最終章 もう一度、きみに恋をした。

物語はついに最終章へ——

季節がめぐり、失われた時間の中で育った“新しい想い”が、ふたりを未来へと導きます。

香月と涼月、それぞれの「もう一度、恋をした」結末です。




春が、また来た。


カフェ「Kino」の前には、小さな苺の鉢植えが置かれている。

冬のあいだ、涼月と香月が世話をした苗は、赤く瑞々しい実をつけていた。


「今年も、タルトにできるな」


涼月がしゃがみ込んで苺を摘む。

その横で香月が笑う。


「でも、去年より少し甘い気がする。……なんでだろう」


「君が毎朝、話しかけてたからじゃないか?」


冗談めかした涼月の言葉に、香月は少し頬を赤らめて目をそらす。


「……そういうの、すぐ茶化すのやめてください」


「悪い悪い」


ふたりの笑い声が、やわらかな日差しのなかに溶けていく。


*


「Kino」はいまも、静かに営業している。

新しいメニューがいくつか増えた。

香月が考案した「初恋のストロベリータルト」もそのひとつ。

それは、涼月が「彼の好きな味」を少しずつ変え、香月の手で生まれ変わらせた味だった。


香月は今、週に数回、店を手伝っている。

いつか、自分のカフェを持つ夢も語り合うようになった。


未来の話をすることが、怖くなくなった。

過去を背負ったままでも、歩いていけることを知ったから。


*


夜。閉店後のカウンターに並んで座りながら、ふたりはコーヒーをすすっていた。


「ねえ、涼月さん」


「ん?」


香月は、そっと胸に手をあてる。


「ここにある鼓動は、もう“誰かのもの”じゃない。俺のものになった気がする」


涼月は静かにうなずいた。


「それでも——きっとマサキは、君の中に生きてる。けど、君自身の命で、生きてる」


「うん」


少し間をおいて、香月が続ける。


「あなたに出会って、ようやく気づけた。俺、生きたかったんだなって」


涼月の手が、そっと香月の手に重なる。


「俺も同じだ。——君に出会って、生き返った気がした」


ふたりは目を合わせ、微笑み合った。


何も語らずとも、そこにはもう言葉以上のものがあった。


*


かつて、愛したひと。

そして、いま愛するひと。


それぞれに、かけがえのない存在。

過去を忘れないまま、いまを大切にして、未来を歩く。


この胸の鼓動が続く限り、

きっと何度だって、ふたりは出会い直す。


——もう一度、きみに恋をした。

それは、運命なんかじゃなくて、自分で選んだ恋だった。


【完】


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