九条天馬の異世界宇宙迷走録 〜 超高性能ボディもらっちゃいました 〜

花舎ぴぴ

第1話 はじまり

「はぁ……」


夏休み初日の海岸。

オレは砂浜に首だけ出した状態で、深いため息をついた。


オレは九条天馬くじょう てんま16歳。身長160センチ、体重100キロ。ちょっぴりぽっちゃりな高校一年生だ。高校生活は順調にスタートしたはずだったが、まさかこんな目に遭うとは。


日も暮れかけ、空は赤く染まり始めている。目と鼻の先では波が引いたり寄せたりしている。体は全く動かず、助けを求める声も虚しく波音に消えていった。


「おーい!誰かいませんかぁーっ?」


このまま満潮になったら本当に溺れ死ぬかもしれない。


!こっちには来ないでくださーい!」


……いや、神様にはむしろ助けに来てほしいかもしれない。そんな余裕のある冗談を心の中で考えられたのは、最初の数分だけだった。もともと楽観的なオレでも、さすがに気が重くなってくる。


そもそも、こんな事態になったのは、つい1時間ほど前のことだ。


放課後、高校の近くにある砂浜に、オレはクラスの連中に肩を組まれながら連れてこられた。砂浜には、誰が掘ったのか深さ1メートルほどの穴が開いていた。彼らは「痩せるための修行だよ!」などと適当なことを言いながら、オレに座禅を組ませ、首だけを出した状態で砂に埋めてしまったのだ。


埋まったオレを見てゲラゲラ笑っていた連中は、急に興味を失ったようで、近くを歩いていた女子グループに声をかけながら、どこかへ消えていった。そして、オレは砂浜に取り残されて早1時間。このまま死んだら幽霊になって出てやるぞ……なんて思ってはみたけど、さすがにまだ諦めるには早いだろう。たぶん。


あいつらが戻ってくるとは思えない。自力で脱出するしかない。


「ぐぬぬぬ……」腕も足も、まったく動かない。


しかも、お腹が砂に引っかかっている。埋められたのもこの体型をからかわれたせいなのに、そのせいで今度は本気で危険な目に遭うなんて――理不尽にもほどがある。


「だ、誰かぁーっ!助けてくださぁーい!」砂で胸が圧迫され、声を出すのも難しい。「お〜い…」


ザブーン……チャプチャプ……。


返ってくるのは波の音ばかり。そろそろ日も暮れそうだ。


絶望しかけたその時、遠くでドン!という音が響いた。


「ん?」


視界の端で何かが動いた。もしかして連中が戻ってきた?いや、あいつらがそんな親切なわけがない。でも、誰かが来たのかもしれない。オレは僅かな期待を胸に、動かしづらい首を無理にひねってみた。


そこには砂柱が立ち上り、夕焼け空の下でキラキラと輝いている光景が広がっていた。


「うわ……、なにあれ?」


砂柱の根元に何か黒い影が見えたような気がする。高速で動く物体が、水しぶきと砂埃を巻き散らしながら猛烈なスピードでこちらへ迫ってくる。


「な、なんか来てる!?救助ではないですよね!?」


嫌な予感がする。


いや、間違いない。あれは確実にオレの方に向かってきている。爆速で。


「う、うわぁぁぁぁ!」


火事場の馬鹿力!が出で欲しいが砂の重さで全く体が動かない。


「ぐわぁ〜」


それはあっという間に目の前に迫り、理解が追いつかないまま、オレの意識は途切れた。

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