第5話


私は暗闇の中にいた。


重たい瞼をゆっくり開くと、いつも以上に周りが見える。

さっきまでつゆりちゃんと話していた部屋で間違いない。


目の前に、大好きな推しのつゆりちゃんがいる。


「あ、ああああの、わ、私、いったい……」


ああ。つゆりちゃんの声、鈴を転がしたような声で美しい。

なんだが近くで聞こえる。

つゆりちゃんに手を伸ばすと、つゆりちゃんも手を伸ばす。

指の先に硬く冷たい感触。


「あ、あれ?…つゆりちゃん?」


それは大きな鏡だった。

訳も分からず、ペタペタと鏡を触る。

写っているのは、ただただ美しい、黒い服を着たつゆりちゃん。


「…私はこっちだよ。」


振り返るとそこには、

33年間見続けてきた”私”の姿があった。





『 こうして、私は推しと入れ替わる。 』




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