第20話 スキルを作りましょう。
月の神が世界を淡く照らす。
シロはベッドからそっと置き上がると、銃を背負い二階にある自室の窓から跳んだ。
隣の家の屋根は子熊食堂よりも少し高い位置にあるが、シロは難なく屋根の縁を掴み壁を蹴り屋根の上へとのぼった。
トントントン。考え事をしているシロは兎のように右足を踏み鳴らす。
壁までのルートを決めたシロは、深呼吸をしたのち駆け出した。屋根の上を跳び、街を守る大きな壁の上に辿り着いたかと思えば、躊躇いもなく飛び降りた。
シロが向かった先は森の中の開けた場所。
先日シロとクロが倒した木はそのままの状態で放置されている。
人は来ない場所のようだが、不自然に木が倒れている。片付けた方がいいかなーとシロは腕を組みながら、後ろを着いてきていたやつに声をかけた。
「クロ、この木どうしたらいいと思う?」
声をかけられたクロは大きく口を開けて欠伸をしていた。
眠気が酷いようだがシロの動きに気づいて後を追ってきたらしい。
前科持ちのシロなので、クロは若干トラウマになっている。そんなクロに対しシロは身に覚えがないので不思議そうな顔をした。
「眠いなら帰って寝なよ」
「いんや、うちの大将は見張ってないとダメ」
「なんでよ」
「一人で出掛けたいっていうから、皆屋敷で待ってたのに帰ってきたのは刀だけとか。さすがにキツイと思わね?」
明治維新がなされた世で、クロと仲間達の前に現れたのはシロに助けられたという子どもとその親。
その子どもと親が遥々蝦夷から運んできたものは、シロの愛刀である朱色の鞘が特徴的な打刀。
刀を仲間の元へという言葉のあと、シロの遺体はその場で消えうせた。と子どもの親は涙ながらに語った。
クロは「元の時代にもどったか?」と考えたが、それよりも相棒が目を離した隙に自分の知らないところで死んだという事が信じられなかった。
「気がついたら死んでるとか、二度とごめんだからな」
「あれね、当たり所悪くて」
「あほ」
「あほっていうやつがあほだぞ!」
クロの心配性に拍車がかかったとシロは気づいていたが、自分が悪いので甘んじて心配されようと思った。
そして一人で蝦夷に行った理由は黙っていようと思った。元々墓まで持っていくつもりだったので問題はない。
死んだはずなのに生きていたりしているため、墓に入れないような現状はどうしたものかとは思うが。
今の人生で終わりなのか、また次があるのかは、シロとクロには全くわからなかった。
「次は寿命で死ね、絶対だぞ。俺は二度と喪主をやりたくない、年頃になったら男でも女でもいいから誰か捕まえろ」
「理由が現実的すぎる」
「俺はもう結婚したくないから、次はシロが頑張れ」
「そんな理由で結婚するもんではないんだけど。まぁいいや、考えとく」
今のところ死ぬつもりはないとクロを宥めたシロは「それよりもさー」と目の前にある倒れた木を指さした。
「あの木、片付けたいんだけどどうしたらいいと思う?」
「普通に考えるなら、切り刻んで薪にするくらいか? 魔法銃をくれたじいちゃんみたいに
「それだ、異空間収納のスキルを作ればいい!」
パチンと指を鳴らしたシロにクロは「あれもチートだけど、作れるのかぁ?」と怪しんでいる。
空間魔法。空間とは何だろうとシロは考える。無限の空間に吸い込まれるものが想像しにくい。口の中に消えていく感じだろうか。それとも掃除機か。
シロが悩んでいる間、クロは魔物対策で焚火を始めようと適当な枝と枯草を集めて火をつける。
クロがせっせと作った焚火に向かって、シロは何となく手を向けた。
≪火を、喰え≫
詠唱したシロ。すると焚火の炎が空間に喰われた。
火の明かりが消えあたりは暗くなる。
燃えていた枝や草はそのままの状態でのこっており、燃えていた筈の部分は黒く炭になっている。
「シロぉ?」
「ごめん失敗」
せっかく焚いていた火を消されたクロがシロを睨む。シロは謝りつつ、もう少しでスキルを作れそうだったので意識を手の先に集中させた。
収納、仕舞う。
物体の時間はそのままに、何でも入る空間。目録や検索機能もゲーム画面のようにわかると良いかもしれない。
≪異空間収納≫
シロは自身の手を倒れていた木へ向け、日本語で詠唱する。
シロとクロの視界から木が消え、シロの目の前にはゲームでよく見る道具一覧画面がでてきた。一本の木がイラスト化された様な表示がされているため、文字を読まなくてもどんな物なのか把握しやすい。
船で会った年配男性が使っていた空間魔法は魔法陣があらわれていたが、シロの異空間収納では魔法陣は出なかった。試しに木を元の場所へ取り出してみるが、やはり魔法陣は現れずその場に木が現れるのみだった。
異空間収納の時間経過について確認するため、シロはクロの作った焚火から火がついている枝を二本取り出し、一本は異空間収納へしまう。もう一本はその辺にあった平らな石の上に置いた。
「魔物って焚火怖がるのかな」
「怖がってほしいんだけどな、どうだろうな」
「そういえば、レオンさんとククリさんが貴族がどうとか言ってたじゃん?」
「言ってたなぁ、俺たちの事を引き取るとかも言ってたけど。レオンさんの歳で子ども連れになるのは早いんじゃね?」
「レオンさんって何歳よ」
「わからん。元の俺らよりは下じゃねぇか? しっかし貴族かぁ、この国の貴族はよくわからんけど面倒臭いな。でもなぁ権力者にゃぁ媚び売っとかないとなぁ」
「レオンさんって爵位持ちなんだろうね、人のサンドウィッチを全部食べる人が貴族か……」
「アレはめっちゃ腹減ってただけだと思うぞ」
とりとめのない会話をしながら二人は時間をつぶす。
体感で十分程度はたっただろうと思ったシロは、異空間収納から燃えている枝を取り出してみると火がついたままだった。
石の上に放置していた、異空間収納に入れていない方の枝火は燃え尽きているが、異空間収納へ入れた枝はまだ燃えており、変化もない。
シロが想定し作った通り、異空間収納の中は時間が止まると考えて問題ないだろう。
ついでに無詠唱をためしてみようと、物をジッと見つめ『収納したい』と思うだけで収納されるのか、確認してみることにした。
シロはクロに魔法銃を持たせ、少し離れた位置から魔法銃に対し収納と念じる。
するとクロの手から銃が消えた。目の前に現れた一覧画面を確認すると銃のアイコンが表示されている、問題はなさそうだ。
RPGゲームのような表示画面だがシロの想像できるインベントリが、勇者が魔王を倒しに行く某RPGゲームだっただけだ。そのゲームのイメージを引き継いでしまっているのだろう。人によって画面は異なるのかもしれない、だから収納時や取り出す際に魔法陣も現れなかった可能性もある。
「クロ、異空間収納できたから教えるね」
「おっけ。なぁ空間って共有できないのか? 銃を手渡しするよりも楽だし、いろいろ便利そう」
「出来たら楽だろうけど、私に見せたくないものとかないの?」
「んなもんない。俺は春画を机の上に置いていた男だぞ」
「恥じらいを持て」
クロの希望を聞いたシロは異空間収納に共有欄を増やそうとイメージを膨らます。すると共有というタブが現れた。
こんな簡単にできていいものなのか? とシロは不安になったが、できたものを心配しても意味はない。クロに異空間収納のイメージを伝えたシロは、次のスキルを作ろうと意識を切り替える。
回復魔法も欲しいとシロは考えていたので、回復魔法に関連しそうなものを考える。
医学の勉強はしたこともなく理数系でもない、文系のシロは回復のイメージが掴めなかった。
なので『元の状態に戻す』を想像し≪復元≫と詠唱したところ、自身のスキルの欄に≪復元≫の文字が現れた。作成できたようである。
シロは持っていたナイフで指先を少し傷つけたのち、傷に向かって≪復元≫と詠唱した。
すると指の傷はなくなり、流れた血も消えていた。
動画を巻き戻しているような、経過した時間をなかったことにした感覚は少し気持ち悪さを覚える。どの程度時間経過したものを復元できるのかは現状わからない。
だが傷をなかったことに出来るのはかなり有用だ。それに長時間経ったものを復元する機会はそう簡単に訪れないはず。
正式な回復魔法を覚えるまでは復元を使うしかないだろう。
シロとクロは自分達のステータスを確認する。
知らないものも色々と増えており、創造で作ったものは全てスキルに分類されるらしいことがわかった。創造ではスキルしか作れないということだろう。
調べることは多々があるが、暇なときに少しずつ確認するしかない。
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『シロ』(深山真白)
10歳
Lv:99
HP:9998
MP:9998
◆スキル
剣術:神級 銃術:神級 格闘術:神級 暗殺術:神級 馬術:上級 詐術:上級 鑑定:下級 創造:下級 言語習得:神級 異空間収納:神級 復元:神級
◆魔法
火魔法:下級 水魔法:下級 土魔法:下級 風魔法:下級 光魔法:下級 闇魔法:下級 空間魔法:下級
◆称号
「刀神」「侍大将」「維新の英雄」「紅き修羅」「異世界召喚者」「神のいとし子」
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『クロ』(黒田海斗)
10歳
Lv:98
HP:9988
MP:9988
◆スキル
剣術:神級 銃術:神級 格闘術:神級 暗殺術:神級 馬術:上級 詐術:中級 鑑定:下級 創造:下級 言語習得:神級 異空間収納:神級 復元:神級
◆魔法
火魔法:下級 水魔法:下級 土魔法:下級 風魔法:下級 光魔法:下級 闇魔法:下級 空間魔法:下級
◆称号
「刀神」「侍副大将」「維新の英雄」「蒼き刃」「異世界召喚者」「神のいとし子」
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