第7話 武器 探索

 翌日。

 ぼくは、巡航馬車を利用して、再びヴァルバロ・ダンジョンに向かっていた。


「――っと、そろそろだな」


 ぼくは懐から赤色の液体を湛えた瓶を取りだして、中身を一気に飲み干す。 


 これが、ぼくにとっての命綱――昨日雑貨屋でコボルトの魔石と交換して手に入れた『解呪ポーション』だ。

 今のところ、これをきっかり30日スパンで飲むことが、ぼくに許された数少ない【黒死紋】への対処療法だった。


「ふぅ……これで、また30日は命が保証されたな」


 まぁ、まったくそんなことは無いのだけど、とりあえず少し気は楽になる。


 あ、あと当然【HP付与】は自分に試してみたが、【黒死紋】にはなんの影響もなかった。思い立って、腕に傷を付けてみて【HP付与】を掛けてみたけど、傷に薄膜が張る以上の効果はない。


 どうやら【HP付与】が、その真価を発揮するのはあくまで、対象が致命傷を負っている状態――つまり死んでいる時だけらしい。

 ようはHPが負の状態0以下なら、-100とかでも問答無用で、そうなった原因致命傷を修復し、強引に正の状態HP1まで回復できるけど、最初からHPが1以上ある時では“1”ずつしか回復しないというわけだ。

 

「じゃあ、ぼくが死んだ後、自分に【HP付与】をかければ、【黒死紋】も治るってことか! よかったよかった、これで一安心――できるかいッ!」


 ――ダメじゃん!!


 ぼくは頭を抱えたくなった。



 そうこうしている内に、馬車は目的地についた。


「問題は、ぼく1人でどこまで戦えるかだよな……」


 ぼくは、皮鞘にぶちこんで腰に佩いた短剣を見やる。

 新しく買い求めた武器――“黒鉄の短剣”を。


 手で握った重量バランスと、鋭い斬れ味から、これが数打ちの安物とわけが違うことはすぐ分かった。生まれて初めて手にする本物の、実用一点張りの

 今まで使っていた鋳造品のナイフと違って、強靭な鍛造品だし、鋼材も優秀なので、そうそう壊れるなんてことはないだろう。


 これと、食糧や装備を揃えたら、『祝福の実』を売って儲けたぼくの所持金は、ほとんどゼロになってしまった。つまり今回の冒険の成否が、ダイレクトにぼくの進退に影響することになる。が……あまり気にしないことにする。


 ぼくにはもう時間が残されてない。最初手首だけだった腕の痣は、肘まで伸びてきているんだ。急がないと手遅れになってしまうだろう。


 

 ダンジョンの内部に一歩足を踏み入れると、独特の、雰囲気に包まれた。

 久しぶりに1人で来る異空間に少々気圧されそうになりながらも、『世界ダンジョン百景』を頼りに先をすすむ。


 やはりと言うべきか、昨日よりダンジョンの構造が、変化していた。けれどマップの存在は偉大だ。初見では気づけないような最短ルートを、迷わずすいすい進んでいける。

 とは言え過信は禁物だ。

 この『世界ダンジョン百景』は(破片)と補足されているだけあって、端っこのほうに僅かに記載されていない箇所――“ダークゾーン”があるからだ。


 わざわざ、近づく必要はないだろうが、この事実は一応頭の片隅に、入れておいたほうがいいかもしれない。


 そうそう、これが1番大事な事だが『世界ダンジョン百景』には、なんと、ミミックの精確な位置も載っていた。いくつかある宝箱の表記の隣に、赤い文字で補足された“※偽”の表記があるのが多分そうだ。


「もしかして、ミミックってトラップ扱いなのか?」


 疑問に思ったけど、まぁいいかと流す。


 やがて8階層についた。

 その途端、ゴブリンの群れ5匹と出くわす。


「よし、腕試しもかねて武器の性能を計ってみますか」


 ぼくは黒鉄の短剣を、鞘から抜いた。

 

「グギャアアア!!」


 斧やナイフを構えたゴブリン達が、一斉に向かってくる。

 

「――フッ」

 

 ぼくは跳躍した。

 一瞬で距離を詰め、ゴブリン達の間隙を縫い、奴らの背後に立つ。


「ギャ?」


 群れの1体が振り向く。

 途端にそいつの首がポロリと落ちた。

 すれ違いざまに、ぼくが斬っていたからだ。

 

「「「ギャガガガ!!?」」」


 生き残りのゴブリン達が、目に見えて浮き足立つ。

 その隙を逃さずに、ぼくは短剣を乱舞させて、残りのゴブリン達を次々斬り刻んだ。

 初撃と違って、彼我のスピード差は把握したから、まごつくことはない。一瞬でケリをつける。


「よし……1人でも戦えるぞ」


 黒鉄の短剣の血を払い落としながら、ぼくは呟く。

 もうぼくは弱者ではない。


 斬れ味抜群の獲物と、強化したステータスが、ぼくに効果的な殺戮の術をもたらした。


 今のぼくなら、単身“ヤツ”を葬れる。


 ぼくは、ゴブリン共の死体から素材と、首を一つ回収して、さらに奥へと進んでいった。

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