第8話小さな選択と冒険者の噂


森を後にしたリオとユズは、再び村へ戻ってきていた。

陽が傾き、夕暮れが村をオレンジ色に染めていく。


「ふう……やっぱり村に戻ると落ち着くな」


「魔法ギルドのレヴァンって人、なんかすごかったね」


「うん。でもなんか……悪い人じゃなさそうだった」


二人と一匹が向かったのは、村の小さな食堂。

リオは薪で炊かれたご飯と野菜スープ、それに焼き魚を頼み、ルル用には特別に小魚を用意してもらった。


「にゃあっ!」


「お前が一番楽しみにしてたんじゃないのか?」


もぐもぐと頬張るルルに、思わず笑いがこぼれる。


そこへ、入り口の扉が勢いよく開いた。

入ってきたのは、見慣れない旅装の男女二人組。

胸元に銀のバッジが光っている。冒険者ギルドのランク証だ。


「……あれは、Bランク冒険者のバッジだよ。珍しいな、こんな村に来るなんて」


ユズがささやいた。

旅人のリオでさえ、村で高ランク冒険者を見かけるのは初めてだった。


「おい、お前ら。ここの村で《魔力異常》があったって噂は本当か?」


声をかけてきたのは、短髪で腕組みをした男性冒険者。

その背後には、魔導書を抱えた女性の姿もある。


「……噂って、どこから?」


「近くの街のギルドに報告が入ってた。森で魔力の波動が跳ね上がったってな。で、そのあと、遺跡が“目覚めた”って話だ」


「確かに……それっぽいのは見た」


「おい、リオ!」


村の食堂の奥から声がかかる。ギルド受付のベテラン女性が手を振っていた。


「こっち来な。アンタ、森にいたんだって? 詳しく教えてくれないかい?」


少し戸惑いながらも、リオは席を立ち、冒険者たちと向かい合った。


「……森の奥で、石のアーチがあって……魔力がうねるような感覚があった。たぶん遺構だと思う」


「なるほどな。こりゃ、面白くなってきたぜ」


男冒険者はニヤリと笑った。


「俺はカイン。こっちは相棒のセリア。調査のためにこの村にしばらく滞在する。よろしくな、小さな旅人さんよ」


「リオです。こっちはルル。俺の友達のユズ」


「にゃー!」



その晩、リオたちは簡単な報告書をギルドに提出し、村の宿で休むことにした。

布団に入っても、リオの頭には一日のできごとが浮かんで離れない。


――あの遺構。あのレヴァンって人。

そして、自分の魔力が“枠を超えている”という言葉。


「俺は……何なんだろうな」


ルルがぴとりと寄り添い、喉を鳴らす。


「にゃ……」


「ま、考えても仕方ないか。今は、旅を続けよう。のんびり、気ままに」


静かな夜が、村を包む。

外ではカエルが鳴き、森の奥では遠くで風が木々を揺らしていた。


新たな出会いは、小さな選択を生み、やがて大きな冒険へとつながっていく。

そのときは、まだ誰も知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る