第4話

「エレノア、次の舞踏会には俺と共に出席してもらう」


「えっ、舞踏会ですか?」


朝の勉強中、突然そう言われて私は固まった。


「まだ日取りは先だが、お前には公の場に慣れてもらわなければならない。王太子妃としての振る舞いも学んでおく必要がある」


「わ、わかりました……!」


そんな大きな行事に、私が出て大丈夫なんだろうか。緊張が一気に高まる。


すると、彼は私の動揺を察したように少し声を和らげた。


「心配するな。何かあれば、俺が隣にいる」


「……え?」


「お前が誰かに何か言われても、俺が全部黙らせる」


その言葉が妙に安心感をくれて、胸の奥がふっとあたたかくなった。


彼の視線はいつも鋭くて、まるで人を拒絶しているみたい。でも、私には時々その奥に、違う感情が見える気がする。


***


その日の午後、庭でのティータイム中。


「殿下って、よくそんなに落ち着いていられますね」


「落ち着いてないように見えるか?」


「うーん……というか、怖いって言われません?」


「昔からよく言われた」


さらっと答える彼に、私は思わず口をすべらせた。


「でも……私は、少しずつわかってきた気がします」


「何がだ?」


「レオンハルト殿下は、冷たい人じゃなくて、不器用なだけなんじゃないかなって」


その瞬間、彼の金色の瞳が少しだけ揺れたように見えた。


「……そんなふうに言われたのは、初めてだ」


一瞬の沈黙。そして、小さく笑った彼の表情は、それまでで一番やわらかいものだった。


「やはり、お前は面白い女だな。俺の見る目に狂いはなかった」


「っ……そ、そんなこと言われたら……照れます……」


思わず目をそらす私に、彼はさらに一歩、距離を詰めてきた。


「もっと俺のことを知れ。そして、俺にもお前を教えろ」


その瞳に映るのが私だけだと気づいた瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。


これは、ただの婚約じゃない。


少しずつ、確実に――恋が始まっている。

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