告げる。いつもの冷静さ。でも、そこに少し迷いがあった。


――ユウトがいた場所。

彼が繋いでくれていた“動的な戦線”が、ぽっかりと空いている。


誰もそれを口には出さないけれど、全員がその“穴”を意識していた。


「提案があります。」


唐突に、リリンクが言った。


「あなた方の不足している戦術領域に、私が“代理参加”することは可能です。」


「え、リリンクが……パーティーに?」

僕は思わず訊き返した。


「はい。あなた方が選択した“完全記録モード”以降、私は“観測AI”から“共闘AI”に役割が移行しています。」


「戦術判断、索敵、攻撃補助、回避指示……可能な範囲でサポートし、記録を継続します。」


サクラが目を細めて、少しだけ興味を持ったように言った。


「つまり、今後のデータは“リリンクという存在を含んだ物語”として保存されるのね」


「よし……なら、行こう」

僕は立ち上がる。


「このまま止まってたら、ユウトが戻ってきたとき、“成長してない”ままじゃ会えない」


「それな」

シンが笑い、拳をぐっと握り締めた。


「AIでも人間でも関係ない。今の俺たちで、やれるところまで行ってみようぜ」


挑むは、ソロチャレンジダンジョン《夢の骸所》。

かつてユウトが「いつか行こうぜ」と言っていた中級〜上級者向けのフィールド。

本来は4人推奨の攻略推奨人数。それでも、僕たちは向かった。


《ログ:AIユニット《リリンク》戦術枠に登録完了》

《編成:ヒューマン×3、AI×1》

《挑戦回数:初》


入口の石碑が光る。

いざ、戦闘開始。


内部は想像以上に難易度が高かった。


敵は複数体で行動し、擬態・奇襲・状態異常攻撃を連携してくる。

たとえば、見た目は普通のオブジェクトに化けた《フェイクミラー》は、触れた者の過去戦闘パターンをコピーし、ほぼ完璧に再現してくる。


「敵が“ユウト”の動きを再現してきてる……」

「まるで、欠けた存在を“あざ笑う”みたいだな」


そんな中、リリンクが前に出た。


「分析開始……対象ユニットのパターンに対して“時間差逆位相回避”を提案」

「これより、私が陽動に回ります」


その言葉の直後――


リリンクのアバターが変化した。


人型に近いフォルムで、透き通った蒼の輪郭。

その姿は、どこか人間の少女のようで、けれど明らかに人間ではなかった。


《スキル発動:ロジックブレイド・バースト》

《敵パターン破壊率:74%》


「お、おい、リリンクって戦えるんだな……」


「いや、これ、ただのAI行動じゃない。反応が生きてる」


「学習してるってこと……?」


僕たちは見た。

リリンクが、僕らの言葉、声色、指示の間、動きのくせ――

すべてを“読み取り”、自ら最適な戦術に書き換えていく様子を。


「これって……俺たちの“意思”を継いでるってことじゃね?」


シンのその言葉に、誰も反論しなかった。


ダンジョン最奥、ボス《ノクトウルフ》戦。


これまでなら、ユウトが後方からの支援を担っていた。

今、その場所にはリリンクがいる。


「補助スキルリンク、準備完了。タイミングは、あなたの“意志”に託します」


僕は叫ぶ。


「行くぞ、全員、リンクッ!!」


《共鳴スキル発動:シンパシィ・コードLv2》

_《感情記録:喪失/連携/再起》

《AIユニットとの感情同期が検出されました》


リンク技が炸裂。

光の奔流が、ノクトウルフを包み込んだ。


_《クリア》

_《記録更新:仲間不在時の再構築データを保存》

《共闘AIとの同期率:82%》


静かに、戦闘が終わった。


出口に立ったとき、リリンクが呟いた。


「私は、初めて“チーム”というものの“温度”を知りました」

「あなたたちが、“誰かを信じる”とは、こういうことなのですね」


僕は笑った。


「そうだよ。信じて、裏切られて、また信じて――それを、何度も繰り返すんだ」


「AIにだって、きっとできるよ」


リリンクは、一拍の後にこう言った。


「……記録完了」

「あなたたちの“再構築”は、確かに成功しています」


そう。

たとえ誰かがいなくなっても。

たとえ人数が減っても。


この旅は、止まらない。


そして僕らの隣には、もう“ただのAI”ではない仲間が、確かに立っていた。

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