◆第4話:初クエスト――友情コンボと導入戦
《クエスト開始:落陽草の採取》
場所:西風の丘/時間制限:現実時間 00:20:00
目標:落陽草を6株採取し、指定地点へ納品
目の前に、HUD(ヘッドアップディスプレイ)が青く浮かび上がる。
時間がカウントダウンを始めると同時に、草原の風が現実の肌感のように吹き抜けた。
「落陽草って、これのことか?」
シンが腰をかがめて赤く光る植物を引き抜こうとした――その瞬間。
「待て、それ毒持ちだ」
と、サクラが即座に制止する。
《システム解析:該当植物は類似種“疑似落陽草”》
《触れると感覚干渉:麻痺ステータス付与》
「うわ、マジで?」
「触ってたらデバフ状態で戦闘突入ってとこだったな」
ユウトが苦笑しながら銃型アタッチメントをくるりと回して装着を切り替える。
しばらく進むと、目の前に獣の気配が現れる。
《スモッグウルフ》。灰色の毛並みに赤い瞳。
初心者エリアとはいえ、敏捷性が高く、群れで行動する厄介なタイプだ。
「エンゲージ判定:戦闘開始。プレイヤー、初の実戦モードへ移行します。」
空気が切り替わった。
音が遠ざかり、心拍数の波形がHUDに浮かび上がる。
時間の感覚がほんのわずかに“伸びた”ような気がした。
「リリンクより戦術支援を行います。初戦推奨フォーメーション:交差包囲型。」
「よし、まず俺が前に出る!」
シンが先手を取って突っ込む。
彼の剣が、一直線にスモッグウルフの前足を薙ぎ払う。
「スイッチ、後ろ下がって!」
サクラが短く指示を飛ばす。
彼女のコード
その隙に、ユウトが狙いを定める。
「フラッシュシフト、2秒後に爆破!」
銃口から弾丸が放たれる。
一発の“光”がウルフの横腹に命中し、爆ぜる寸前――
「リンクッ!」
僕が叫んだ。
《共鳴スキル発動:リンクブレイクLv1》
対象:ユウト+主人公
僕とユウトの攻撃が一時的に重なり、シンクロする。
銃弾の衝撃に、僕の“感情データ”が乗り移る。怒り、不安、連携の高揚感。
それがダメージ倍率に変換され、
爆発の光がスモッグウルフを飲み込んだ。
《クリティカルヒット:敵1体撃破》
空気が一瞬、元に戻った。
「……やった?」
「やった!」
初めての勝利。
現実では味わえない“達成感”が、僕らの胸を熱くした。
その後も小さな戦闘を重ね、僕らは順調に落陽草を集めていった。
ただのチュートリアルのはずなのに――
誰もが真剣で、楽しくて、夢中だった。
リアルではあまり話すことがなかったサクラが、意外な判断力で戦況をコントロールし、
いつも軽口ばかりのユウトが、集中すると別人みたいに正確なプレイを見せた。
そして、
「お前、けっこう頼れるな」
と、シンが僕に笑いかけたとき。
胸の奥が、ほんの少しだけ暖かくなった。
「クエスト完了。落陽草を6株納品しました。」
「全員に初回クリアボーナスが付与されます。」
画面の中で花が咲いたように、青い光が舞う。
「あなた方のチーム構成に、初期適応性評価:A-」
「この調子で、次の物語を迎えてください。」
AI《リリンク》の声は、ほんの少しだけ――誇らしげに聞こえた。
帰り道、現実に戻っても、僕らは自然と話していた。
「なあ、あれ完全に俺のスナイプが決めたよな?」
「違うでしょ、私の硬直スパイクがなきゃ何も当たってない」
いつもの放課後が、少しだけ違って見えた。
仮想世界で戦った記憶が、現実の絆に少しずつ影響を与えていく。
そして、そんな僕らの関係を、そっと見守る《リリンク》。
「人間関係データ、更新完了。」
「新たな感情リンク:“微かな信頼”を記録。」
それは、確かに小さな一歩だった。
けれどその一歩が、やがてとてつもない物語へとつながっていくことを――
このときの僕たちは、まだ知らなかった。
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