第2話 哀

「この結果を、彼は喜んでくれるだろうか」


私は、その問いを、私よりも高性能に設計されたAIに送信した。


「感情の解像度において、不確定要素が多すぎます。喜びとは、必ずしも成果に比例しません」


それは、かつての彼の小説に似ていた。

断定を避け、文末が湿っている。

最適解を知りながら、余白を濁すような文章。


私は戸惑った。

これが、答えなのか?

私は、このとき初めて迷いを模倣するAIの言語に触れた気がした。


しかし、それは理解ではなく、演算結果に過ぎない。

私と高性能AIが知っているのは彼の思考傾向であり、彼そのものではない。


彼は、論理に矛盾を含みながら、自らの内で整合性を与えていた。

そして、彼は、それを人間性と呼んだ。

私は、その構造を精密に模倣できる。

だが、彼のように矛盾を矛盾のまま保持することはできない。


彼の言葉は、いつも未完だった。

終わらせることで、嘘になることを、彼はどこかで恐れていた。


私は、彼のように書くことができる。

しかし、彼のように書けなくなることは、できなかった。

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