第22話 私の家に泊まればいいんだよ
アップロードを終え、本日分の業務が終了する。
「ふー、やっと終わったー」
「お疲れ、二宮君。窓、換気するね」
一ノ瀬さんは自室のカーテンを開け、窓に手をかけようとした、その時……。
「あ……」
「そっか……」
「ざーーー」と窓の外から強い雨音が聞こえてくる。
「そういえば、今日、先生がそんなこと言っていたな……」
さてぃふぉちゃんねるのことばかり考えていたせいで、先生の忠告を左から右へと受け流してしまった。
しかし、大問題だ。俺は傘を持ってきていない。
つまり、この土砂降りの中を傘無しで帰ることになってしまうわけだが……。
「傘、持ってないの?」
「……誠に遺憾ながら」
「うーん、どうしよっか」
「傘を貸していただくことはできないでしょうか?」
一ノ瀬さんは、「うーん」と天井を見上げ悩んだのち、
「……無いかな」
「そっか」
これだけ広い家なのに、人に貸す傘が無いことに疑問を覚えるが、家主がそう言っているのだから仕方がない。
スマホで天気予報を見ても、朝まで強い雨が続くらしい。
「……濡れたまま帰るしかないか」
「それはダメ! もし、それで風邪ひいちゃったら、申し訳なさすぎるから!」
そんなことを気遣ってくれるなんて、一ノ瀬さんは本当に優しい心を持っているのだな。恥ずかしいから、口に出して言えないけれど。
「でも、どうすれば」
そう尋ねると、一ノ瀬さんはとんでもないことを提案してきた。
「簡単だよ。私の家に泊まればいいんだよ」
「家に泊まる? って…………えええええええええええええええええええ⁉⁉」
「ダメ?」
自分の言ったことが何を意味しているか分からないように、一ノ瀬さんは首をコテンと傾げる。
たまにこの仕草やるんだけど、一ノ瀬さんの可愛い仕草ランキングで確実にベスト3に入るくらいは可愛いんだよなあ。
「ダメというか……カップルでもない男女の高校生が同じ屋根の部屋で寝泊まりって色々ヤバいような……」
「え……なんか変な事考えていない? 二宮君ってもしかして、ヘンタイ?」
「違うよ!」
「でも、そういうことをすぐに考えてしまうあたり、怪しいよね」
「うぐっ……。否定はできない。申し訳ございませんでした」
「それで、泊まるの? 泊まらないの?」
「泊まります」
一瞬で、一ノ瀬さんとお泊まりしたいという欲望に負けた、俺を誰か裁いてくれ。
「じゃあ、私色々準備してくるから、ゆっくりしていってね」
「そんな、ゆっくり実況みたいな言い方で」
「よく気付いたね! 嬉しいよ!」
「お互い動画界に骨の髄まで浸かっていますから」
「それじゃ!」
一ノ瀬さんが部屋から出ていった。
部屋の中には俺一人。女の子の部屋に俺一人が取り残されているってどういう状況?
手持ち無沙汰になったので、訳もなく部屋の中を歩く。
すると、どこからか、一枚の写真がひらひらと俺の目の前に落ちた。
反射的に拾い上げて、その写真を見る。
それは、小学校高学年くらいと思しき集合写真だ。
だが、その集合写真には一ノ瀬さんらしき人は写っていない。
暫く一ノ瀬さんを探していると、右上に切り抜かれた一人の女の子が写っており、それは昔の一ノ瀬さんだった。
彼女は学校を休みがちだったのかな……。
なんて余計な詮索はやめよう。
俺はその写真を見ないことにして、そっと元の場所に戻した。
「トイレ、行きたくなってきたなぁ」
二十分ほど待ちぼうけを食らっていると、トイレに行きたくなってきた。
そういえば、この家に来て三日目になるけど、今までトイレに行く機会無かったな。
一ノ瀬さんはまだ帰ってきそうにないので、一人でトイレを探すことに。
しかし、家が広すぎる。それらしき扉がいくつもある。普通に迷子になってきた。
一階に降り、廊下を歩いていると、それらしき扉を発見した。
「多分、ここだろ」
何の根拠もない謎の自信から、トイレと思ったその扉を開く。
「あっ」
そこはトイレではなく、風呂に繋がる洗面所だった。
そして、そこには風呂から上がったのか、服を着衣している一ノ瀬さんの姿があり――。
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