第19話塔の奥、語られざる記憶


カイルに導かれ、リオたちは《風読みの塔》の中へと足を踏み入れた。


内部は外観とは違い、きれいに整えられていた。床には魔法陣が描かれ、壁には書物や薬草、魔法の道具がずらりと並んでいる。どれも高位の魔導士が使うようなものばかりだった。


「お、おぉ……これはすごいな……」


ネイルが目を見張りながら呟いた。ミリィはルルを抱きしめてぴったりリオの後ろにくっついている。


「この塔は、かつて風と記憶の神に仕えていた魔導士の研究塔だった。だが、今やその神は忘れ去られ、塔も半ば封印された遺跡になっていた」


カイルが歩きながら説明する。


「……私は、ここを守る者として選ばれた。でも、ここにあるものすべてが理解できるわけじゃない。特に、塔の最奥にある“記憶石”だけは、誰の魔力にも反応しなかった」


カイルは止まり、奥へと続く階段を指さす。


「だが今日、君が現れた。君の魔力は、常識の枠から逸脱している。神話に記されている“根源”のそれに、似ているんだ」


「……それって、つまり?」


「――もしかすると、君はただの転生者ではないのかもしれない、ということだ」


リオは無言で階段を上った。頭の中に浮かぶのは、女神との会話。

“魔力量が異常すぎてスキルを渡せなかった”という言葉。


(それって、こういうことなのか……?)


塔の最上階にたどり着いた時、そこには不思議な空間が広がっていた。


部屋の中央に浮かぶ、透明な結晶――《記憶石》。


それを見た瞬間、リオの中の何かがざわめいた。脳裏に、風の流れる音と、懐かしさにも似た感覚が蘇る。


「この石が、誰にも反応しなかったんだ。だが、試してみてほしい。君の魔力を、少しだけ流してみてくれ」


カイルの言葉に、リオは静かに頷いた。


両手を伸ばし、掌に集中する。

(放出魔力、最低限で……)


青白い光が指先に集まり、静かに記憶石へと流れていく。


――次の瞬間。


部屋全体が揺れた。


「なっ……!?」


ネイルが驚きの声を上げ、ミリィは目を見開く。

ルルがリオの足にしがみついた。


記憶石が脈動し、部屋全体に温かな光が満ちる。そして、リオの頭の中に直接、声が響いた。


《――ようやく、還ってきたか。我が欠片よ》

《時を越え、魂を越えて、汝、今この地に立つ》


リオは額を押さえ、軽く膝をついた。映像のようなものが次々と流れ込んでくる。

空を割る雷。広大な樹の海。光の中に立つ“誰か”。


「リオっ!」


ミリィが駆け寄る。


だが、次の瞬間にはすべての光が収まり、記憶石は沈黙に戻っていた。


「……大丈夫か?」


カイルが慎重に声をかけると、リオは少し頭を振り、立ち上がった。


「なんとか……ちょっとだけ、変な夢を見たような気がする」


「君の魔力に反応したのは間違いない。この塔が目覚めたのは数百年ぶりだ……それだけでも、君の存在が特別だという証拠だ」


「でも、俺は何も分からないし、特別だと思ってない。俺はただの旅人だよ」


リオはそう言って笑った。その笑顔には、確かな意思と、静かな誇りが宿っていた。


「……なるほど。“ただの旅人”ね」


カイルは満足げに頷くと、肩をすくめた。


「君のことを、少しだけ研究させてもらいたいな。もちろん、釣りと休憩の時間は保証するよ」


「じゃあ考えておく。……湖の魚、まだ釣ってないからさ」


リオが軽く笑うと、ルルも「にゃあ!」と鳴いて尻尾を立てた。


静かな塔で交わされた出会い。

それは、世界の“記憶”に触れた、ほんの一歩――


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